第45話 名剣の母23/23。

調書も終わり、翌日旅立つサンスリーの前にエンタァが現れる。


珍しく酒瓶とグラスを持ってきて雑談の様相で、サンスリーに懐くエンタァを周りにアピールするには十分だった。


「今回もありがとうゲイザー」

「俺は何もしていない」


「それならそれでいいよ」と言ったエンタァは「サンスリー、それが君の名前らしいね」と聞いてきた。


かつてのシューカシュウのように金を積めば別だが、サンスリーはゲイザーとして生きていて、サンスリーを知られていない。

それなのにエンタァはサンスリーの名を呼んだ。


「エンタァ?」

「ラヴァが『いつもサンスリーがごめんなさい。口下手ですぐに手が出る』と謝っていたんだ。僕がサンスリー?と聞き返すと、ドルテがゲイザーの事だと教えてくれた。とても愛らしい少女達だったよ」


「なに?」

「夢に来てくれてね。茶色が綺麗なロングヘアのラヴァと、黒髪の可愛らしいドルテ」


言っていることは間違いではない。

ラヴァもドルテも容姿はエンタァの言う通りだった。


「今日の酒もドルテに頼まれたんだ。2人とも凄い子供好きで、普段は少しくらい休みたいと言ってボヤくグランディが、ヤキモチを妬くくらいランディに付きっきりなんだ。僕が料理をしてもてなしても『それは今度ね!今はランディだよ!ね!?ラヴァ!』とドルテが言い、ラヴァは静かに頷いて、優しい微笑みでランディを抱っこしているんだ」


サンスリーはため息の後で「ドルテ」と声をかけると、ドルテが現れて「にへへ、行ってきたよ。行けたよゲイザー!ランディってすごい可愛いんだよ」と話しかけてくる。


「なぜ行けたのに黙ってる?」

「ビックリさせたくて!」


サンスリーはため息の後で、エンタァに「俺を驚かせたくて黙っていたそうだ。キチンと行けたらしい」と告げると、エンタァは「良かった。これまでの全ては僕の夢じゃなかった」と涙ながらに言った。


「ラヴァも行けたのか?」

「んー…、私が手を引くとね。サシュ達もスィンシーも単独じゃ無理みたい。後はスィンシーは行きたいけど、相性みたいなものがあって、ランディに良くなさそうだから我慢してるよ」


サンスリーはスィンシーを出してエンタァに告げると、エンタァは「残念だよスィンシー。ランディを弟代わりに可愛がってもらいたかったよ」と言った。


コップの酒を飲み干したエンタァは「ゲイザー、ひとつ聞かせてくれ」と言った。


「だいたい想像は付いている。言ってみろ」

「君はあのゲインの言った死者蘇生をどう思う?全てのタノダケ・べナス・ロエンホを手に入れて、死者蘇生魔法を生み出せたらどうする?」


サンスリーは聞かれると思っていたし、すでに自分の中に答えは出ていた。


「仮に、生み出せたとしよう。そしてそれを行えば、既に遺体のないドルテを蘇らせられるとする。だがそれはドルテか?本当にドルテで、生前と何ら変わらないドルテなのか?」

「ゲイザー?それはドルテではないのか?」

「仮に見た目も声もドルテだとして、このドルテが変わらず呼べたらどうなる?」


サンスリーはまたファミリアのドルテを呼び出して見せる。


「そ…、それはファミリア?」

「何を言う?お前も会ったのだろう?夢に来た少女がドルテだ。違っていたら殺すのか?ドルテではないと、逆にファミリアのドルテを家族ではなく道具扱いして無視するのか?」


何も言えなくなるエンタァは逃げるようにコップに酒を注ぎ、煽るようにそれを飲み干す。


「だが!」

「それに作れもしないものを作れると言われて、エンタァから『お前ならやれる』『諦めるな』なんてプレッシャーをかけられるのもゴメンだ」


この言葉に、一度項垂れたエンタァは礼を言って立ち上がると「とりあえずタノダケ・べナス・ロエンホを完成させよう。話はそれからもう一度させてくれ」と言って扉に向かう。


「なら、お前はそれまでに、それが正しい事かを考えておけ。仮にグランディとランディを生み出せたとして、お前の左目、その左目が見せる夢は本物だった。それをどうする?不要だと切り捨てるのか?何が正しいか考えるんだ」


サンスリーはそう言ってエンタァを見送った。


サンスリーは「やれやれ」と言い、この先について少しだけ思案していた。

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