第21話 悪魔崇拝者とコレクター09/10。

リンフラネトレの攻撃力は圧倒的で、咆哮ひとつでシューカシュウの館は壁が崩れてしまう。


そして火を放ち、岩を生み出して投げつけてくるが、魔法攻撃ではないので折角の鎧についた魔法防壁が仕事をしない。


コレクターだった癖に、子飼いの騎士達の装備にはあまり金をかけなかったシューカシュウのせいで、剣は飛んでくる岩を二度切り裂いたら刃こぼれをして歪んでしまった。


「ちっ、使うべき所に金をかけろ!ウインドブレイド!」


サンスリーは飛んでくる岩を風魔法で切り裂きながら距離を取る。

リンフラネトレは、完全にサンスリーを敵視して狙っている。

撤退は出来ない。


そもそも撤退をする気はない。

このままリンフラネトレが野に放たれれば、万単位で人が死ぬ。

そしてその死はリンフラネトレの生贄になり、さらに強固な個体に変わり、強化が終われば延々と現世に繋ぎ止める為の燃料になる。


そうなれば王都第三騎士団が制圧に来る。

それだけは避けたかった。


サンスリーは、今現在グランドカイザーを所有している。

グランドカイザーなら、飛んでくる岩なんてバターのように切り裂ける。

向かってくる炎は、グランドカイザーを向けたら炎が避けていく。


だが、それでは王都第三騎士団が来るのと何一つ変わらない。


サンスリーは嫌な逸話を知っていて躊躇している。

創作物の可能性もあるが、スィンシーが素体になっている以上、無碍にしていいものではない。


“悪魔にされた者は、未練の残る生贄の力が残ったまま討たれると、その魂は未来永劫苦しむ事になる”


眉唾であれ、なんであれ、グランドカイザーでオーバーキルをしてしまうと、スィンシーを助けられない。


今手元には最弱の剣と最強の剣がある。

最強ならばなんの苦労もない。サンスリーが本気で聖剣の力を引き出して振れば、二位と言われていても一撃でリンフラネトレは消え去る。

だが、それではスィンシーは助からない。

出来るなら第三騎士団の持つ名剣が欲しかった。

それがあれば、限界までリンフラネトレを切り裂いて、傷を癒す事に生贄の未練や魂を使わせてしまえる。名剣でもオーバーキルになるようになれば、肉弾戦でも魔法でもなんでも駆使して倒せるのに、その苛立ちに呼応するようにドルテが前に出て、飛んでくる岩を迎撃する。


「ゲイザー!なにやってんの!?さっきの剣は!?」

「ドルテ!スィンシーを眠らせてやるには、アイツが取り込まされた、この館の連中の未練なんかを使い切らせる必要がある!だが適切な武器がない!このままではジリ貧からの根負けになる!」


「ならゲイザーが頑張って!普段以上に私達に力を頂戴!」

「ドルテ!?」


「ラヴァもサシュもソシオもスゥもセウソイもエムソーもレンズも、皆やれるよ!あの子を私達で助けるんだよ!命を振り絞ってよゲイザー!」


普通にドルテと会話をしてしまうサンスリーは、呆れ笑いをして「お前は本当に無茶苦茶だな。だが、ラヴァが言っているのなら任せてみるさ」と言うと、あのドルテが来てくれた小屋を思い出し、そこの地下に閉じ込められていたラヴァ達を思い出し、「力を注げ?お前たちこそ、振り回されるなよ」と言う。


サンスリーは深呼吸の後で「行け!ラヴァ!サシュ!ソシオ!スゥ!セウソイ!エムソー!レンズ!ドルテ!奴を丸裸にしろ!」と言い、ファミリアの全弾発射をすると、決して貫通しようとせずに、体表を削り取るようにリンフラネトレの周りをファミリア達は飛び交っていく。


まるでリンフラネトレが発光している風に見えてしまう景色の中、明らかにリンフラネトレのプレッシャーが消えてきた。


サンスリーは「ラヴァ!離れろ!お前は強力すぎる!レンズ!お前がやれ!皆は戻れ!」と言ってレンズのみにすると、レンズには荷が重い。

何度かリンフラネトレに迎撃されては再起動をして襲いかかるレンズ。

ようやく腕につけた傷が治らなくなると、サンスリーは念入りにリンフラネトレを切りつけていく。


「安物め」と悪態をついたサンスリーが4本目の剣に持ち替えた時、リンフラネトレは膝をついて動けなくなる。


常人はコレで終わると油断をするが、サンスリーにはそれがない。


「レンズ、戻れ。スゥ、エムソー、奴の手足を破壊しろ」


その行動が、せめて一矢報ろうとしているリンフラネトレを、ようやく沈黙させる事に成功をした。


リンフラネトレがうつ伏せて動かなくなると、サンスリーは剣を背中に突き立て殺す。


噂の真偽は別として、悪魔を葬った時に出てくる絶命の叫びはなかった。

あれは生贄の未練が発する声だと言われていた。

それが出ない。

スィンシーの魂は無事に解放されたと思いたかった。

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