第26話 名剣の母04/23。

女領主は領民達に、これまで心配をかけた事、隣の領地の領主の攻撃だった事を明かして、歌歌い達も呪いの影響で倒れ込み、帰らない医師達はその治療にあたっていた事を説明する、


口裏合わせは済んでいる。


でき過ぎたこの話を領民達は信じるしかない。

だが、そうもいかないのは第三騎士団の連中だったが、それこそサンスリーがいた事で全てが丸く収まってしまう結果となる。


等価交換魔法の使い手は、女領主とサンスリーの好意で存在を秘匿して逃すことにする。


だが、館全員の歌を歌う人間の喉だけを呪う行動、それ自体は普通にリンフラネトレや第1位の悪魔イカホツヤクウブの召喚よりも高難度でやる意味がわからない。

そして館となれば使用人が鼻歌混じりに仕事をすることもあり、それらが無事な事を怪しまれた。


現れた第三騎士団は半数が隣の領地へ行き、残り半数が女領主の元に訪れていた。


調書を取り、使用人の証言を得た所に、隣の領地、領主の館から第三騎士団の半数が戻ると、痕跡から間違いがない事は証明される。


「だが、この証言はおかしい」


この言葉から、先程の呪いの対象についての違和感。そして、言い方は悪いが、キュウジカインカを短期間で倒せるだけの兵力を有しているとは思えないと追求を受ける。


ここまでは完全にサンスリーの予測通りで、女領主が「たまたま我が領地に来ていた有能な冒険者を雇った。紹介しよう」と言うと、第三騎士団員も「…冒険者…まさか…」と驚く中、現れたサンスリーは「はじめましてと挨拶するか?廊下に居た数人はリンフラネトレの時に会ったかな?」と言う。だが会っていない。あの時は別の騎士団だった。


「君が…自由行使権を持つ冒険者…ゲイザーか?」

「ああ、見るか?」


サンスリーは【自由行使権】を見せてニヤリと笑うと、騎士団員は「ほぼ全て納得が行った、唯一不思議なのは、オショタネノモを召喚する為の呪いから、何故キュウジカインカになった?」と聞く。


「概ね想像がついていても、説明が欲しいのか?」

「ああ」


「俺は昔、等価交換魔法を触りだけ聞いた。呪いも交換が可能なのか試す事を条件にして、歌歌いに試してみたら交換できずに呪いが増えた。なので更に歌歌い達を領主に頼み雇い、領主を含めて7人に増えた呪いを返したから、奴はキュウジカインカになった」

「やはりか、それではどうやって倒した?報告にあったリンフラネトレの時と同じか?」

「いや、あれは知り合いが素体にされていたから、限界まで裂いたが、今回は人を呪うような奴だ、容赦なくファミリアで撃ち抜いて終わらせた」


「それでファミリアの痕跡が館の至る所にあったのか…」

「そこまでわかっているのに、しらばっくれるなんて悪い奴らだ。だがこれで解決だろ。後は領主に悪魔討伐の報奨の話と、隣の領地からの宣戦布告と撃退、そこら辺の処理をしてやってくれ、俺も報酬を貰って旅に戻りたい」


サンスリーの説明に第三騎士団員は「頼む、今度こそ同行を願えないか?」と申し出る。


それはよい面も悪い面もある。

この部分も含めてサンスリーは予測していた。

返事をしないサンスリーに、「なら、依頼として同行を頼みたい」と言い出す。


「依頼なら…断れるな」

「報酬は…、悪魔崇拝者から押収した、魔法書タノダケ・ベナス・ロエンホだ。一冊なら渡せる。団長から万一君に会えた日に交渉用に持ち出していいと言われている」


これも想定通りだが、ここで飛びつくほどサンスリーは甘くない。

黙っていると騎士団員は続けるように説明を始めた。


「探していたのだろ?各地で悪魔崇拝者に繋がる依頼を受けたのは調べてある。だが、タノダケ・ベナス・ロエンホはそんなに外に出ない。これからも手に入らない中で、依頼を受け続けるか?それなら今我々の依頼を受けて王都に来てくれないか?」

「足りないな。他の騎士団には行かない。他の権力者には関わらない。これは守ってもらう。そして最後に、なぜ俺がタノダケ・べナス・ロエンホが手に入れられなかったのか説明してくれ」


サンスリーの質問に、第三騎士団員は「アレを書き切った悪魔崇拝者は、本部に奉納してしまう。基本手元には置かない。置いてもメモ書きレベルのものしか置かない。今までのように支部や野良の悪魔崇拝者を襲っても無駄なんだ」と説明をする。


「初耳だな」

「だろうな。悪魔崇拝者達もタノダケ・べナス・ロエンホを本部に奉納する話は秘匿している。知っているのは本部を潰した事がある我々と、悪魔崇拝者達だけだ。支部を潰して手に入るのは奉納前の極めてレアなケースだけだ」


本部の規模はわからないが、サンスリーなら壊滅も可能だ。

だが、位置はわからない。

サンスリーはその辺りも含めて、なんとか聞き出してしまうつもりになると、「わかった。同行しよう。期限は?」と聞く。


「移動を含まずに最低2カ月だ」


サンスリーは女領主に「報酬はそのうち取り立てにくる。いつでも渡せるように用意だけしておいてくれ」と言い、王都へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年11月22日 12:00
2024年11月23日 12:00
2024年11月24日 12:00

最後の仕事は見て行動を起こす事。 さんまぐ @sanma_to_magro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ