第44話 名剣の母22/23。

王都に戻ったサンスリーは、否定派の団長とエンタァと言い合うように、わざと悪魔崇拝者のリーダー格にいた娘が大聖堂の生き残り、逃亡者と言っていた事で「奴の証言にあった、自分はネーデルという名前の名剣の母の世話をしていたとな。まずは名剣の母にその女が居たか調べさせろ」と騒ぎ立てる。


確かに25年前にネーデルはいた。

そしてそのネーデルは前団長、聖剣スカイキングを持って任務に出て、聖剣ごと行方がわからなくなった、あの団長の妻だった。


サンスリーは成程とエンタァを見て思っていた。


エンタァは妻のグランディを名剣の母にされ、名剣の父になる事で真価を発揮した。

そして、将来は新たな団長にする。

その為にシーエンペラーを持たせたい。

そんな所だった。


「おのれ、悪魔崇拝者め。前団長の奥方の名を語るとは」


青筋を立てて業腹の団長の横で、副団長は冷静に「他には何か言っていなかったかゲイザー?」と聞いてくる。

冷静というより、サンスリーが知った情報を確かめたい。

顔にはそんな事が書かれていた。


「方法は言わなかったが、仮死状態になったゲインと名乗る娘は、大聖堂から王都を離れた東北の山間部に捨てられたと言っていた。俺にそこに死体の山があれば信じるしかないと言っていた」


サンスリーの言葉に、団長は怪我を押して「第三騎士団員!今からゲイザーが指定した土地に向かう!怪我をしていない待機の団員は私に続け!副団長!留守は任せる!」と言い出して出かけてしまう。


残されたのはサンスリーとエンタァ。

あとは怪我だらけの団員と、顔色を変えた副団長だった。


「エンタァ、お前と怪我人達は休んでろ。俺はまだやれる。仮にゲインがこの機会に攻め込んできても俺なら倒せるし、第一騎士団も来れる。奴らは悪魔や死霊は専門外だが、どの敵にも対応できる」


サンスリーの言葉に抗おうとしたエンタァだが、「いいから寝ろ。疲れを癒して、いい夢でも見ていろ」と言われると大人しくなる。



サンスリーは残った副団長に「ロエンマガカに会えるか?アンタが窓口になるか?」と声をかける。


副団長は部下に指示をした後で、手招きをしながら自分の執務室へとサンスリーを連れていくと「何か?」と聞く。


「まあ、簡単に話すと、俺はゲインが嘘をついていないと思う。ここには逃げ仰る為の裏切者がいるだろう」


副団長は黙ってサンスリーを睨む。

それが答えになっている。


「俺は、とりあえずあの団長と今の立場のエンタァと本部潰しを行いたい。他の奴だと困るな」

「その心は?」

「今日出る死体は本当に大聖堂の世話人だろう。そんなに死体が出るなんて、どれだけ過酷な事をしているんだ?とりあえずあの団長なら責任を取って次の団長をエンタァに任せて辞任しかねない。だが今のエンタァは狂ってる。だがあの戦力は捨てがたい。だから頭にあの団長が居て、部下にエンタァが居て自由に動ける事が望ましい」



サンスリーが言い切ると、背後に来たロエンマガカがまた値踏みするようにサンスリーを見て「貴公の狙いは?」と聞いてきた。


「団長が話の途中で抜けたが、奴らのタノダケ・べナス・ロエンホはまだあるらしい。第三騎士団にある分は上巻、入門編らしい。中巻と下巻も集めたい」

「それは別の団長や、そこの副団長では?」

「ダメだな、エンタァがまだ言う事を聞いていて、俺を信用しているから仕事がしやすい。一定の形が出来上がっている。今のままなら中巻と下巻を手に入れられると信じている」


「ふむ。なんか本音が聞こえてきませんね」

「ああ、アンタならそう言ってくれると思ったよ。俺の要求は『あの団長とエンタァを使いこなしてやる。だから手に入る中巻と下巻の複製は作らせてやるから原本は俺にくれ』だ」


ロエンマガカは嬉しそうにニヤニヤと笑うと、「ほう、それはまた。なぜか聞けるかな?」と聞いてくる。


「何、眉唾半分、実利半分だな。今回ゲインの前で襲いかかってきて戦った、リンフラネトレやイカホツヤクウブだがな、黒色の癖に普段より二段くらい強かった。エンタァの怪我もそれで起きた。あれは恐らく中巻で作られた。中巻を読む事で弱点でも見つけられたら御の字だ」

「それは実利面だね?」

「ああ、眉唾物だが、あのゲインと名乗った娘、俺に様々な魔法を知って新たに魔法を生み出せと言った。だから探究心が眉唾半分だな」


ロエンマガカは嬉しそうに笑うと「結構。我々もあの団長を失いたくないから、助かるよ。実直で伝統ある家の生まれ、現在王都にある唯一の聖剣シーエンペラーの担い手。やはりエンタァ同様に広告塔としては優秀でね」と言う。


「なら落とし所は、悪魔崇拝者が前々から仕込んでいた被害者の遺体。今回王都騎士団はそれを見つけた。聖剣の担い手たる団長と名剣の父エンタァは更に本部壊滅の褒章で受勲式まで執り行う、そんな所か?」

「それがいいね。まあ何かあったら気軽に副団長に言ってくれよ。彼は私の窓口だ」


ロエンマガカは嬉しそうに笑うと帰っていく。


副団長はロエンマガカの心を察して「ゲイザー、キチンと今回の報酬は出す。貴公も受け取ってくれ。そして次回の本部戦にはまた参加して欲しい」と言う。


「ああ、あのゲインと名乗った娘、何を思ってか、これからは本部にも中巻を置くと言っていた。だから参加するしかない。報酬は期待しておく」


サンスリーは話が済むと部屋の外に出る。

すぐに伝令兵が戻り、大量の死体の山を見つけたと言われる。


戻った団長は遺体の着ていた服が騎士団で給仕を行う者が着ていた服だった、サンスリーは正しかったと言ってきたが、サンスリーは「いや、正しかったのはアンタだ。あれは悪魔崇拝者の分断工作だ。いいな?今、第三騎士団を支えられるのはお前しかいない。折れるな」と言って、何も無かった事にしてしまう。


そして中には土に還りかける遺骨もあり、本来なら第三騎士団を疑わなければならないが、あえてエンタァが狂人の設定に則り、グランディの身を案じ大聖堂へ乗り込むと言い出した事で、あれは全て悪魔崇拝者の陰謀で、今まさに乗せられているエンタァを止める形で有耶無耶にしてしまう。

団員や副団長の言うことはきかないのに、団長とサンスリーに従うエンタァ。

これによりサンスリーの有用性が深まる。

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