第2話 いっちょ転生すっか?(2)


折角せっかく、魔法があるのなら、そっちを使ってみたい」


 俺は要望ようぼうべるフリをして、神様の思考を誘導する。

 あのゲームは「ロマンシング」のシリーズが特別だっただけだ。


「それにレベルが上がると、敵が強くなるんだろう?」


 RPGにおいて、俺の一番苦手とする要素を指摘した。システムやバランスにもよるが、こちらのレベルに合わせて敵が強くなるゲームは、あまり好きではない。


 ボスよりザコが強かったり、装備が弱すぎて先に進めず「み」になったり、敵が自爆技を使うと確実に全滅したりと、ゲームを最初からプレイし直した経験がある。


 勿論もちろん、異世界転生はゲームではない。

 けれど、それゆえに暗黙のルールが存在するのだ。


 基本的に敵はサンドバッグじゃなければならない。

 戦闘も主人公による処刑であって、求められるのは達成感ではなく優越感だ。


「面白さではなく、気持ちよさが優先されないと読まれないぞ」


 と俺は神様に忠告する。

 読者は複雑な設定や重厚なストーリーを求めてはいない。


 魅力的なキャラクターを求めているのだ。

 その辺を理解してないため、ゲーム作品のアニメ化の多くは失敗する。


「どひゃー! 序盤はテンポよく進める必要があるんか!」


 とおどろく神様。更に俺は、


「他にもパロネタをやるのはNGだ。導入部分は出来る限り短くした方がいい」


 そう言って忠告する。


なんだろう? 自分で言っていて胸が痛い……)


「それより、剣と魔法のファンタジー世界以外に転生先はないのか?」


 出来れば、ある程度、快適な暮らしがしたい――と俺は付け加える。

 その日暮らしの冒険者よりも、安定した正社員がいい。


 うーん――神様は少しだけ、悩んだようだが、


「異世界は世界観を自由に設定できるし、読者もゲーム的な世界を求めているからなぁ」


 と告げる。あまりった作品を作っても「ドラゴンノベルスは2巻くらいで打ち切りだぞ」と神様。なら、どうすればいいのか?


 「田中家」や「ニャンゴ」「神猫ミーちゃん」は人気があるようなので、猫を出すのが有効かもしれない。だが、「異邦人」は猫の女神様がたのに打ち切られた。


 ハーレム作品は、お呼びではないのかもしれない。


(なら、仕方がないか……)


 剣と魔法のファンタジー世界で我慢しよう。この神様の場合、下手へたなことを言うと――戦闘力がインフレを起こした――とんでもない世界へ飛ばされる可能性もある。


 わたしの同時視聴者数は53万です――とか言われたら、勝てる気がしない。

 アニメ化の際、前回のあらすじも長かったので勘弁だ。


「まあ、今の世代はWeb小説を読んでいるというより『スマホをながめてるだけ』だからな……」


 脳死で読める方がいい――と俺は付け加える。


「ちゃんと読んでくれねぇのか?」


 神様はショックを受けているようだ。俺は、


「読書感想文をAIで済ます世代だぞ」


 と俺は答える。AIを使った場合、読書感想文の意味はないのだが、成績にそこまで関係する授業でもないのは確かだ。


 まあ、漫画もAIで作成できる時代である。人物の手描きイラスト(ラフ画)を読み込めば、背景付きの線画どころか、着色や作風だって変更可能だ。


 更にアイデア出しをやってくるサイトまである。

 テーマの考案だけではなく、セリフのパターンやキャラクターの名前まで出力してくれるのだから、編集者だってらない。


 加えて、コマ割りや吹き出し、セリフの挿入までAIが行ってくれるツールまである。


「もう、Web小説はやめて、漫画家になった方がいい時代なのかもしれないな」


 そんな俺の言葉に、神様は動揺どうようを隠し切れなくなっている。

 コントローラを落とし、四つんいになった状態で落ち込んだ。


 とんでもない時代なってしまった――とおどろいているのだろう。


「SNSで配信されたら、勝てねぇぞ……」


 と神様。最早、Web小説のライバルはあらゆるコンテンツなのだ。


「まあ、落ち着け」


 そう言って、俺は神様の肩をポンとたたく。


「そりゃ、多くの人間がSNSをやっているけど、ああいう個人情報を発信するのは『陽キャ』か『アレ』な連中で、ほとんどの人は情報なんか発信しないから」


 と弁明しておく。「そうなのか?」と神様。

 顔は認識できないが、なにやらわらにでもすがるような雰囲気だ。


「絵を使う場合は承認欲求を満たしたり、広告として活用するのが目的だろう」


 そんな俺の言葉に神様はホッと胸をろす。

 同時に――トサッ――となにかの本が落ちる。


 どうやら『今時の部下と上手く行かない上司が読むための本』を読んでいたようだ。Z世代に対しての知識を勉強していたらしい。


 これからの転生者は氷河期世代ではなくZ世代である。

 参考にするな――とは言わないが、Z世代といっても範囲が広い。


 業界や職種によっても対応が異なるハズだ。

 きっと、いい歳して、惰性だせいで少年漫画の雑誌を読み続けているのだろう。


 Z世代なら「誰もが承認欲求モンスターだ」とでも思っていそうだ。


「そもそも、フォローするのは自分が好きな分野のインフルエンサーだ」


 俺は安心させるため、経験談を語ることにした。


「自分の好きなことだけを掘り下げ、変な執着を持っているのがZ世代だ。むしろ、選択肢が多いと、読者の行動に抑制をかける」


 勿論もちろん、ソースは俺だ。

 どうしても、星が多い作品やランキングから選んでしまう。


「『選択のパラドックス』を知ってるか? 選択肢が多ければ多いほど『不幸を感じる』っていう心理効果――つまり認知バイアスだ」


 チート能力を得て、目的もなく異世界を冒険することが悪いワケではない。

 異世界転生のWeb小説の場合「起承転結」ではなく「起承承承」と続く。


 また、ストレスフリーというも重要である。Web小説の読者は、隙間時間にスマホを見て、サクサクと読み進めたいのだ。


「そっか、分かったぞ!」


 と神様。迷いが晴れたようだ。

 こうして、俺の転生先が決まったのだった――


(ん? いや、待て!)

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