第42話 名剣の母20/23。

ゲインの説明を聞いたサンスリーは、「成程な」と口にする。

ゲインはニコニコと笑顔を絶やさない。


「それでお前は悪魔崇拝者に接触して手を結ぶ。万命共有に関しては、思いの外、名剣の消費が激しく、大聖堂を出る頃には命の底が見えていた」


サンスリーの見解に首を横に振るゲイン。


「違いますよサンスリー。話はもっとシンプルです」

「何?」


ゴミ捨て場、深く掘られた穴に捨てられたゲインだが、運は味方していた。


「もうすぐこの穴も埋まるから次のを掘らないとな」


そう言われてしまう程に穴は死体で埋まりつつあった。

上の方に入れられたゲインは事もなく外に出られる。

自身を捨てたのは王都の人間だったが、翌朝来たのは悪魔崇拝者達で、「どうだ?」、「今回も良質だ。この死を持ち帰り、素体に入れれば強力なイカホツヤクウブにもなるかも知れないな」、「死体を素体にする案はどうなったんだ?」、「教主様の中止指示で止まっている。世の中の死体全てがカタイニョでもいいからなってくれたらいいのだがな、だが死体は通常よりも見境がない。今は悪魔に言うことを聞かせる研究の方が大切だ」なんて会話をしていた。


そこに出て行ったゲインは保護を求める。

自分は大聖堂から逃げ延びた存在だと言い、悪魔崇拝者に参加したいと告げた。


「その直後は流石に驚きました。悪魔崇拝者達は「知っている」と言うのですよ」


ゲインを見て笑った悪魔崇拝者達は「そんな事は知っている」、「だが生き残って逃げ出した奴がいるのには驚いた」と言うと、「俺達は第三騎士団の依頼で遺体処理、再利用を頼まれてやっている」と言った。


「全て、裏で繋がっていました。サンスリー、どこかでそんな予感はありませんでしたか?」

「ああ、あったな。いくら倒しても無くならない悪魔崇拝者。奴らがいれば王都第三騎士団は安泰だ」


ゲインは微笑み首を傾げながら「ええ、ロエンマガカは確実に自分の地位を守れますね」と言った。

各地の権力者すら知らないロエンマガカの存在を知るゲイン。


「悪魔崇拝者のボスはロエンマガカか?」

「いえ、あんな強欲の権化ではありません。まあ、彼は自分が第三騎士団も、我々も掌握していると誤認しているでしょうけど違いますよ」


「万命共有を再度かけたのはいつだ?」

「すぐです。あの万命共有は大聖堂にいる人間ではなく、あそこで世話人をする精通と初潮を迎えた15歳以上の子供全員にかけられています。外に出ても私の命はすぐに尽きます。なので、何がなんでも生き残る為に強くなって、解魔法で無効化してすぐに万命共有で信者達と繋がるようになりました」


話は終わりだろう。

まだゲインには秘密もあるが、今日話すとは思えない。


「終わりか?」

「ええ、やはり頭の良い方と話すと楽ですね。やはり惚れてしまいそうですよサンスリー」


「だから、見た目が違いすぎる」と返すサンスリーに、「今日の落とし所です。私の存在、母様の名前を出して、過去の履歴を追うようにして、大聖堂の生き残りが悪魔崇拝者になっていたと伝えてください」と言った。


「それがいいか」

「はい」


「これからも支部と本部を潰すだろうが、いいのか?」

「願ったり叶ったりです」


「サンスリー、最後にもう一つだけ話しましょう。上のリンフラネトレは最後の子が間もなく殺されてしまいます。私は今も見えています。意識すれば見えるんです。そういう魔法があります」

「ほう、知らない魔法だ」


「それは我々の仲間になった子達、洗礼の時に渡したネックレスを身につけて、私と万命共有をした子達。まあ、厳密には万命共有ではないので、彼らの死は私には影響しません。するとしても私の命を支える子が1人消えてしまったくらいです」


その説明通りなら片道の万命共有が存在し、信者を殺してもゲインには何の影響もない。

それこそ権力者が聞いたら飛んで喜びそうな魔法だった。


「その子達の心が乱れると、私には情景が届きます。それで私はあなたの事を知ったのです。最近では、儀式に失敗し命の潰える子が家族を求めた時も、権力者の館でその師と対峙した時も、本部がひとつ失われた時も、ありがとうございますサンスリー」


ゲインは笑顔でサンスリーに感謝を伝えてくるが、サンスリーには思い当たる節はない。


「何がだ?」

「あの本部の子達は志はあっても心はなかった。我々には相応しくない」


「何がだ?」

「あの、手足を奪われ、サンスリーの手でカタイニョになった女性。確かに彼女は薬物で壊されていて、常に発狂の危険もあった。だけどそれを晴らすのは手でも淫具でも構わない。それなのに、あの本部の子達は何かと言い訳をつけ、自身の欲望をぶつけた。本部が襲撃された時も死ぬ前になんて言って腰を振るって精を放つ。そんな信者は死んで当然です」


視覚情報まで手に入る。

スィンシーの事も知り、全てを見通し、悪魔達の上位種として言うことを聞かせるゲイン。

酷いものだと思った。


「ここまで聞いたが、俺は関わらない事も選べるが?」

「ええ、だからサンスリーが喜ぶ贈り物を用意しました」


ゲインが幼い顔で淫靡に笑うと「タノダケ・べナス・ロエンホ」と言う。


「あれ、本来は総称なんです。本部に置かれているのは上巻、入門編、我々の中ではノベロエルと呼ばれます。中巻、フォロエトを今後どこかの本部に複製を作るように授けます。そこにはもう少し踏み込んだ魔法と、サンスリー、あなたが持った資料が書かれています。資料には興味がなくても、魔法でしたらどうでしょうか?そして下巻、ガカイロエは本拠地にあります。その魔法を得たらサンスリーなら何をするでしょう?」


サンスリーは眉をひそめキチンとゲインの言葉を注意深く聞いていく。


「スレイブ魔法の解除?それとも…」


ゲインはニヤリと笑うと「死者蘇生?」と言った。


「何?」

「いえ、ガカイロエにその魔法はありません。ただ、魔法学を用いて、世の魔法に触れると、案外規則性はあり、組み合わせると新しい魔法になる。今私を現世に繋ぐものも自作の魔法です。サンスリーならきっと不可能を可能にする。でもきっとここでそれを言って誘ってもあなたは来ない。だから来たくなるように話を持っていきます」


ゲインは上を見て「流石はシーエンペラー。ここまでですね。サンスリー、あの団長は使いやすいので団長でいて貰いましょうね」と言うとイカホツヤクウブの肩に乗って裏口から走り去って行った。


わずか数分後、降りてきた団長に、「すまない逃げられた」とサンスリーは謝ると、「何を言う!1人で5体のイカホツヤクウブだろう!?」と聞かれて、「奴は倒せなかった個体に乗って逃げて行った」と答えておいた。

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