第41話 名剣の母19/23。

ゲインが大聖堂の生き残りと名乗った。流石に想定外だった言葉にサンスリーが「何!?」と驚くと、ゲインは「ふふ。驚きますよね。帰ったらリストを見るといいです。25年くらい前の名剣の母に「ネーデル」という名の方がいます。私はその方のお陰で生き延びました」と懐かしむような顔で言った。


かつて、第三騎士団に居たネーデルは名剣の母に選ばれると、グランディのように大聖堂に入れられる。


本人の特異体質もあったが、薬物耐性が強く、薬物を併用する洗脳魔法の効きが悪かった。

酩酊こそしたが、意識のあったネーデルは胎児を名剣にされて奪われてしまった事を理解していた。

怒りと恨み。


元々用心深い性質で、仮に悪魔崇拝者達に捕まってもいいように、誰にも言わずに自死可能な毒物を、訓練中に折れた奥歯に仕込んでいた。

それを用いて自身の始末をつけようとしたある日、世話人の孤児達が念入りにネーデル達、名剣の母の世話をしていて、固まった身体をマッサージでほぐし、食事の必要もないのに、薬物入りの食事を根気強く口に運び嚥下させる。

垂れ流される老廃物も丁寧に処理する中、一番大きく、涙ながらに世話をするゲインに小さく声をかけた。


本来なら、上で食材を搬入する兵士に異常を伝える事になっていたが、この時のゲインは初潮を迎え、15歳を過ぎて名剣の維持の為に生贄にされる事が理解できていて、世を儚んでいたので異常を伝えずに、ネーデルを話し相手にして、何が起きているのか、これからどうなるのかを話した。


ゲインは儀式の手伝いもしていたので、ネーデルに何をしたかを説明し、名剣に変えられた胎児と自身が万命共有されている事、名剣とその母の維持に一定の年齢を迎えた孤児達が使われる事を説明する。


ネーデルは酩酊状態の中でも怒りをあらわにし、やるべき事がわかったと言った。


「そうしてネーデルは私に自身を母と呼ぶように言ってくれた。母様は私にある仕事をくださったのです」

「それは?」

「あら、サンスリーならわかると思ったのですけど?」

「確証がない事は言わない」


ゲインは嬉しそうに笑うと、ネーデルの指示を説明し始めた。


「手始めは裏口の作成。そして、母様は博識でしたの。悪魔の生贄魔法と胎児を剣にした物質変換魔法が同じものではないかと考えていて、生き延びたら、大聖堂を逃げ出した事を明かして悪魔崇拝者に接触するように言われました」


「成程、おおかたお前は隠し通路を用意して、ネーデルの毒を用いて仮死状態になり、死んだ生贄として外に出る。そして埋葬現場から逃亡して悪魔崇拝者に接近をした」


サンスリーの見解に「惜しいですわね。まあ情報が足りませんものね」と微笑むゲイン。


「まず、隠し通路は当たりですがハズレです。あれは元々あったものを見つけました」

「なに?」

「初潮を迎えた歳の子供にあそこまでの隠し通路は作れませんよサンスリー。母様の願い、その一つは奥歯の毒を半分こして、母様も死に、私を仮死状態にして逃す事。グランディとは違い、母様は奪われた子供の死を願いました」


それも仕方ない。

剣にされたとはいえ、子の為に存命や延命を選ぶ親もいれば、尊厳の為に死を選ぶ親もいる。


「私のゲインという名前も剣にされた子を息子と確信しての名前だそうです。母様が付けてくれました。私は隠し通路を見つけた事を母様に伝えます」


ゲインの言葉にネーデルは感謝を言葉にし、「ゲイン、あなたは一滴、残りを私に飲ませなさい。私は薬に強いせいで、今すぐ死ねなくても、確実に命は縮む。私の赤ちゃんを振るう奴が下手な扱いをしたら赤ちゃんは死ぬ。そしたら私も死ぬ。本望よ」と言う。


「でも、中途半端な助けでごめんなさいゲイン」

「母様、そんな事ないです」

「ふふ、あなたに母様と呼んでもらえるたびに生きていて良かった、薬物に強い身体はこの為だったと思えた。嬉しい。さあ、あなたの万命共有も始まっている。第三騎士団では名剣で障壁破りの訓練もしている。いつどうなってもおかしくない。早くここから逃げなさい」


ゲインはネーデルの奥歯の毒を取ると一滴を自分で飲み、残りをネーデルに飲ませる。


「さようなら母様」

「ええ、さようならゲイン」


薬の効果はすぐに出た。

ゲインは怪しまれないように階段の途中で倒れ込む。

それを見つけた生贄の孤児が大人に報告すると、裏口から外に連れ出されて、夜中に処理作業を行う連中の荷車に載せられて王都の先、人里離れたゴミ捨て場のような場所に連れられて行った。

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