第一章 ようこそ魔王学園へ

第3話 カレーVSドラゴン(1)


「おーい、ご主人様ぁー! わんっ♡」


 そう言って、大きな声で俺を呼ぶのは侍女メイド犬の『ラッシー』。

 真っ白な毛並み――いや、白髪青眼の獣魔族ハイビーストだ。


 今は人型をとってはいるが、獣の姿にもなれるお約束キャラである。

 見た目は可愛らしい少女だが、かなり凶悪な部類の魔族だ。


 人型のままでも、その筋力は健在なようで、自分の体積の何倍もある荷物を一人で背負しょっている。また、疲れというモノを一切いっさい感じてはいないようだ。


 先に行って、丘の上を見て来るように指示したのだが――


(あの様子から判断して、大丈夫らしい……)


 いや「早く来い」という事だろうか? なにやら手を振っている。

 俺は隣を歩いている執事の『パール』へ視線を送った。


 こちらは長身ちょうしん痩躯そうくの青年で、穏やかな物腰のイケメンだ。

 特徴的な長くて綺麗な水色の髪は一房にまとめられている。


 屋敷を出る際は、俺がなくなるよりも、彼が出て行くことにガッカリする使用人の方が多かった。当然、女性の使用人だ。


なにかを見付けたようですね」


 とパール。歩き通しで汗ばんでいる俺に対して、汗一つない涼しい顔をしている。

 これがイケメンという生き物なのだろうか?


 俺はラッシーに対して、軽く手を振りながら「そのようだな」とパールに返す。

 侍女や執事ではあるのだが、今の彼らには冒険者の格好をしてもらっている。


 当然、俺も同様だ。貴族の格好では目立って仕方がない。

 旅人がまと外套マントに身を包み、腰には護身用の剣をたずさえている。


 剣術は大して上手うまくはないのだが――


(丸腰よりはマシだろう……)


 俺が異世界へと転生して『カリオ』という名をさずかり、15年の月日が流れた。

 赤ん坊だった時は「どうしたモノか」と思ったが、なんとか無事に成長することが出来たようだ。


 貴族の生まれ――という事も、生き延びることが出来た大きな理由だろう。

 今年16をむかえる俺は、晴れて成人となったワケだ。


 ちなみに年齢で成人するワケではない。

 俺の場合は一族のおさ――つまりは祖父――に認められる事が条件だった。


 どうにも、その辺は曖昧あいまいらしい。庶民の場合は子供ながらに大人と一緒に働くこともあるので、幼少期より大人としてあつかわれる。


 生まれてきた環境によって、大きく左右されるようだ。

 俺たちは今、魔法訓練校でもある通称『魔王学園マギカロギア』へ向けて旅をしていた。


 本来なら馬車や飛竜を使っての移動となるのだが、それらにはおとりになってもらう事にした。学園では次の魔王を決める『選定の儀』がり行われるらしい。


 候補者は学園生――となれば「力のない今の内につぶしておく」のが定石だ。

 特に俺のような特殊な家系はねらわれやすい。


 貴族の家系には、それぞれ血統魔法と呼ばれる固有魔法が存在する。

 その一族にしか使うことの出来ない特殊な魔法だ。


 俺の家系は「死」に関係する魔法が固有魔法に該当する。

 そのまま、即死の効果もあれば、死者を操ることも可能だ。


 ある意味最強だが、魔力が覚醒する幼少期は力が安定しない。

 昔は無邪気に使用人を殺すこともあったそうだ。


 そのため、魔力が安定するまでは目隠しをされ、ほぼ軟禁状態で他人と関わることなく過ごす日々が続く。強すぎる力を持つというのも、なかなかに不便なモノだ。


 身内ですら、その対応なのだから、外部の者はどう思うだろうか?

 答えは簡単である。


 つまりは――そんな厄介やっかいきわまりない魔法の使い手は学園へ辿たどり着く前に始末してしまおう――というワケだ。


 身形みなりや礼儀作法に気をつかう屋敷での生活とは、おさらば出来たのはいいが、すでに命のり取りが始まっていた。


(俺は固有魔法を使えない落ちこぼれなんだが……)


 そんなことを言った所で、誰も信用はしないだろう。

 だが、貴族である以上、学園へ通うのは義務でもある。


 落ちこぼれである俺は「一族の生贄スケープゴートになった」というワケだ。

 表向きは魔王候補として振舞うが、俺の家は穏健派だ。


 祖父の中では、次の魔王を何処どこの家から出すのか、決まっているのだろう。地方貴族が真面まともに魔王を目指すよりも、有力な魔王候補に付いた方が恩恵は大きい。


 俺の役割は、その有力な魔王候補と仲良くなり、取り巻きになる事なのだが――


「さあ、カリオ様の力をもって、愚民どもを従えてやりましょう!」


 フハハハハ!――とパールは笑う。俺よりも余程、魔王っぽい笑い方だ。

 どうにも、俺が魔王になると思ってうたがわないらしい。


 面倒なので、話をらす意味も込め、


「おっ! アレが魔王学園マギカロギアか」


 丘の上へ辿たどり着いた俺は、やや大袈裟おおげさに反応する。

 学園とは名ばかりで、大きな城と都市が存在していた。


 城郭じょうかく都市だ。その上空には黒い鳥がいっぱい飛んでいる。

 カラスだろうか? オオコウモリかもしれない。


 どちらにせよ、不気味な感じがする。

 その一方で――ハスハス!――とラッシー。


 なにがそんなに嬉しいのか、白い尻尾をパタパタとさせ、


「ご主人様の力で、学園を支配するのです! わん♡」


 ワフフフフッ!――と悪い顔で笑う。


(コイツもか……)


 どうやら、従者の人選を間違えたのかもしれない。

 学園を目の前にして、早くも後悔する俺だったが、


「ご主人様、魔物におそわれてるです! わん!」


 とラッシー。またなにかを見付けたようだ。

 学園へ向かう馬車だろうか? 上空を舞っていた黒い鳥におそわれていた。


 つまり生徒が妨害ぼうがいを受けているのだろう。

 助ける義理はないが、知り合いのいない学園生活というのも厄介である。


 ここは助けて恩を売るのも手だ。


「仕方がない、助けてやるか」


 そんな俺の言葉に、


流石さすがはカリオ様! 相手はブラックドラゴンですが、頑張ってください!」

「ご主人様なら余裕です! わん♪」


 パールとラッシーは同様の反応をする。

 手伝う気はないらしい。いや、それよりも――


(ドラゴンだと⁉)

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