第43話 名剣の母21/23。
地上に戻ったサンスリーを待っていたのは、傷だらけの団員達と、大怪我をしたエンタァだった。
「やぁ、ゲイザー…無事だったんだな?」
「お前はボロボロじゃないか、何をしくじった?」
「あはは、あのリンフラネトレ、イカホツヤクウブ並に強くて、大岩を一度貰ったよ」
大の字で寝転がって笑うエンタァに頭を抱えた団長が、「ゲイザー、君からも言ってくれ」と言われて話を聞くと、サンスリーは頭を抱えて「エンタァ、バカな真似はよせ」と注意する。
注意もしたくなる。
エンタァは「僕は名剣の父、ランディに危ない真似なんてさせられないよ」と言って、何がなんでも名剣を使わない。あの強化されたリンフラネトレ相手でも支給品の剣のみで戦い、リンフラネトレが得意とする、生み出した大岩を飛ばしてくる攻撃にしても、普通の剣では防ぎきれずに腕に直撃する羽目になる。
「僕はまだまだだ、ゲイザーなら安物の剣でも切れるんだよね?前に第二騎士団の人達が言っていたよ」なんて笑いながら、目は名剣のランディを慈しむように見て、「あんな危ない目に遭わせられない」と呟く。
更に頭を抱えるのは、先に負傷してしまった団長が「ならばシーエンペラーに持ち替えろ!使用許可を出す!」と言ったのだが、「団長?僕は名剣の父です。聖剣を持たせて、僕とランディを引き離す真似はさせませんよ」と言って、緊急時の対応すら拒む。
サンスリーは大の字になるエンタァの胸ぐらを掴むと、「少し連れて行く」と言ってエンタァを連れて物陰へと行き「1発殴らせろ、話はそれからだ」と言ってエンタァを殴る。
そしてまた消音魔法で声が漏れないようにすると、「さっきも言ったが、あの団長を失うと、お前とグランディ、ランディの仲が副団長の手で引き離されかねんぞ。あの場では素直に従え、嫌なら鍛えてあんな事にならなくしろ」と言う。
「詳しくは王都に戻ってからだが、あの女、大聖堂の生き残りだ」
殴られても涼しい顔だったエンタァの顔つきが変わってサンスリーを見る。
「落とし所を用意してきたから乗る。だが、下手に奴の言った話、意識が残っていて、奴を救った名剣の母の名前を出せば、現存する名剣の母たちの命が危ぶまれる。名前は出すがうまくやる。お前は道化になれ。俺が騒いでも団長と同じ、用意された剣を息子と名付けて傷だらけになる変人でいろ」
「わかった。奴の言っていたタノダケ・べナス・ロエンホは?」
「去年、本部で俺が密かに入手した、一度、大聖堂の中で話したがお前が聞いていなかっただけだ。だがアレは、本部に置かれた特別な記載のあったタノダケ・べナス・ロエンホは、奴らで言うところの中巻フォロエト、入門編の次にあたるらしい。今後、どこかの本部に一冊作らせるから、好きに手に入れろと言われた。だから俺の分は聞かなかった事にしろ」
納得して頷くエンタァに、「どこだか知らないが、奴らの本拠地に下巻もあるらしい。恐らくあの強化個体はそこから生まれたのだろうが、あえて今回の報告には、中巻から生まれたと思うとしておく」と説明して話は終わった。
顔を腫らしたエンタァは「ゲイザーに怒られて目を覚ましました」と団長に謝り、団長は「本当に気をつけてくれ、エンタァは私亡き後、シーエンペラーを受け継ぐ団長候補なのだからな」と言っていて、ロエンマガカか誰かわからないが、大聖堂のグランディを餌にして、エンタァを使い潰す予定なのが見て取れて、益々団長を失えないとなった。
団長はサンスリーの報告を、悪魔崇拝者の悪質なデマ、内部分裂を狙った卑怯な手口と一蹴する。
「俺もその線が強いと思っている。だが、虚実を混ぜている場合がある。全てを疑い、全てを確認だ」
サンスリーは言葉巧みに、中巻フォロエトの名前を出して、今回の最後に現れた悪魔、そしてあの悪魔を使役したゲインという娘の名前を使い、「アレで生み出された悪魔は強力だ。フォロエトを手に入れて、対策を練る必要がある」と言ってひとまず落ち着かせた。
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