第27話 名剣の母05/23。
悪魔祓いを主とする王都第三騎士団と言っても、他の騎士団連中と大差ない。
若者は若者らしい笑顔、ベテランはベテランらしい落ち着き。
あるとしたら多少の選民思想で、若干偉そうだったりする。
王都への移動中。
サンスリーのお目付け役としてエンタァという若い騎士がサンスリーに張り付くようになる。
「依頼は受諾したんだ。逃げたりしない。トイレくらい1人で行かせてくれ」
「違う。僕は貴方を守るんだ。聖騎士を護衛にできるなんて光栄だろう?」
王都騎士団の連中の中には、自身を聖騎士と呼ぶ輩もいる。そして…それを言う事は幼さの現れにも等しい。まだ汚い仕事をしていない。
特に第三騎士団は明確な敵を殺すのでこの傾向が強い。
サンスリーは心の中で、自分より強くなってから言ってくれと悪態をついてしまう。
それくらいに、自分の王都第三騎士団という、立場に誇りのある男が四六時中付きまとう事に、タノダケ・べナス・ロエンホの為とはいえ、間違った選択をしたと後悔し始めていた。
まあ旅路には何もない。
否、不満は散見している。
困っている人々を見ても見て見ぬ振りをする。
「適切な騎士団が対処にあたる。領主を通して依頼を出してくれ」なんて言うが、この領地は好色家の領主が手当たり次第若い娘を集めている。
今、不敬罪と言われる危険性を無視して泣き付いてきた男は7日前に恋人を領主に奪われていた。
領主を通す?
その領主がクソ以下の時にはどうする?
「第二か第六に丸投げか?だが領主が悪の場合は?」
「それは我々は推し量れない。隣の領地から依頼を出して貰うしかない」
サンスリーはエンタァの規律通りの返しに苛立つと、棒読みで「ドルテ、まさかやるというのか?やめろ」と言うとドルテを放つ。
「女を穴にする悪い奴!ゲイザー!力注いで!やってくるよ!」
サンスリーは表情には出さないが、ドルテに力を注ぐと、ドルテは光の尾を残しながら飛び立って、直ぐに戻ると「やったよゲイザー!家ごと真っ直ぐ貫いてやったよ!」と言う。
「な…、何をした!?」
「いや、すまん」
サンスリーは【自由行使権】を見せながら、「元々スレイブ使いだったファミリアが、時折制御を失ってな。何、今までも問題になるような悪人しか狙ってこない。民間人は無事だ」と説明して、助けを求めにきた男に「運が良ければ間に合ったはずだ。迎えに行け。俺が勝手にやった事で依頼じゃない」と言う。
エンタァは仲間に確認を任せて「ゲイザー、勝手をされては困る。我々は緊急時以外の介入を認められていない」と言った。
どうにもその言い方が気になったが、確かめようは他にもある。
サンスリーは「悪人が1人減った。王国は代替わりの税金で儲かる。悪い事はない」と答えてエンタァの言葉を無視した。
サンスリーの気分が悪くなったのは夜の事だった。
夜になり、エンタァに頼まれた兵士が追いつくと、先程ドルテが始末した領主の話が聞けた。
手遅れだった。
あの助けを求めた男が助けたかった娘は、初日に抵抗した為に薬物で壊されて手足を取られていた。
まだ良かったことは、薬物の影響でこちら側に戻って来れず、男の絶望の顔を見る事もなく、手足を失った事すら理解できない事。ただし四六時中発情して男を求める。それこそドルテの言う穴になっていた。
憤るサンスリーに、エンタァは「君の行為は無駄だったようだ」と言う。
挑発行為にいちいち感情を乱すサンスリーではないが、どうもお花畑の住人。王都騎士団相手では訓練が足らずに苛立ちが前に出てきてしまう。
そもそも挑発している気はない。
ごく普通に話してくる。
だからこそ腹が立つ。
サンスリーが黙っていると、「こう考えないか?彼女は領民の平和の為にその身を捧げたんだ」と、本当に善意から出た言葉を笑顔で放ってきた。
サンスリーは我慢ならず、部隊長にエンタァと離さなければ違約金を支払っても依頼を断ると言いに行く。
まだ部隊長はサンスリーに近い中年だったので、「若さ故、と言っても貴公には耐え難いか、だがこれもエンタァを鍛える為と思ってくれないか?」と理解を示しつつも、継続を願ってくる。
サンスリーが嫌そうに「おい」と言いかけた所で、「模擬戦、今ここでして欲しい。志と理想、高潔さだけでは誰1人守れない事をエンタァに教えて欲しい」と言う。
どんなお題目があっても、サンスリーには好きに殴っていいと言われたわけで、「わかった」と応じると、模擬戦を行った。
圧勝だった。
エンタァは剣も魔法も何も通じずにサンスリーにボコボコにされていく。
「俺をリンフラネトレと想定して、何人できてもいいぞ?」
この言葉で若い騎士団員達が束になってかかったが、それすら通用しない。
「おいおい、魔法ひとつ放たず、ファミリアなんて出すまでもないなぁ」
煽りに煽って「それで正義を口にするな。今日の娘達を救えなかったのは、騎士団のありがたい教えじゃない、規律でもない。お前達が弱いからだ。逃げ出したからだ。怖かったんだろ?嫌だったんだろ?認めたら許してやるよ」と言いながら、全員が気絶するまで痛めつけると、「少しスッキリした。ここにいるとコイツらによくない。向こうにいる」と告げて離れて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます