第39話 名剣の母17/23。
翌朝、悪魔崇拝者達の本部に乗り込む時、ようやく2人きりになれたサンスリーは「どうだ?」と声をかけると、「悪くない」と返したエンタァは二刀流になっていた。
だがそれは人の目がある間だけで、すぐに名剣を鞘に戻して、普通の剣で悪魔崇拝者達を斬り殺していく。
「やっと2人だ。挨拶がまだだったな。息子のランディだ。よろしくなゲイザー」
エンタァは名剣を見せるように言うと、話をしたいサンスリーはドルテとレンズを出して皆殺しを命じる。
「ランディ?名付けたのか?」
「ああ、グランディと2人で名付けた」
悪魔崇拝者を斬り殺しながら恍惚の顔を見せるエンタァは、第三騎士団の格好をしていなければ異常者にしか見えない。
「ゲイザー、感謝しているよ」
「何がだ?その努力はお前の賜物だろう?」
「いや、まず一番に伝えたかったのはランディの名前。そして聞かせたかったのはこの左目…グランディの事だ」
ここ一番で話を聞きたいのに、悪魔崇拝者達も逃げ出すのではなく迎撃体制が整い、次々と悪魔化して襲いかかってくる。
「ちっ!邪魔だ。スィンシー!任せた!すまない!ラヴァ!蹴散らしてくれ!」
二個のファミリアを追加したサンスリーはエンタァを見た時、エンタァは名剣に持ち替えずに目の前のカタイニョを圧倒している。
正常な戦い方には到底見えない。
だが、キチンと的確にカタイニョを傷つけて滅ぼしてしまう。
「ファミリアにやらせる。話をしろ、左目がどうした?」
「ああ、流石はゲイザーだ。今日は怪我も少なそうだ」
エンタァは愛しむように左目に手を置いて「会えるんだよゲイザー」と呟く。
「夜眠ると、グランディの夢を見るんだ。違うな、グランディの見ている夢を僕が見るんだ。初めの頃は名剣の母に選ばれて、それを言いに来た副団長とロエンマガカに連れられて大聖堂に連れて行かれる夢、上層で清めの薬と騙されて、洗脳の薬物を飲まされてしまう夢で、副団長とロエンマガカを殺してやりたくなった」
第三騎士団員を貶める言葉を使えるエンタァは、「ああ、唯一の苦労は本音が漏れないように心を殺す訓練だな。心の底から殺してやりたいのに、副団長に愛想笑いをして、恭しく返事をしなければならないんだ」と言って笑う。
「話を戻すと、次の夢はグランディから聞いたことがある、彼女の生家だと思うんだ。彼女は名剣の母の仕事をしていないで、そこで僕と暮らす。夢のグランディはもうお腹が大きいんだ。多分、ランディを奪われる事をわかっている。だからお腹が大きい。僕はなんとかグランディを鏡や水場に行くように念じてしまう。鏡の前に立つと、グランディの姿が見えるんだ。見ているのは彼女が見た夢だからね。変わらない笑顔のグランディが生家で僕と暮らしている」
エンタァは事もなく話すが、今も悪魔は群をなしてくる。
ラヴァとスィンシーだけでは持て余す部分を普通の剣で圧倒している。
その顔は笑顔のままだった。
「僕は夢の世界にいたいのを我慢して訓練を急いだ。あのお腹を見れば、出産はもう間近だった。鍛えたよ。僕は弱かったからね。人の3倍は鍛えた。そして全ての団員を蹴散らして部隊長になる事でランディの担い手になった。夢の中ではランディの出産にも立ち会ったよ。僕はグランディの目線で、僕がグランディの手を握って、必死に応援している。そして生まれてきたのは男の子で、夢の中の僕はグランディと話すんだ。そして名前をグランディから貰ってランディにした。本当はグランディとゲイザー、2人から貰ってグランデゲイザーにしたかったが、夢の中でグランディに笑われたよ。聖剣グランドカイザーにあやかるなとね」
サンスリーもそれには「やめてくれ。折角の子供が悪人に育つ」と返す。
「ふふ。相変わらず君らしい返しだ。子供の成長は本当に早い。離乳食を食べて掴まり立ちまでする。この前なんてグランディをママと呼んでいた。パパはまだ言ってくれないんだ。僕がまだまだ頼りないからかな?」
エンタァは本来の左目の持ち主が見る夢を見れている。
そこでは恥ずかしそうに「夫婦の営みもあるんだ。僕が覆い被さってくるのは気持ちが萎えてしまうが、グランディの嬉しそうな声を聞くと、営みが待ち遠しくもなる。最近では強く思うと夢に介入できるようになっていて、俯瞰でそれを見れる。夢の中で今も僕たちは愛し合っている」と言ったエンタァは笑顔のまま泣いていた。
「わかった。俺からはひとつだけだ。あの団長は神輿で、黒幕は副団長だ。団長を殺させるな。団長が死ねば副団長がお前とランディを引き離しかねない」
「わかってるさゲイザー、あのタヌキ、何度か僕を試してきた。多分確証がないから何もしてこないだけだ」
本当にこの一年で頼もしくなった。
ゲイザーはエンタァの一年に報いるように、一瞬ラヴァを呼び戻すと「これがお前とグランディのような相手だ」と紹介する。
「名前は?」
「…あまり言いたくないが…言うか、ラヴァだ」
「はじめましてラヴァ。僕はエンタァ。この左目は妻のグランディ、この剣は僕の息子のランディだよ。良かったら夢に遊びにきてくれ」
その時、勝手に赤い光が戻ると「ゲイザー!私は!?私も紹介してよ!」と言ってくる。
サンスリーは呆れ顔で肩を落とすと、「エンタァ、コイツも紹介させてくれ。ドルテだ。元々スレイブ使いだったからか、いう事は聞かないし、俺にしか聞こえないが話しかけてくる。俺に名剣の危険性を伝えてくれたのもドルテだ」と紹介する。
「やあドルテ。君もぜひ夢に来てくれ。待っているよ」
「えへへ、絶対行くね!」
サンスリーにしか聞こえない会話。
サンスリーはドルテなら行きそうだと思っていた。
導かれるように仰々しい扉の前に出た。
そこにはまさかの4体のイカホツヤクウブがいる。
「襲いかかってこない?」
「それより配分だ。俺とファミリアで3体はやれるが、エンタァはどうする?ランディを使うのか?」
「この程度で?使わないよゲイザー」
第一位の悪魔でもこの程度と呼ぶエンタァは「一体は貰う!」と言うと躊躇なくイカホツヤクウブに襲いかかる。
サンスリーもラヴァにレンズを組ませて一体、ドルテとスィンシーで一体。自身も一体のイカホツヤクウブを受け持つ。
時間はかかったが、キチンと倒すことの出来たサンスリーはスィンシーを使ってエンタァの援護に入る。
エンタァも別に長期戦で良ければイカホツヤクウブすら倒せるようになっていた。
「助かったよゲイザー」
「いや、だがコレだけ時間を使っても上からは援軍もなし、上も苦戦しているな。早く調べて戻ろう」
サンスリーが扉を抜けると、少し異様な空間だった。5人の悪魔崇拝者の前に仰々しい服装の1人の少女がいた。
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