第34話 名剣の母12/23。
王都に戻ると、少し忙しい。
貴重な資料が見つかったと喜ぶ団長。
一年分近くの悪魔を狩ったと喜ぶ騎士団員。
そして、妻が名剣の母に選ばれたエンタァ。
それらを讃える集会が催され、サンスリーも参加を求められる。
「いや、俺は雇われだ。この後はここを離れるし、もう集団生活は懲り懲りだ」
そう言って、なんとか関わらないようにしようとしたが、第二や第七の騎士団を含めた周りは、有名人になったサンスリーに集会所の端にいてくれるだけでいいと言い、下手な屋敷のホール並に大きい集会所の端で壁に寄りかかりながら直立不動の第三騎士団員達の集会を見ることとなった。
サンスリーは誤算だったが、集会に参加した事でようやく全貌が見えた気がしていた。
シンとする集会所の扉が開かれると、団長達の留守を守っていた副団長が現れる。
まず最初に考えたのは団長はただの神輿で、副団長が上手い事団長を隠れ蓑にして、暗躍をしている事。
情報屋にいくら積めば副団長が暗躍している情報が買えるかの値踏みを始める中、団長のスピーチ。
内容は本部壊滅とグランディの件。
その時に、「本来なら決して表舞台には出てこない、この国の中枢を担う、第三騎士団の統括をされるロエンマガカ様にお言葉を貰える事となった。傾聴するように」と団長は言った。
サンスリーは初耳の名前に耳を疑い、扉を見る。
ゆっくりと扉が開き、赤い差し色と青い差し色の第一と第五の騎士団長に守られた男が入ってきた。
シューカシュウや自身の父よりも老齢だが、顔には精気や活力が満ちていて、目はこの中の誰よりも欲深い眼差し。
入ってくると壁際のサンスリーに気付き、値踏みをしながらニヤリと笑う。
すぐに表情を戻すと壇上に進んでいき、第三騎士団設立以来の快挙。5年ぶりに名剣の母が現れた事と本部壊滅は騎士団員達の信心や鍛錬の賜物だと褒めちぎると、「私を含めた7人の統括の存在は最重要な秘匿事項。家族にもこの話はしないように」と言うと扉へと向かう。
その間にサンスリーの元に来た副団長が「極秘事項です。他言無用を依頼としてお願いしたい」と声をかけてきた。
勝手に呼んで、勝手に見せて、迷惑な話である。
素直に従うと怪しまれる。
「何をくれる?」
「金でも、立場でも、ロエンマガカ様は貴公を評価して、この場の同席を求め、存在を表した。その意味をよく考えて欲しい」
サンスリーは「わかった。帰るまでに決める。調書に協力すれば契約満了だな?」と返すと「残っても良いのだぞ?」と言われた。
「いや、集団生活は苦手だ。エンタァ達新人を見ているとイライラする。ああいうのを鍛えるのはアンタら向きだ」
そもそも残る気なんてないが、残って魔法契約なんてされても話にならないし、あの言葉通りなら、7人の統括が権力争いをしている。パワーゲームの為に利用されて、命を狙われても敵わない。
とにかく、今のサンスリーは複数個確かめたら、巻き込まれる前にさっさと王都を離れる必要があった。
そんなサンスリーの気持ちを理解しているのかはわからないが、副団長は「まあ、貴公ほど出来ると、そう思うのかも知れないな。気が変わったらいつでも言ってくれ」と言うと扉の所で佇むエンタァの肩を掴んで外へと出ていってしまった。
エンタァの笑顔は無理矢理作ったせいか、こびりついている。
サンスリーには目を合わせようともしない。
嫌われたかと自嘲するとドルテが「意地悪しすぎなんだよ」と言った。
調書作りに協力する。
今日は地下施設のどこに何があったかを丁寧に書き記していく。
悪魔化した連中が隠し扉を破壊していた事で、これからは探索の仕方も変わると感謝された。
明日の戦闘に関する調書に協力すれば、依頼は達成され、引き上げてきたタノダケ・べナス・ロエンホを一冊渡されて終われる。時間にして夕方前には解放される。
サンスリーが動けるのは今晩だった。
夕方、グランディの荷物を引き上げて、憔悴し切った顔で兵舎へと戻るエンタァに手を挙げて声をかけるサンスリー。
露骨に嫌な顔をして逃げようとするエンタァに、「お前にも損はない話がある。他言無用だ。付き合うか?」と声をかけた。
「何を?」
「ここで話せるかよ。消灯時間になったらあの木の所に来い。話はそれからだ」
落とし所は用意できるが、モノに出来るかはエンタァにかかっている。
サンスリー1人でも確認作業は問題ない。
だが、エンタァにチャンスをあげたい気持ちもあった。
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