第30話 名剣の母08/23。

サンスリーは地下施設の連中を皆殺しにする必要があった。

入ってすぐ、ドルテが殺した人間は悪魔崇拝者側の人間ではなく、第三騎士団が送り込んできた密偵で、サンスリーの実力を確かめ、怪しい動きを見せれば異端者。

悪魔崇拝者として拘束し、命と引き換えに第三騎士団に入団させるつもりでいた。


そんな事はわかりきっていたサンスリーはドルテを放つ事で密偵を殺し、隠れた連中を悪魔化させて場を乱し、戦闘の余波で密偵は巻き込まれた事にしてしまう事にしていた。


地上に上がると、散々な結果になっている。


数と名剣を持ってもイカホツヤクウブに気を取られていれば、リンフラネトレやカタイニョ、それ以外の階位の悪魔達の攻撃に晒される。


あえてサンスリーがさまざまな悪魔を用意したのは、攻撃方法がどれも違っていて、リンフラネトレは主に岩を生み出して投げつけてくるが、カタイニョは肉弾戦を得意としている。


勿論、第三騎士団も一級品の装備を身につけているので惨敗は無いが、とにかく負傷者が多い。


サンスリーが騎士団長を見つけると、騎士団長は負傷していた。

近くにいた部隊長に聞くと、リンフラネトレを倒した所で、イカホツヤクウブの一撃を貰ってしまい動けなくなったという事で、今は団員に肩を貸してもらい、なんとかその場を離れていた。

そして団長の抜けた穴を、ベテラン達は必死になって埋めようと悪魔の群れと戦っている。


思い通り過ぎる結果にサンスリーは笑わないように気をつけて、騎士団長の元に行く。


騎士団長からしても想定外の規模と抵抗に、無事だったサンスリーを見て、「ゲイザー、無事だったか…」と声をかけてくる。


「ああ、地下は無茶苦茶だ。タノダケ・べナス・ロエンホは多数確保したが、やはり突入と同時に何冊か焼かれていた。生贄の救助をしようとしたらカタイニョが襲いかかってきて、倒すと続々と悪魔なって外に向かっていた」

「十分だ。確かな働きに感謝する」


「いや、この先はどうする?援護を呼ぶ暇はないだろう?アレが野に放たれたら大惨事になるぞ」

「わかっている。何がなんでもここで全ての悪魔を倒す」


サンスリーは想定通りの会話に夢でも見た気になってしまいながら、「だが、損害は決して軽微ではないな」と言って、今もリンフラネトレの岩石が当たり、吹き飛ぶ団員を指差す。


苦々しい表情の団長を見ながら、「悪魔の残りと戦力が釣り合っていない」と意見をし、腰の剣を指さして「仕方ない、何体かは俺が受け持つ、アンタの持つ聖剣を貸してくれ」と言った。


「貸せと言われて簡単に…、名剣の経験もなく、聖剣は初めてで…使えるものでは…」

「聖剣なら大昔に使ったことがある。アレはグランドカイザーだった。その剣の事は知らないが、残り二振りのひとつだろう?」


目を丸くする騎士団長だったが、起きた損害と、この先の事を考えて、「これは…シーエンペラーだ。壊さないでくれよ」と言ってサンスリーに渡してくる。


サンスリーは「了解だ」と言うと、シーエンペラーを構えて「お前達はフォーメーションを組んで、リンフラネトレと疲弊した悪魔を狙え!、無傷のカタイニョとキュウジカインカ、そしてイカホツヤクウブは俺が受け持つ!」と言いながら前に出る。


騎士団員達はサンスリーの言葉に耳を疑ったが、団長が「ゲイザーに従え!」と言うと、大人しく、陣形を組んでそれぞれの悪魔に向かう。


「ドルテ、この中ではお前が一番使ってやったんだ。キュウジカインカを抑えておけ。レンズ、スィンシーと共にカタイニョを受け持て、ラヴァ達は悪いが留守番だ」


サンスリーの言葉で3色の光が飛び出すとそれぞれが悪魔を狙って攻撃を始める。


サンスリーからすれば、本気のラヴァの後では、ドルテ達は見劣りしてしまうが、それでもファミリアだけで悪魔を抑えつける姿に、騎士団員達からは感嘆の声が聞こえてくる。


ここでサンスリーに予定外が起きた。

それも一つではなく複数で、放ったドルテは「ゲイザー!やっちゃっていいよね!?ラヴァには負けないよ!ヤキモチだ!」と言って、キュウジカインカを圧倒的な力で痛めつけ始め、「ゲイザー!スィンシーならあの悪魔も余裕だからね!やらせてあげて」と聞こえてきて、直後にはスィンシーの黒い光はカタイニョの障壁を無視して軽々と傷つけてしまう。


そしてシーエンペラーを持ったサンスリーも本気の一撃でイカホツヤクウブを簡単に半壊させてしまう。


激痛に叫び声を上げながら向かってくるイカホツヤクウブは、再生と共に金の体毛は黒に戻ると、明らかにプレッシャーは無くなるが、それでもサンスリー目掛けて向かってくる。

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