第40話 名剣の母18/23。
この状況は初めてだった。
身構えるサンスリーとエンタァを見て、微笑んだ少女は「ようこそおいでくださいました。はじめまして、ゲイザー、エンタァ」と挨拶をしてくる。
知られている。
エンタァは有名人だが、なるべくひっそりと隠れていたサンスリーが眉をひそめると、「時間稼ぎをしましょう」と言った少女が手を上げる。
5人のうち、4人の悪魔崇拝者はリンフラネトレへと変貌した。
だがリンフラネトレは大人しく少女の側に立ち尽くしていて動かない。
「ふふ。この子達は上位種の言う事は聞くんですよ」
上位種という言葉が気になったが、今はそうではない。
「ゲイザー、あなたと話がしたいんです。私はゲイン。エンタァ、あなたは4体のリンフラネトレと戦ってください。ゲイザーにはイカホツヤクウブです」
サンスリーは冷静に「俺なら1人で全て倒せる。エンタァがその間にお前を取り押さえる事も可能だが?」と言って距離をはかる。
「そうですね。ですが、それはそれ。この申し出を受けてくれれば私の事を少しだけお話しします。一度に全部は話しません」
少女は含みのある笑顔で「ほら、あなたが見つけたタノダケ・べナス・ロエンホを書いたのは私で、あれはまだ上巻でしかない話とか、気になりませんか?」と聞いてきた。
「ゲイザー?タノダケ・べナス・ロエンホ?」
サンスリーは少し面倒くさいと感じる中、ゲインが「ああ、タノダケ・べナス・ロエンホとは伝えなかったのですね?生贄魔法は物質変換魔法だと書いた資料のことですよ。エンタァ」と説明してしまう。
「成程、少しわかった。で、ゲイザー?君は俺には話してくれるか?」
「わかった。リンフラネトレを頼む」
「ふふ。やはり優秀な方と話すのは楽チンでいいですね。キチンと皆が取るべき行動を取ってくれます。エンタァ、あなたはこれから走って外を目指すリンフラネトレを倒してください。全滅させてはダメですよ。外までに倒しても1体だけです。そして外でゲイザーの事を聞かれたら2体のイカホツヤクウブを受け持ってくれていると話してください。話はその間に終わります」
「2体?」
「ええ、もう来ますよ」
ゲインの言葉と共に裏の隠し通路から新たなイカホツヤクウブがやって来るとゲインの横で待機する。
「行動開始です」と言ったゲインの言葉に合わせて、リンフラネトレはエンタァとゲイザーを無視して地上を目指す。
エンタァはその後ろを追いかけて走る。
完全に後ろ姿が見えなくなるとゲインが前に出る。
「さあ、先に話しますか?それともイカホツヤクウブを1体だけ倒しますか?」
「なぜ1体だ?2体を差し向けてこないのか?」
真横のイカホツヤクウブの頭を撫でたゲインは「この子は私の逃走用です。計4体のイカホツヤクウブを受け持ったサンスリーは疲労困憊で私を追えません。キチンと周りへの説明にもなります」と言ってサンスリーを見る。
ゲインはサンスリーをサンスリーと呼んだ。下調べは済んでいる。
サンスリーは「なら倒す」と言うと、ゲインが差し向けてきたイカホツヤクウブは今までのものよりも強力な個体だった。
隠し球のグランドカイザーは持ち出さないが。それでも苦戦を強いられ、支給された一級品の剣も刃こぼれしてしまう。
サンスリーは早くゲインから話を聞きたくて、スィンシーとラヴァを本気で放ってしまう。
倒したイカホツヤクウブを見て、ゲインは「サンスリーは早過ぎですね。惚れてしまいそうです」と言った。
「やめておけ、親子程の歳の差だぞ」
「いえ、私とサンスリーの年はそんなに離れていませんよ」
だがどう見ても歳の差は歴然で、ゲインは下手をしたらドルテよりも、介錯した時のラヴァに近い見た目をしていた。
「ふふ。私の時はもうずっと前に止まりました。今は信者達の命で繋いでいます」
「万命共有か?」
「それ以外も使っています。なので話を聞いたら解魔法なんて無粋な真似はしないでくださいね」
ゲインは「私の名前は偽名なので調べようもありません。そうですね、わかりやすく言えば大聖堂の生き残りです。あ、神官達やシスターの赴く大聖堂ではなく、第三騎士団の敷地にある大聖堂の生き残りです」と名乗って微笑んだ。
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