第28話 名剣の母06/23。
王都に着いたサンスリーは苛立ちと共に、部隊長に「おい」と言う。
「申し訳ないとは思うが任務だ!君も明確な任務の方がいいだろう?」
そう言ってしまうのは、王都に着き、第一から第七までの騎士団長から穴が開くほど睨まれて、聴取に応じたサンスリーが「先に報酬を出せ。タノダケ・べナス・ロエンホを渡せ」と言った時、窓口のエンタァの代わりの窓口になっていた部隊長を差し置いて、第三騎士団長が現れると「勿論、在庫から出すのもいいが、取りに行こうではないか」と言い出した。
何を言いたいかわからないサンスリーではない。
今から本部を襲い、奉納されたタノダケ・べナス・ロエンホを手に入れろと言っている。
失う分と補填する分。
本部まで潰せる。
やり方が汚らしい。
「出立は三日後。それまでは旅の疲れを癒してくれ。行くメンバーは、君と王都に残っていた我々。後はエンタァ以下、君が蹴散らした若者達だ」
つくづくやり方が汚い。
サンスリーは騎士団長が居なくなると、部隊長に「おい」と言ったが、「勘弁してくれ。名ばかり部隊長なんだ」と返されて、その情けない顔を前にすると、文句は出てきようもなかった。
サンスリーは時間を有効に使う。
騎士団長の許可を得て、タノダケ・べナス・ロエンホを借りて読む。
それ以外にも門外不出の資料を読み漁り、知識として蓄えていく。
そんな中、問題は2個ほどあった。
エンタァはゲイザーに訓練をつけてほしいと言い出し、訓練所に向かった時、「ゲイザー、紹介させてくれ」と言ったエンタァは、横に女性の騎士団員を立たせて「僕の妻、グランディだ」と紹介してきた。
若い騎士団員の夫婦。
民衆には希望の星に映るだろう。
「はじめましてゲイザー。グランディです」
だが、ゲイザーは握手をした直後、エンタァを殴り飛ばす。
グランディの悲鳴の中、「何をするんだ!?」と言うエンタァに、「なんで身重の女に鎧なんて着せるんだ」と返すと、「え?」と聞き返すエンタァとグランディ。
「はぁ…」
ため息と共に呆れるサンスリーは、「医師に見せろ。初期だが医師ならわかる」と言うと、エンタァはグランディを抱いて医務室まで駆けていく。
その間、ひとつ問題があった。
悪魔崇拝者が呼び出した悪魔と同じ障壁の効果を持った板を斬り試して欲しいと言われたサンスリーは普通の剣と名剣を出された。
普通の剣と言っても一級品で悪くない。
リンフラネトレを倒した時にこの剣があれば現地調達の必要もなかった。
だが、問題は名剣を手にした時、ドルテが過剰に反応して、「ゲイザー、その剣は持っちゃダメな剣だよ。触らないで」と言って飛び出すと、サンスリーの周りを飛び回り、今にも剣を叩き折りそうな意志を感じた。
サンスリーは剣を下ろすと「何故かファミリアが拒否反応を示した。やめておく」と言って名剣を振るうことを断った。
夜はお祝いと歓迎会。
お祝いはエンタァとグランディの懐妊。
歓迎会はサンスリーと悪魔崇拝者の本部を叩きに行ける事への決起集会や親睦会みたいなものも含まれている。
横のつながりが薄い、騎士団の中でもサンスリーは有名人で、かつてドルテをファミリアに迎えた時の第七騎士団員がわざわざ会場に現れて、「ようやく王都で会えたな。今度は第七にもきてくれよ」の言い、スィンシーを失った時の第二騎士団員も来て、「訓練をつけて欲しいのだが、頼めないか?」なんて言ってくる。
正直ゴメンだった。
訓練だの模擬戦は言い訳で、狙いはサンスリーの戦力調査に他ならない。
見た感じ、苦戦するような相手はいないが、騎士団員は個ではない。1人を倒しても終わらない。全てを倒すまで戦いは続く。
辟易と酒を飲むサンスリーにエンタァが近づいてきて、「ゲイザー!教えてくれてありがとう!俺の子が男の子ならゲイザーって名前にしたいよ!」と言い出す。
「やめとけ、性格が悪くなる」
この返しに他の騎士団員も笑いながら、エンタァの子供はエンタァに似て繁殖力は強そうだと軽口を叩く。
聞けば、エンタァとグランディは新婚ホヤホヤで、恐らく初夜で子を授かった事になるという話だった。
サンスリーは騎士団員達の切れ目で、今回旅をした部隊長が近付いてくると、「君が、ダイヤモンド鉱山の冒険者だったのか?」と聞いてきた。
「何?」
「反転騎士を倒したのは私だ。調書も取った。あの領主は最後まで君のやった、聖木と聖水、ミルク粥の話をしていた」
「リャントーはあんな所で死ぬべき人間ではなかった。怨み玉の瘴気に当てられていたが、キチンと療養すれば復帰も可能だった」
サンスリーは改めて何があったかを話し、怨み玉を成仏させた事まで伝えた。
話の流れで「本当に国はどうかしている。無理な税を課さなければ…こうはならなかった」と漏らした時、饒舌だった部隊長はダンマリを決め込んだ。
「どうした?」と聞いても首を横に振るだけで答えない。
そうなると一つしかない。
「魔法契約か」
魔法契約で王国を悪く言えない。
王国の花形。
王都騎士団でもこんなものか。
サンスリーは呆れながら「俺なら解除できるぞ?解魔法を使うか?」と聞くと、首を横に振った部隊長は、ようやく「いや、契約が剥がれると、家族達に被害が及ぶ。反勢力とみなされて厳しい…、第一騎士団の討伐対象になり、捕まれば激しい責苦が待つ」と言った。
人質。
大人しく飼われていれば安寧が保証されるが、一度逆らえば、怨敵にされる。
呆れたサンスリーは「まったく」と呆れると「仕事はキチンとやるから安心しろ」と言っておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます