第35話 名剣の母13/23。

消灯時間が過ぎて、エンタァは訝しんだ表情でサンスリーの前に現れる。


「来たな。お前はチャンスを自分のものにできた。行くぞ」

「何を?どこにだゲイザー?」

「大聖堂だ。場所は調べ尽くしてある」


前を進むサンスリーに、「規則が」、「ダメだ」と言うエンタァだったが、「グランディにひと目会いたいだろ?」と聞かれると、「うっ」と言って黙り、次には「聖堂には侵入者検知の魔法がかかっているんだ」と苦しげに言う。


「ああ、知っている。悪魔崇拝者達の領地結界の魔法だな」

「違う。王都騎士団が使う侵入検知の魔法だ」


サンスリーは「ふふ」といやらしい笑い声を出してしまうと、「おっと」と自重しながら、「同じだ。決められた範囲内に入った者を捕捉する魔法だ」と言った。


意味がわからないエンタァが困惑の顔で後を追ってくるり


「まずは見ていればいい。タノダケ・べナス・ロエンホにあった、侵入隠匿の魔法を使って、検知範囲に入る。あそこは鳥一羽も見逃さない。俺なんかが検知範囲にいたら大騒ぎだ。仮に兵士が来たらお前は散歩に来た俺を止める所だったと言えばいい」


サンスリーはニコニコとわざとらしい笑顔で聖堂に近付くと、検知範囲を越えても騒ぎにならない。そしてその先の大聖堂の壁に触れても何も無かった。


「ほらな?お前にもかけてやる。中に行くぞ?」

「だ…だが…規則が…」

「俺は明日ここを去る。俺は今日しか大聖堂に入らない。明日気が変わっても手遅れだぞ?」


再び「ぐっ」と言ったエンタァは、ゆっくりとサンスリーの後を追ってくる。


「だがゲイザー、ここは検知魔法があるから巡回の兵士は居ないが、門番はいるぞ?」

「知ってる。秘密の裏口がある」


それこそ、あの確保した資料付きのタノダケ・べナス・ロエンホにあった。

大聖堂の位置も調べ尽くしたと言うより、資料を読み、場所の確認をしてきた。


全て真実が書かれていた。

サンスリーが今一番信じているのはあの資料だった。


恐らく団長は何も知らない。

この中で何が行われているのかも知らない。

知っていて、あの表情とあの言葉が発せられるなら余程の悪党か狂人だろう。


サンスリーは秘密の裏口に向かい歩く中、「王都第三騎士団の魔法と悪魔崇拝者の魔法には共通点が多い。名前こそ変えているが、恐らく法則は同じだ。まあ、俺はキチンとした第三騎士団の魔法を学んでいないから確証はないがな」と説明をする。

それも嘘で、あの資料にはキチンと書かれていた。

全て同じだった。


サンスリーとゲイザー、二つの名前を持つ自身さながらに名前だけが違っていた。

無いのは確証。

だが今まさに全てが証明されていく。

サンスリーは消音魔法を使うとエンタァに話しかける。


「名剣とはなんだ?」

「は?何をいきなり?」

「考えた事はないか?」


サンスリーの質問にエンタァは首を傾げる。


「聖剣は世界を作った神が世界に用意した救済のひとつ。そんな神ならファミリアすら代償なく放てるらしい。神の力を俺たち人間が使う時、厳しい制約を用いて、魔法を身につける。ファミリアは心を通じ合わせた者を殺す事。

俺のファミリア達はそうしなければ生まれなかった。だが、神はそんな真似を必要としない。そして俺のファミリアは何十年と鍛えても、王都全域すら覆えない。だが、神の力なら世界中を一瞬で蹂躙できる」


エンタァは途中、ファミリアの話で意識が逸れてしまったが、聖剣の事を話していると思い出し、「なら名剣は?」と聞き返した。


「人の身で聖剣を生み出そうとしたんだ」


エンタァは倒れ込みそうになる。

右手で頭を抑え、左手で膝に手を置いて身体と心を支える。


サンスリーは決して手を貸さずに、それでもエンタァを置いていく事なく前に進む。



大聖堂の中には兵士達は居なかった。

「兵士が居ない?」

「見せられないからな」


見えるのはさまざまな人種の子供達ばかり。


「孤児達だ。人攫いから奪還して、身寄りのない子供達を保護した事になっている」

「なっている?」

「受身がちな親を持った子供達だ。親が、不敬罪からの罰すら恐れずに、騎士団員に子供の事を聞き、涙ながらにいなかったかと聞くような親の子は帰されるが、大人しく、お利口さんに規則だなんだと諦める奴の子供は「いなかった」事にされて、ここに連れてこられて御勤めが待っている」


サンスリーの言葉に悪意はないが、お利口、規則の言葉がエンタァの胸を刺していく。


そんな中、エンタァは一つの事に気付いた。

「若い子供しか見ないぞ?王都騎士団が保護する子供達なら、こんな少人数で、若い子供だけに落ち着くわけがない」


サンスリーはまだ目が曇っていないエンタァを見て、気分よく「よく見ているな」と言うと、エンタァが言葉を返す前に、「今回倒したイカホツヤクウブが金の体色をしていたのを見たか?」と質問をする。


「わずかだが見た」

「本来、黒の体色が金になった理由は?」

「それはあの土地に生贄や悪魔崇拝者達の死が充満していて、それを生贄魔法で…」

「その通りだ。それなら名剣が悪魔に有効で、切れ味が落ちないのは?」


サンスリーの言葉を聞いて最悪の想像をしたエンタァは再び立っていられなくなる。


「いちいち潰れるな。生贄が若い方ほどいいのは間違いではないが、間違いだとタノダケ・ベナス・ロエンホに書かれていた。子が作れる歳になった時がピークらしい。そこまで若いとさすがに人手不足だが、年齢を15くらいに定めて、15になった時に、名剣のために生贄になる。お前達はその命を使って悪魔を討って喜ぶ。それは俺のファミリアが剣を持つ事を拒む訳だ」


サンスリーは一気に言う。

かつてまだ若い頃に振るった名剣。

あれの一振りで生贄の子供はどうなっていたのだろう。


「そ…そんな、今すぐやめるべきだ…」


お決まりのお花畑発言。

サンスリーは聞いていて呆れてしまう。


「バカを言うな」

「何故だゲイザー!?こんな事はやめるべきだ!」

「お前達が名剣を振るわなければ、世に解き放たれた悪魔はどうなる?」


返事をしないエンタァに向かい、「悪魔は人々を殺し、殺された者は悪魔に取り込まれ、永劫の苦しみに苛まれる。そして世界には孤児が増える。孤児はどうなる?行き倒れたら最高で、次は老人を襲うようになる。また新たに命が損なわれるな。その次は奴隷送りだな。まだまだあるな」と言う。

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