第37話 名剣の母15/23。

サンスリーは等価交換魔法でエンタァとグランディの左目を交換した。


「試してみろ」

「僕のグランディと子供をよくも!第三騎士団の馬鹿野郎!」

「よし、言えたな」


サンスリーは二度と来られない事を告げて、別れの挨拶をさせる。


「さようならグランディ。君に会えた事は僕の人生の宝物だよ。僕は必ず名剣の担い手に選ばれてみせる」


エンタァはグランディにキスをすると「ありがとうゲイザー」と言い、今までとは別人のような顔をしていた。


戻りながら名剣の母達の顔を見ると、現役の団員の妻だった存在もいたりする。


「あの人は何も知らないんだな」

「知っていて黙っている場合もある。魔法契約があるんだ。お前だって、今は頭がスッキリしているだろう?コレまでは感情が昂らないと異論すら抱けなかったはずだ」

「そうだな。感謝している」

「いや、働いてくれればいいさ」


外はちょっとした騒ぎになる。

だが、サンスリーは落とし所を用意していた。


兵舎の裏側から、わざと屋根に飛び乗り、そして降りると、「なんだこの騒ぎは?」と聞く。


「ゲイザー!?何処に行っていた!?エンタァがいないんだ!」

団員の1人に言われた時、サンスリーは「エンタァ?居るぞ?ずっと2人でいた」と言ってどくと、そこには俯いたエンタァがいた。


そこには団長と副団長も来ていて、「何があった?全員で探したんだぞ?」、「散々呼びかけたのに返事もしないとは何事だ?」と聞いた時、前を向いたエンタァの左目は殴られて腫れ切っていた。


「エンタァ!?」

「何があった?」


心配する団長と副団長の横でサンスリーが、「クソ情けない事を言ったから殴ってやった。散々話を聞いてやったらこんな時間だ」と言って右腕を見せる。


状況が掴めない団長はため息の後で「詳しく説明してくれ、誰か、エンタァの治療を頼む」と言ってエンタァは団員に救護室に連れられて行き、サンスリーは団長と副団長に連れられて会議室へと行く事となる。


「何があった?」

「明日でお別れだから声をかけてやった。アイツはグランディの事で落ち込んでいたからな。俺だけは本部を壊滅させた後で、路地裏で泣いたのを見た」


団長はエンタァが路地裏で酔い潰れていた事を知っているので、「あれか、あれは泣いていたのか…」と返す。


「ああ、それで夜の散歩をしながら話を聞いていたら、人気のない方は近寄ってはいけないと言われるし、この辺りで泣き始めて、名剣の母になったグランディに会いたいなんて、とても周りには聞かせられないだろ?屋根の上に連れて行って、消音魔法を二重でかけた」


ここで副団長が「二重?何故だ?」と聞くと、サンスリーはわかりやすく、消音魔法を使う。


廊下を歩く騎士団員の声が聞こえなくなると「これで外の声は聞こえない。だが、ワンワン泣くエンタァの声なんて聞かせられない。だから内側から外に向けて消音魔法をかけた」と説明する。


確かに間違っていない。


「まあ、まさか探されるとは思わなかったから、外の声も聞こえなかったがな」

「ずっと屋根の上に?」

「ああ。それでムカついてぶん殴ってやった」


団長はやはり神輿なのだろう。それも綺麗で軽い神輿。


素直に信じると「ゲイザー、心遣いには感謝するが、やはり最愛の家族を失う事は辛いんだ、殴らないでやってくれ」と言ってくる。


「そうか?前の名剣の母の時はどうだった?」

「フラレースの時は副団長が話を聞いてやっていた」

「私は殴らなかったですよ」


サンスリーは「それはすまなかったな。どうしてもエンタァの奴は本部のあった、あの街で、領主に恋人を奪われて助けを求めてきた男を助けようとはせずに、俺のファミリアが勝手に助けてしまった時、手遅れだった恋人、その男の事を街の為に仕方のない犠牲になったなんて言っていてな、それなのに自分の時はメソメソとしたから我慢できなかった」と言って正当性を出してしまう。


「まあ、事態はわかった。エンタァが迷惑をかけたな」


団長の言葉に副団長が頷いた時、サンスリーは副団長に「この前の報酬の件だが、出来た」と言った。


「ほう、何を求めますかな?」

「本部壊滅の時はエンタァを通して依頼を出してくれ、キチンと報酬は貰うが参加をする」


訝しむ副団長に「エンタァの奴を説教してやったら、アイツは面白い事を言ったんだ。気が向いた。本部に攻め込む時はそれに参加をして奴の本気を見届けたくなった」と説明する。


「ゲイザー?何があったんだ?」

「何、グランディと生まれるはずだった子供に会いたいとメソメソと泣くから、グランディとお前の子供の持ち主に選ばれろと言ったのさ」


この瞬間に目を見開いて表情と気配を変える副団長。

サンスリーはコレのためにも行動を起こしていた。


「ゲイザー?」

「グランディが名剣の母になり、最初の名剣はまるでお前達の子供のようじゃないかと言った。そして、お前みたいな弱者は剣に選ばれないだろうがなと添えてやったら、エンタァの奴、目の色を変えて『僕がその名剣を扱う。名剣の父になる』なんて言うから、本部壊滅の依頼の時にエンタァがやり切れていて、次の名剣の担い手になれるか、アイツがキチンと育つのか気が向いたんだ」


副団長は慌てて表情を戻す。

サンスリーの言葉通りなら、第三騎士団の秘密は何も漏れていない。


団長は「ありがとうゲイザー」なんて感謝を口にして「折れかける心を繋ぎ、心に火を灯すなんて、君は教育者に向いているな、気が変わったらいつでも騎士団に来てくれ!」とおめでたい事を言っていた。


「なぁ!副団長!」

「ええ、ありがとうゲイザー」

「いや、だが殴りすぎたかもしれない。目だから何か起きたら申し訳ない」


「なに、第三騎士団員ならそんな泣き言は言わないさ!」と団長が笑い飛ばしてこの話は終わった。


副団長は万一を考えて大聖堂に近づくが、足跡は途中で途切れているし、検知範囲にバレずに入れる魔法なんて知らない。


そして屋根には座った跡とエンタァが殴り飛ばされた跡、裏には飛び乗る時の足跡と飛び降りた時の足跡があった。



サンスリーはさっさと王都を離れて女領主に依頼の報酬を貰いに行く。

女領主は無事に戻ったサンスリーを見て良かったと言う。


女領主はサンスリーを引き止める真似はしなかったが、屋敷のそばに小屋を用意して、「鍵は私が管理します。拠点の一つとしてご自由にお使いください」と言った。


お人よしなのは、小屋のそばにはあの等価交換魔法使いの為の小屋も用意されていた事だった。

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