第25話 名剣の母03/23。
サンスリーはうまくいき過ぎていて、「なんだ?少し気持ちが悪いぞ」と漏らして、ドルテが「いいじゃん。ゲイザーなら余裕だよ。ラヴァ達もゲイザーは心配性って言って笑ってるよ」と語りかけてくる。
「そうか?」と返しても警戒は解かない。
それくらいうまくいき過ぎていた。
隣の領民が続々と逃げてくる中、足の速い連中、領地端に住む、中央からきた連中の話を聞いた連中は4日で来たが、本気のサンスリーは風魔法も駆使して1日で街の端に到着する。
淀んだ空気。
ダンジョンの圧迫感を放つようになった街を歩くと、生き残り達はちらほら居る。
生き残りに聞いてみると、逃げてきたのは街の中心、領主の館に近い連中で、キュウジカインカが現れたのも領主の館で、そこから正円状に人々は逃げていた。
証人の1人も欲しいと思っていると、運良く領主の館に勤める使用人が居た。
なぜ逃げないのかと聞けば、足の悪い母親を見捨てられないから街に残る事にしていた。
ここで、うまくいき過ぎていて、サンスリーは気持ち悪さを口にしていた。
「有益な情報が出てくれば、隣の領地で保護してもらえるように頼んでやる。母親も連れて行ってやる。このまま後15日近く待って、仮にキュウジカインカに殺されなくても、王都騎士団が来て、領地が復興しても領主の変更で増税が待っているし、職もなくなる。どうする?」
使用人の男は館の中で聞こえた噂話をまとめ上げていた。
サンスリーはそれを聞いて筋道を立てていく。
簡単のひと言だった。
税率も低く、住み心地の良い領地があれば、皆隣の領地に行ってしまう。
行かれると、税収の見込めない領主は増税をして誤魔化し、悪循環におちいっていく。
更に領地の産業である染物が流行り廃りの波で、ちょうど廃りの時期が来ていて、資財を投げ打つ道しか残されていない領主は、悪魔崇拝者の甘言に踊らされてしまっていた。
後はサンスリーの見通し通りだった。
女領主が悪魔化し、王都騎士団に討たれ、領主が代わり増税により人々が自領へと戻ってきたら万々歳、そんなバカみたいな計画だった。
悪魔崇拝者がやはりいた。
懸念は、呪い返しは悪魔崇拝者に行ってしまった結果、魔法書タノダケ・ベナス・ロエンホが手に入るかだった。
だが悪魔崇拝者は今日も増えていて、魔法の素質があれば魔法書の複製の仕事を請け負い、複製をする中で、魔法使いに育っていく。
倒していけばいずれ手に入る。
サンスリーは頭を切り替えて、王都騎士団がくる前にさっさと依頼を片してしまう事にした。
「ゲイザー、私達も準備万端だよ!スィンシーもやれるよ!」
「今回はお休みだドルテ」
「えー?なんで?」
「この前の剣、グランドカイザーが拗ねる。使ってやらないとな。聖剣は悪魔を討つ為にあるんだから、使ってやらないとな」
サンスリーの頭の中には不貞腐れた顔のドルテがいて、笑ってしまう。
周りからしたら悪魔が跋扈する領主の家を目指す冒険者が笑っていたら恐怖でしかない。
最初は「危ないぞ」、「行ってはダメだ」と言われていたが、最後は誰もいなくなっていた。
「スィンシーは助ける必要があったが、コイツは別にいい」と言って、サンスリーはグランドカイザーを取り出すと、一撃でキュウジカインカを葬り去る。
かなりの人間を取り込んでいたのもあり、絶命時の絶叫は想像以上のモノだった。
サンスリーは探索を行う中で、「ドルテ、本だ。見つかったら呼んでくれ」と言ってドルテを放って1日探したが、魔法書タノダケ・ベナス・ロエンホは見つからなかった。
「やれやれ、手だれで頭に全部入れていた口か…」
サンスリーはボヤきながら証人になる使用人の親子を保護して、女領主の元へと帰って行った。
行きは1日だったが、帰りは一般人の足になるので5日かかる。
サンスリーからすれば長旅になってしまったが、女領主はまさかの早さに目を丸くしていた。
報告と、証人として使用人の親子を連れてきた事、この親子の保護を頼むと女領主は快諾し、キチンと勤めを果たしてくれれば、住む場所と仕事も用意すると約束をした。
だが、それはあくまでサンスリーがいてこその約束だと女領主は言い始める。
正直、タノダケ・べナス・ロエンホがなかった以上、次の依頼に向かいたい。
「おい?なんだそれは?」と聞き返すサンスリーに、「あなたが調書の前に旅立たれて、彼らが裏切ると色々と困ります」と女領主は答える。
確かにあり得る。
歌歌いも医者も、使用人の親子も善人には見えるが、何をするかわからない。
正直、第三騎士団にはまだ会わずに済ませていたい気持ちもあったが、リンフラネトレを討ち取ってから、そこそこの時間が過ぎた。頭を切り替えて、一度会うことも悪くない気持ちでいた。
サンスリーは「仕方ない。王都第三騎士団が来るまでは逗留しよう。先にこちら側からキュウジカインカを討伐した報告を出しておいてくれ。その代わり、報酬に色をよろしく頼む」と言い、大人しく逗留することにした。
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