第31話 名剣の母09/23。

サンスリーの攻撃力は明らかに現状の第三騎士団を単騎で上回ってしまっていた。

本来なら、完勝はしても圧倒する気はなかったのだが、今更苦戦しても怪しまれる。

このままやるしかなかった。


「ふむ。グランドカイザー程攻撃特化という感じではないな。名前の違う三振り、やはりそれなりに効能が違うのか…」


使ってみてわかったのが、イカホツヤクウブの物理攻撃を防いでみると、直撃コースにあるものも、剣が放つオーラで減衰してしまう。


「リンフラネトレ向きな剣だな」と呟いたサンスリーはイカホツヤクウブを倒すと、流れ作業で2体のリンフラネトレと3体のカタイニョを撃破してしまう。


団員達の感嘆の声を無視して「終わりだ。剣を返す」と言って団長に返すと、残りは騎士団員でも問題ないので休んで欲しいと言われた。

怪我人達と陣地に下がると、治療中の団長からグランドカイザーについて質問をされた。


「ゲイザー、君はいつグランドカイザーを振るった?」

「20年以上前、当主が他領主から悪魔討伐の依頼を受けて、俺を派遣した。その時の条件が聖剣を用意できたら二束三文で俺を貸す、そんな話だった」


「今の所在は知らないか?」

「知らないな」

「そうか、先日、君が捕えられたシューカシュウの館に痕跡だけあった」

「そうなのか?だが俺は捕えられて洗脳されていた。もしかしたら、その間に盗難にあったのかも知れないな。シューカシュウは俺にファミリアを使わせない為に、館に魔法封じの呪いを発動していた。ああなっては防犯用の検知魔法も使えない」


前もって用意しておいた回答。

これ以上追求すれば証拠もないのにサンスリーを疑う事になり、サンスリーは契約破棄でさっさとここを離れられる。


ひりつく空気と睨み合い。


団長は「残念だ。聖剣は第三騎士団にあるべきなのに、今はこのシーエンペラーしかない」と漏らして、台座に安置されたシーエンペラーを見る。


「最後のひと振りは?」

「スカイキングも行方知らずだ。前の団長が持ったまま悪魔崇拝者の本部に討伐に向かい、帰ってこなかった。戻らない事に心配し、援軍として私達が向かうと、そこは血の海で、人は誰も残っていなかった。先日、ゲイザーに見せたタノダケ・べナス・ロエンホはその時のものだ。スカイキングは…恐らく盗賊に盗まれたのだろう」


「酷い話だ。王都騎士団の耳にも届かないなんてな」

「まったくだ」


団長の言葉に同意しながら、サンスリーは呆れている。

誰が王都騎士団の為に行動するか、王都騎士団を正義の味方だと信じるのはまだ幼い子供達で、10を過ぎた頃から世の中に救いなんてないことを知り、国に奉仕するよりも、自分の食い扶持を優先する。

スカイキングもたとえ拾った者がいても、国には何も言わずに金持ちに売り込む。

馬鹿正直に国に持ち込んでも「ご苦労」のひと言で片付けられるが、権力者相手なら値千金も夢じゃない。


「話は変わるが、あの黒い対悪魔用のファミリアはどうした?」

スィンシーの事を指しているのはすぐにわかった。


「どうした?と言われても、助けた存在がファミリアになった。そしてなったら黒かった。今までは育てていたが、対悪魔戦闘は初めてで、今日初めてキチンと使ったら、悪魔に有効だったとしか言いようがない」


スィンシーに興味を持った騎士団長は詳しく聞かせてほしいと言い、サンスリーは「話すと長くなるぞ?」と聞いてから、ダイヤモンド鉱山の依頼を受けて、リャントーという騎士の心とその結末に思うところがあったサンスリーは、本来なら受ける気のなかった、娘を探して欲しいという依頼から、死期迫る悪魔崇拝者が万命共有を用いて擬似家族を形成していた事を突き止めた事。

娘は助けられず、子供役だったスィンシーを助け出したが、洗脳魔法の影響で記憶は戻らなかった事。

依頼者がスィンシーの両親代わりになると言ってスィンシーを引き取った事。

その後、執拗にシューカシュウの追跡を受け、洗脳をされている間に、悪魔崇拝者が弟子の残したスィンシーを見つけ、スィンシーの両親をタノダケ・べナス・ロエンホにある追跡魔法で見つけ出して生贄にし、養父母もまとめて生贄にした事。

そしてサンスリーを使いイカホツヤクウブの召喚を達成しようとしていた事。

悪魔崇拝者が現れてシューカシュウと洗脳技師を殺した事でサンスリーは皮肉にも難を逃れ、悪魔崇拝者の野望を阻止した事で、イカホツヤクウブではなく、リンフラネトレになったスィンシーと戦う事になった事。

古い書物に、生贄の力が残った状態で悪魔を殺してしまうと、素体の魂が救われないとあった事から、ファミリアの力でリンフラネトレの力を全て奪い取ってから倒した事で、スィンシーの魂が救われ、偶然だがファミリアの条件に合致していて、サンスリーのファミリアになった事を説明した。


「成程、貴重な体験だ」

「調書なんかには残してほしくないな。心を通じ合わせた人間を悪魔にして殺してファミリアにされては寝覚が悪い」


サンスリーの言葉に、団長は苛立ちを隠さずに「我々はそんな真似をしない」と言う。


「ならいいさ、偶然ならまだしも、名剣や聖剣が足りないからファミリアを使う案なんかが出てきたら嫌になるからな」

サンスリーは言うだけ言うと、「エンタァ達を見てくる。アンタは動けるようになったら地下の資料を確認してくれ。その中からタノダケ・べナス・ロエンホを分けてくれ」と言って陣地の外に出た。

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