第4話 カレーVSドラゴン(2)


 ブラックドラゴンだと⁉――いきなりの強敵の出現に前言ぜんげん撤回てっかいを試みる俺だったが、ラッシーとパールは信頼の眼差しを向けてくる。


 瞳をキラキラさせ、言い出しにくい雰囲気だ。


(ヤルだけってみるか……)


 肩を落とし、俺は仕方なく丘を駆け下りた。

 正直、俺の使える魔法は『カレー』だけだ。


 あの「オッス! オラ神様!」が俺に与えた能力は『右手からカレーが出る』というモノだった。


ひかえめに言って、最悪です……)


 チート能力でもなんでもない。むしろ、この能力の所為せいで「貴族のあかしである血統魔法が使えない」そんな可能性さえある。


 まあ、なげいても仕方がないので――この15年間――俺はひたすらにカレーの能力をきたえ上げた。結果、分かったことは「イメージが大事」という程度のことだ。


 周囲には『カレー魔法』という事にしているが、インド人もビックリである。

 ちなみにインドには『カレー』という料理は存在していなかった。


 豆が入った『ダール』や野菜が入ったスープ状の料理『サンバル』などはあるのだが、それをカレーとは呼ばないそうだ。


 日本のカレーがイギリスから伝わったことから察するに、イギリスによって植民地化されたことで、インドから影響を受けたのだろう。


 つまり、俺たちが家庭の味として食しているカレーとは「インド風イギリス料理」だ。


 名前の由来もポルトガル人が様々なスパイスを用いて作ったインドの煮込み料理を「カリー」と呼んでいた事に由来するらしい。


(まさか、この能力でドラゴンと戦う事になるとは……)


 半分ヤケクソで、俺は空を舞うブラックドラゴン目掛けて、Lv3のニンジンを発射する。瑞々みずみずしく、えぐ味のない、生でも食べられるニンジンである。


 右手からカレーを出す能力をひたすら練習した俺は、カレーに入るべき具材を、そのまま創り出すことが可能になった。


 ――ドカァーン!


 高速で射出されたニンジンがブラックドラゴンの頭部に直撃する。

 どうやら、上手く頭を吹き飛ばしたようだ。


 やはり、ドラゴンの弱点はニンジンだったか!――という事ではない。


(弱すぎる……)


 最初から、おかしいと思っていた。

 まず、ドラゴンは――この世界において――生物の最強種である。


 同時に希少種でもあった。それがれで――しかも学園の上空に――出現するなど、普通に考えれば国家レベルの大災害だ。


 また、体も小さい。いや、人を乗せて飛行できる飛竜よりも一回りは大きいので「小さい」というのは語弊ごへいがある。


 ただ、一般的に知られているドラゴンにしては小振こぶりだ。

 最初に俺が勘違いしたのも、それが原因だった。


 成体のドラゴンにしてはサイズに違和感がある。


(もしかして、竜の形をした魔法か……)


 恐らく、学園に近づく者を無差別に攻撃する魔法なのだろう。

 羽搏はばたきや咆哮ほうこうまで再現していた。


 俺からすると「バカバカしい」の一言だが、魔人族はムダな演出が好きらしい。

 わざわざドラゴンを偽装ぎそうする辺り、手が込んでいる。


 造形があらいため、まったくってドラゴンには見えないのだが、パールたちにはドラゴンの姿に見えていたようだ。


 優秀なパールが見間違うとは思えないので、幻術系の魔法も掛かっているのかもしれない。カレー魔法を使える俺だからこそ、見破ることが出来たのだろう。


 頭部を失ったドラゴンは墜落し、黒い粒子となって大気へと消えて行く。

 もう安全である――と判断のだろう。


 逃げていた馬車はゆっくりと止まった。


(本来なら声を掛けに行くべきだろうが……)


 ブラックドラゴンが魔法で作られた偽物であった以上、馬車も罠の可能性が出てきた。


 取りえずは、ラッシーとパールが俺のもとへ来るのを待った方が良だそうだ。

 主人である俺が1人で向かうというのも、おかしな話だ――そう考えていると、


「ご主人様、また来ます! わん!」


 とラッシー。大きな声を上げ、学園の方を指差す。

 俺は視線を動かした。


 今度はブラックドラゴンが3頭ほど、こちらへ向かって飛んできている。

 先程より数が多いのは、馬車に乗っている学生よりも、俺の方が格上だと判断したからだろうか?


(俺は手からカレーが出せる普通の魔人族なんだが……)


 そんな言い訳をしても、今は意味がない。

 俺は素早くLv2のニンジンを複数作り出す。


 威力と瑞々みずみずしさは落ちるが、火を通せば美味しく食べられるだろう。

 相手は空を飛ぶエネルギー体だ。数で迎撃する事にした。


 それにこの場合、威力よりも魔力の質が重要になる。

 相手はドラゴンに偽装した魔法そのモノだ。


 単純な力くらべ――と言っていい。つまり、より純度の高い魔法が勝つ。

 最初のドラゴンに対し、俺のニンジンで対処できたことの理由はそれだろう。


 学園による入学試験と考えて良さそうだ。

 一定値以上の純度を保った魔法が使えなければ、入学の資格すらない――


(そんな所か……)


 ――ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!


 風を切って、次々に発射されるニンジン。


 ――ボン! ボン! ボン! ボン! ボン! ボン! ボン! ボン!


 次々にブラックドラゴンへと命中し、爆発する。

 先程は頭部だけを狙った攻撃だったが、今回は跡形もなく消す事にした。


 ゴオオオ――と煙幕が上がったのも演出だろうか?

 やはり、魔人族はムダな演出が好きらしい。


「ワフフフフ! 流石さすがはご主人様です! わん♡」

「フハハハハ! あの程度の相手、カレーを出すまでもありません」


 とラッシーとパール。得意気に胸を張る。

 何故なぜか俺よりもほこらしげだ。


 本当に仕方のない従者じゅうしゃである。コイツら――


バツとして1週間、毎日カレーだな……)

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