第23話 名剣の母01/23。
ようやくシューカシュウとのいざこざが終わり、日常に戻れたサンスリーは、依頼をこなし、スィンシーを鍛えながら、あるモノを探していた。
それは悪魔崇拝者達が持つ魔法書タノダケ・ベナス・ロエンホだった。
生来の性質や育ってきた環境もあるが、やはりタノダケ・べナス・ロエンホを手に入れて、万一に備え、様々な知識を手に入れたいサンスリーは、今日もまた悪魔崇拝者に繋がりそうな依頼を受けた所だった。
歪な依頼。
4つの依頼は異常の一言で片付けられていた。
それもあって誰も受けない。
受けてもいい事はない。
後20人くらい犠牲が出て、この土地全体を覆う空気感がダンジョンのそれに近付いてきて、初めて王都騎士団が立ち上がる。
だが、騎士団連中は手続きだ、確認だと言って、様々な言い訳を駆使する。
そして全てが手遅れになり、犠牲者の数が街の半分になった頃、仰々しく現れて、解決に導き、恩を売って去って行く。
悪魔崇拝者達もそれを見越している。
自分達もトラブルの一端を担っているくせに、王都騎士団を王都の連中を、一部の力持つ連中を悪く言い、更に信者を増やして行く。
この話は、この依頼が出た所で詰んでいる。
依頼は、謎の奇病で声の出なくなった女領主の喉を治せる者を求めるモノと、女領主の喉を治す為に呼ばれた医者達が行方不明になったから探して欲しいというモノ、そして女領主の心を癒せる歌歌いに慰問に来てもらいたいモノと、行方不明の歌歌いの捜索を依頼したいモノ。
わからない奴はいない。
一つずつ話せば子供すら理解する。
この世界にはふさわしくない程に名領主と名高い女領主。
それを行えるだけの肥沃な領地があるお陰だが、税も低く、子供や老人達を優遇する姿は女神そのもの。
そして、女神と言わしめるのには自慢の歌声があった。
子供達も女領主の歌声を楽しみに待つ。
そんな中、ある日突然声が出なくなった女領主は、領民達の心配の声には笑顔で応えたが、着実に壊れていた。
医者を求めて、歌歌いの慰問を募るのは女領主。
行方不明の医者は治せる見込みはないと診察したか、結果が出せずに報いを受けた。
行方不明の歌歌いは悪魔崇拝者の呪いに使われた。
等価交換の魔法に騙されているのだろう。
スィンシーを悪魔リンフラネトレに変えた悪魔崇拝者が使った生贄魔法を等価交換の魔法の一部だと教わる。
等価交換の魔法もこの世界には存在しているし、使う事で今回なら願った結果も得られる場合があった。
だが、女領主に接近したのは悪魔崇拝者で、教わった魔法は生贄魔法だという事。
等価交換の魔法は秘匿性が高く、おいそれと手に入れる事は出来ない。
現に、サンスリーは効果なんかは知っていても、見たことも使った事も教わったこともない。
巨万の富を産む魔法で、知る者は無闇に人に教える真似はしない。
病に冒された権力者は大体等価交換の魔法使いを探し求める。
見つけるのに大金が必要になる。
そして見つかれば、金を積んで等価交換の魔法を使わせる。
胸の病なら、健康な人間を用意して、交換がなされるまで魔法を使う。
だが、等価交換の魔法使いは、噂ではその身を守る名目で王都に軟禁されていて、国王や宰相達の為に使われているので、こんな何もない土地に来る事はまずあり得ない。
余程、表舞台を嫌う魔法使いが居て、女領主のファンだからと言えばそれまでだが、そんな上手い話はない。
十中八九、悪魔崇拝者が身元を誤魔化して女領主に近付き、生贄魔法を使わせている。
本来、等価交換の魔法なら、喉なら喉の交換だけで済む。
声の出ない喉と声の出る喉の交換。
依頼が書き出される程の犠牲はいらない。
「まだ治らない。余程領主様の病魔は重いものなのでしょう。仕方ありません。次です」
この言葉で女領主は戻れない所まで来たのだろう。
「この喉の病は命を蝕むもの、早く治さなければ、あなた様が領主を辞められたら、領民達の地獄が始まってしまいます」
こんな言葉でもいい。
領民思いの領主なら、間違いなく代替わりで跳ね上がる税を気にしたら延命に舵を切る。
悪魔崇拝者までは辿り着けなくても、女領主が壊れて医者と歌歌いを殺している事くらいは皆想像がつく。
暴いてもいい事はない。
だからこそこの依頼は放置されていた。
だが、サンスリーは違う。「歌歌いや医者が心配だな、探そう」と言って依頼を受諾してしまう。
あわよくば悪魔崇拝者か魔法書タノダケ・ベナス・ロエンホに行き着いてくれればいい。
その気持ちで依頼を受けていた。
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