第24話 名剣の母02/23。

事件はサンスリーの予想を大きく裏切る。

女領主の元を訪れた魔法使いは悪魔崇拝者ではなく、本当に彼女の歌の愛好者で、隠していた正体を明かして、彼女の為に等価交換の魔法を使っていた。


館に潜入したサンスリーが見たものは、等価交換の魔法に失敗して打ちひしがれる魔法使い、声が出ない中でもなんとか筆談をしている女領主。


帰らない医者と歌歌いは等価交換の魔法を使った際に、何故か魔法が失敗しただけでは済まず、歌歌い達も声を失い、更に熱病に冒されてしまい、その治療に当たっていた。



こうなるとは思わなかったサンスリーだが、4つの依頼書を見せながら女領主にある提案をする。


「ふむ。この4つの依頼の他に、俺に依頼を出さないか?」

[それはなん…]

「短い文章で構わない。その喉、近くで見たらわかる奴にはわかる。呪いの魔法だ。等価交換で呪いが交換ではなく、伝播したから歌歌い達も倒れている。発熱は謎だ。呪いの内容はなんだかわからないが、俺なら解魔法で呪い返しもできる」


[それをすると?]

「相手に呪いが跳ね返る。相手は声が出なくなり、その先は…呪いの成就が待っている。流石に呪いの成就は何が起きるのかはわからない。だが向こうもわかってない事がある。歌歌いは6人。6人全員に感染した、全てで7人分の呪いが跳ね返る。どうなるか楽しみだな」


[相手がわかるのですか?]

「そんなもの、すぐにわかる。呪いの魔法なんてそうそう使えない。跳ね返されたところは、10日もすれば大騒ぎだ。損害賠償の請求でも楽しみに考えればいい。どうする?依頼するか?」


女神と呼ばれた女領主は怒りに染まった目で頷いた。



サンスリーは医者達と同じく逗留の許可を貰うと、等価交換の魔法使いと少しだけ話をする。

教えて貰うには申し訳ないのだが、どのようにやるのか、解魔法の為に知識が欲しいと告げると、まだ若い等価交換の魔法使いは基礎の基礎ならと言って、等価交換魔法をサンスリーに教えてくれた。


この性格なら隠れ住むのもよくわかる。

究極のお人よし。

この性格なら間違いなく悪用される。


翌朝、サンスリーは最後に等価交換を行った歌歌いの呪いから跳ね返して行く。

女領主は、少なからず自分からだと思っていたのだろう。

困惑の表情を浮かべる女領主に、サンスリーは「アンタのを返して完了扱いになって、コイツらの呪いが跳ね返らなくなると厄介だから、逆順だ」と説明し、午前中には7人の呪い返しを行うと、夕方には7人全員の喉が元に戻り声が出る。原因不明の熱病も無事に解熱しはじめてきた。


これには全員が喜んだ所で、「全員が丸く収まるシナリオを用意した。これを飲めば領主様は十分な保証をしてくれる」と持ちかけるサンスリー。

女領主には「歌歌いの分も損害賠償請求ができる。従ってくれ」と持ちかけると、「当然です。言ってください」と声を発する。

確かによく通る綺麗な声だった。


サンスリーのシナリオでは、男の存在は争いの種になるから、ただ女領主を心配して屋敷に忍び込んだ愛好家にしてしまう。歌歌い達は慰問で訪れて、一曲歌うと声が出なくなり、熱まで出たことにする。医者達は何も知らず、治療にあたった。


慰問に来た歌歌い達は、皆依頼書の通り正当な報酬の他に、別で特別な見舞金が出る。

これ以上を望めば痛い目に遭うのはこの世界の常識で、歌歌い達も素直に従った。



呪いの発生源は10日も待たずに済んだ。4日後には隣の領地の領民が大挙して避難してきて保護してほしいと言ってきた。


「領主の館から緑色の悪魔が飛び出してきたんだ!」

「あれは聞いた事がある!第4位の悪魔、キュウジカインカだった!」


そんな噂はすぐに女領主の耳に入る。

話を聞いたサンスリーはニヤリと笑うと「追加依頼を出すか?」と女領主に持ちかける。


「説明をお願いします」

「なに、呪いをかけたのは隣の領主に取り入った、悪魔崇拝者だったんだろうな。まあ確度には自信があるが、大体の流れは第10位の悪魔オショタネノモを召喚する予定だったんだろう。アンタが喉の呪いで死ぬ。それを生贄に遺体が悪魔化をする。第10位なのは、甚大な被害が出る前に、王都騎士団に討伐させる為だ。王都騎士団の討伐で、この領地は空白になる。それが欲しいのか、また別の理由があるのか…、それは流石にわからない。だが、運悪く、等価交換魔法の使い手と、呪い返しの解魔法を持つ俺が居た。等価交換で増えてしまったと6人分の呪いが重なって、一気に呪った者に跳ね返る。オショタネノモなら、まだ被害が甚大になる前に解決もできるが、キュウジカインカは無理だな。だが俺なら勝てる。俺に依頼を出せばキュウジカインカを倒してくる。そして証拠があってもなくても、隣の領地で起きた問題を解決したアンタは王国を通して賠償請求、資財の没収が出来る」


女領主は頷きながらサンスリーの説明を聞き、一通り理解した所で、「それをするとあなたに何の得が?」と聞いた。


「悪魔崇拝者狩りをしていてな、どうせなら依頼が欲しい」と言ったサンスリーの言葉に、「では依頼を出します。受領して向かってください」と女領主は言った。


「ああ、任せろ」と返したサンスリーは笑っていた。

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