第29話 名剣の母07/23。

今一番近い本部を目指すサンスリーは少しだけ辟易とする。


あの女領主の領地と王都の間にあり、既に通ってきた。

だったら帰らずに逗留して欲しい。


だが、無意味なものにも意味がある。

悪魔崇拝者達は第三騎士団には慄いたが、目的が自分達ではない事に「馬鹿な奴らだ」くらい思っていた。


今回の行軍も、また何処かでトラブルが起きて、対処に向かうだけだろうと油断していた。


だが、前回と違うのは団長まで出向いてきていた事。

それを見たら目的は簡単な悪魔退治ではなく、本部の壊滅くらい想像が働いただろう。


本部はかつての領主の邸宅跡地の地下だった。

領地戦で残った建物は取り壊すのにも金がかかるので、残ってしまう事もある。


サンスリーからしたら「だから小銭をケチって残すからこうなる」と悪態もつきたいが、団長は「愚かな奴だ。残しておいてやった建物に巣食う虫どもめ」と言っている。


訳のわからない所に拠点を作られるなら怪しい箇所に作って欲しい。

それもまた一理あった。


「作戦は?」

「逃げ出すものを若い騎士達で制圧したい」


「ベテランは?」

「本部戦ともなれば、魔法使い達が悪魔達を召喚する。それと戦う」


「俺は?」

「一つ頼みたい」

「言ってくれ」

「奴らは敗色濃厚になると、生贄達やタノダケ・べナス・ロエンホ、悪魔崇拝者達が使う地図類を破棄する。その前にファミリアの力で建物の制圧を頼みたい」


言っていることは間違っていない。


「普段はどうしている?」

「斥候を使うが、どうにも手だれは引き受けないし、結果はイマイチだ。だからタノダケ・べナス・ロエンホもあまり手に入らない」


団長の言葉に「了解した」とサンスリーは返事をする。

だが、第三騎士団がいつ敵になるかわからないから数は出さない。

出しても、レンズ、ドルテ、スィンシーにするつもりでいた。


悪魔崇拝者は、悪魔とより繋がる夕刻から深夜までを儀式や祈りに使う。

なので明け方の疲弊した頃に攻め込むのが定石になっていた。


作戦開始と共に、部隊長が率いるエンタァ達が逃走経路の封鎖にあたり、団長率いるベテラン達が名乗り上げと同時に突入していく。


サンスリーは「よし、仕事だ。レンズ!手当たり次第に殺せ!スィンシーも続け!ドルテは殺しつつ、本なんかを見つけたら俺を呼べ!」と指示を出すと館の地下に突入していく。


上階からは悲鳴と絶叫。

直後には悪魔が放つ特有のプレッシャー。


館部分に住んでいた悪魔崇拝者達が生贄魔法を使い、その身を悪魔に変えたのだろう。


全滅はないだろうが、第三騎士団の戦いを見てみたい気持ちもあった。

だが、仕事は仕事、ある種、本部で自由に動ける事は最高と言える。

第三騎士団と悪魔の戦いなんて、この先いくらでも見られる。


サンスリーが次々に地下を攻略する中、生贄の世話をしていた男と鉢合わせた。

サンスリーはその男に見覚えがあった。


ひと言でいえば「そうもなる」だった。


男は街でサンスリーに好色家の領主から恋人を助けたいから助けてくれと縋ってきた男だった。


「お前…あの時の」

「あなたはあの時の、光を放った人」


サンスリーは少ない時間で、男の話を聞く。


保護した恋人は手足も失い、薬物で己も失い、常に発情していて、定期的に発散させてやらなければ狂い死ぬと医者に言われる。


食事の世話の他に性処理もする。

常に発情する彼女は独特の臭いを一日中垂れ流す。それに恋人の両親は耐えきれずに壊れて逃げた。


男が涙ながらに世話をして、恋人が苦しそうにすれば性処理もする。

かつてを思い出して抱けば背中に回してきた手もなく、絡ませあった足もなく、抱いただけ気が狂いそうになる。


そこに現れた悪魔崇拝者は、恋人の復讐をしようと男を誘った。


恋人の無念があれば、間違いなく高位の悪魔が喚べる。

その力で、権力者達を1人でも多く殺そうと提案されていた。



男の説明にサンスリーが「最悪だな」と呟く。

男は涙ながらに「何がだ!」と言うと「僕は彼女の復讐をするんだ!あなたに薬物で壊された恋人を持つ僕の気持ちがわかるのか!?」と声を荒げ、剣を持つサンスリーに掴み御かかった。


サンスリーはラヴァを思い出し、頭痛と共に嫌な過去を思い出す。


「わかるさ…。俺は殺した。責任を持って殺した」

「え…」

「ずっと一緒、そう言って将来を誓い合い、権力者に壊された彼女をずっと一緒だと言いながら殺したよ」


男はサンスリーの言葉に嘘がないことを感じ取ると、同じ立場のものとして受け入れる。

男がもう一度泣いた所で、サンスリーは口を開いた。


「ハメられたんだよ。今、ここに来ている第三騎士団は悪魔祓いの専門だ。一度悪魔になって倒れれば成仏はあり得ない。永劫の苦しみに苛まれる。お前さんはここで死んでも天の国に行けるが、生贄魔法の対象になっている彼女は無理だ」


サンスリーの言葉に男が崩れ落ちた時「普通はな」と添える。


「俺ならその部分も含めて、倒した後の事まで面倒を見れる。だがタダじゃない。タノダケ・べナス・ロエンホや資料を求めている。それをくれれば、お前さんと恋人を同じ天の国に送ってやる」


男はサンスリーの言葉を信じて資料の元に連れて行く。

かなりの資料があり、ザッと目を通すと、真偽はわからないが、とんでもないものも出てくる。


サンスリーはどうでもいい、騎士団の資料室で見た資料を残し、少しのヤバめな資料を焼くと残りは収納魔法にしまう。


「よし、約束は果たそう。今の資料にもあった。お前と恋人の呪いは解けない。無理矢理解魔法で解けば非業の死が待っていると資料にあった。だからこそ、お前と恋人で一対の悪魔にする。それを俺が完全な状態で倒す事で、成仏させてやる。天の国があるならそこで幸せになれ」

「…なれますか?」

「わからない。天の国があればなれるかもしれないが、そんなものがあるかも俺は知らない」


男からしたら悪魔崇拝者の言葉より、サンスリーの言葉の方が信用できた。


サンスリーの指示で、恋人の元に向かう男。

部屋からは独特の臭い。

サンスリーは言葉にしなかったが、恋人の女は狂わされない為にも、悪魔崇拝者達の性欲処理の道具にされていた。


「仮に…命が宿れば、それも生贄に使える…か」と呟いたサンスリーは「拭いてやれ。そうしたら悪魔化させてやる。後は余計なお世話かも知れないが、お前と恋人を弄んだ悪魔崇拝者には地獄を味わって貰うから安心しろ」と言った。


男は恋人を拭きあげて、優しく抱きしめて「向こうで会えたら幸せになろう」と言った所で生贄魔法を使う。

もうここまででたくさんの死が起きていて、あっという間に男と恋人は第7位の悪魔カタイニョになった。


カタイニョはサンスリーを敵と認識して襲いかかってくる。


まだ戻ってこないレンズ達は使わずにラヴァを出すと、「ラヴァ、俺とお前で助けてやる相手だ。本気を出してくれ」と言って限界まで力を注ぐ。


ラヴァは軌跡しか追えなくなる。

光が走った後、すでに全く別の場所でカタイニョの身体を切り刻んでいる。


あっという間に傷の再生がなくなった所で、剣のひと突きで全てを終わらせていた。


サンスリーの周りを舞うラヴァ。

剣越しに見えたのは、かつて2人で共に過ごした若い頃の自分達だった気がした。


サンスリーは「さて」と言うと、「盤面を壊すとしよう」と言うと、手に入れたタノダケ・べナス・ロエンホの中にあった生贄魔法を使い、男から聞いていた、静かになったら裏口からコッソリと逃げようとする本部長にひたすらに悪魔召喚の生贄の呪いをかけていく。


まさに腹心達と隠れていた本部長は、自分の身体に襲いかかってくる違和感に慌てたが、その時にはもう手遅れだった。


本部長はイカホツヤクウブになると、本来なら真っ黒な体毛は銀になり金になる。


この場では死が蔓延していた。

それを生贄にして本部長は最大限の強化を済ませ、周りの腹心達を皆殺しにすると外へと出ていった。


サンスリーは「探知魔法、生贄魔法」と呟き、まだ隠れている悪魔崇拝者達を見つけると片っ端から悪魔にしてしまう。


わざとリンフラネトレで止めたり、カタイニョにしたりする。


悪魔崇拝者達は仲間の誰かが自分だけ助かる為に暴挙に出たと憤るが、やっているのは全てサンスリーだった。


悪魔達は本能的に第三騎士団を狙って外へと飛び出していった。

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