第38話 名剣の母16/23。
サンスリーは季節が巡ると生存報告のように女領主の用意した小屋に顔を出す。
タノダケ・べナス・ロエンホを手にしたサンスリーは、悪魔崇拝者を追う必要がなくなり、気楽な世界を見てまわる日々に戻る。
半年後、サンスリーの耳にも届いたのは、王都で久しぶりに生まれた名剣。その名剣の母に選ばれた第三騎士団員グランディ。その夫エンタァは自らを名剣の父と呼び、最年少部隊長に上り詰めて、見事名剣の父に選ばれていた慶事の報だった。
日々、悪魔崇拝者達が勢いを増す中、なんとかその勢いを削ぐニュースは最大限活用する。あの欲深い目をしたロエンマガカならやりかねないと思っていた。
ロエンマガカの事は調べる事も何もやめた。
現に気を張っていても、噂の気配すら現れない。
それなのでサンスリーが名前や存在を匂わせれば、すぐに足がつく。
おそらく、存命の兄イーワンもロエンマガカの事は知らないだろう。
そしてまだ姿も見ない6人の統括を名乗る連中が他にもいる事に辟易としてしまった。
更に半年後。
サンスリーを直接指名する依頼が入る。
依頼主はキチンとエンタァになっていた。
サンスリーは丁度女領主の所に居たので「王都でご指名だ。行ってくる。万一戻らなければ、あの部屋は好きにしてくれ」と挨拶をする。
女領主の「いつもそう仰って、宿代がわりにお金を置いていきますが受け取りませんよ」を聞きながら目的の街で第三騎士団と合流すると、現れたのは部隊長になったエンタァと、本部戦なので団長、後は50名の団員達だった。
部隊長になったエンタァはもはや別人だった。
見た目も、気迫も何も違う。
エンタァの「やぁ、ゲイザー」と言う妙に落ち着いた声。それだけで別人に思える。
「見違えたな」
「そうか?僕はもう父親だぞ?いつまでも子供ではない」
その時のエンタァの目は狂人のそれに近い。
色々気になったが、周りには人が多い。
サンスリーは追求をやめて、団長に「世話になる」と挨拶をすると、「こちらこそ世話になる。最近は悪魔崇拝者退治の話をあまり聞かないな」と世間話が始まった。
「タノダケ・べナス・ロエンホを手に入れたからな」
「年々増え続けているから、ゲイザーには期待してしまう。またよろしく頼む」
そんな会話の後で打ち合わせを行うと、まあ無理はあるが、サンスリーには願ったり叶ったりだった。
「僕とゲイザーが本部内部へ、前回同様、巣穴を突いて飛び出してくる連中を団長と団員で制圧してください」
エンタァの提案に、団長はやれやれという態度で、「仕方ない。今回はゲイザーもいてくれる。任せよう」と言い、エンタァが先に外に出ると、団長はサンスリーに、「ずっとアレだ。名剣の父になる。相応しい男になると言って、無理な率先をしている」と愚痴るように話す。
「なるほど、怪我は極力させないさ」
「すまない」
サンスリーはまた夜明けの突入に際して、休みながら目配せしてみると、エンタァは少し浮いている。
自主練に打ち込み、食事中も部隊長として部隊員とは雑談もするが、酒もそこそこでやめて早々と眠りにつく。
これも結果を出しているからこそ許される事で、結果が伴わなければ群れにいる事も許されない。
今日は代わりにサンスリーがいる。
第三騎士団の中でも比較的、人懐こい連中が「ゲイザー!一年ぶりじゃないか!」と近寄ってきて話し相手になる。
だが話せば、話題は変わってしまったエンタァの事になり、そして色の変わった左目の事を言われた。
「包帯を取ったら目の色が変わっていて驚いたよ」
「殴り過ぎだぞゲイザー」
「だが、エンタァは鏡を見るたびに、殴られた事を思い出せる。気が引き締まると言っていた」
そんな話をしてくる。
等価交換魔法でグランディの左目になったエンタァは瞳の色が濃くなった。
だが…皆が心配しても「ゲイザーにやられたから」で誰もが疑わない。
これで視力に問題が出れば別だが、エンタァは気にしなかった。結果さえ伴えば不問になる。
それこそエンタァは左目のグランディに語りかけるように自分を鍛え、自分の世界を作っていた。
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