第15話 悪魔崇拝者とコレクター03/10。
手紙には自身が悪魔崇拝者で、娘と子供を攫ってきて儀式に使用した事が書かれていた。
死後なら何を言われても構わない。
死人に口なし。
サンスリーは近くの村に行き、男が悪魔崇拝者だった事を説明し「後で領主か王都が現場検証に来る。関わっても良いことはない。誰も近付かずに、近付かせるな」と言うと、領地の一番大きな街にある斡旋所で事情を話し、後を任せる。
斡旋所は国営の仕事なので、きちんと領主と王都に連絡が行く。
「その子供と背中の箱は?」
「保護した子供と依頼にあった娘だ。肉体だけは奪還した」
「やるせないな。子供の方はどうする?孤児院なら紹介出来るぞ?」
「足取りはあまり追えないが、多分、娘同様に別の領地から連れられたはずだから、途中の土地で孤児院に入れるか、それまでに洗脳魔法が解けて、名前くらい思い出してくれれば良いんだがな」
サンスリーは保護した子供を一時的にと言って、スィンシーと名付けて共に旅をする。
スィンシーは洗脳魔法の影響で、最初は人形のようになってはいたが、最低限のコミュニケーションは取れていた。
共に川で汗を流した時、背中に見えた鞭打ちの傷なんかを見ると、あの悪魔崇拝者に助けられた、今の方が長生き出来ていた皮肉さと、帰っても救われない事にどうするか考え始めていた。
2週間後、スィンシーがいるために遅くなったが、サンスリーは依頼人に娘の亡骸を届けた。
傷一つなく、眠っている風に見えてしまう遺体に家族は泣き腫らし、サンスリーに礼を言う。
顛末を知りたいと言われて、人攫いに依頼したのが悪魔崇拝者だった事、悪魔崇拝者が死ぬ前に家族を求めて、一目惚れした娘を攫い、洗脳して妻にしたこと、娘の命で生きながらえていた事、洗脳魔法を解いた時、娘が男を殺してしまい、命の繋がった娘は死んでしまった事をきちんと伝えると、父親は泣きながらも「最後はこの子の心が帰ってきた」と喜んでいた。
「それでこの子は?」
「子供役だ。減り続ける命を補う為に後から攫われていたようだ。この子の命を繋ぐ魔法は取り除けたが、逆に洗脳魔法はまだ解けていない」
これから先を聞かれたサンスリーは、ため息混じりに「スィンシーの洗脳魔法を可能な限り除去する。やり過ぎて心が死んだら元も子もない。名前や住んでいた街を思い出したら、帰りたいか聞く」と言った後で、「スィンシー、上着を脱ぐんだ」と言うと、スィンシーは躊躇なく上着を脱ぐ。
背中の傷を見た依頼者夫婦は、痛々しい傷に顔をしかめた後で、「新しい依頼を聞いてくれないか」と言った。
その依頼は、スィンシーを子供に迎えたい。可能であれば洗脳魔法を除去して貰って、家族3人で暮らしていきたいというものだった。
サンスリーはスィンシーも万命共有の影響で後20年くらいしか生きられない事を伝えたが、依頼者夫婦は構わないと言う。
サンスリーはそれならと言って2ヶ月と少しだけ滞在して、スィンシーの洗脳魔法を除去したが、スィンシー自体が過去を消したかったのか記憶は戻らなかった。
日常会話が可能になると、サンスリーは先生と呼ばれるようになり、スィンシーに生きる上で必要な事を学ばせて、依頼者夫婦を「おじさん」「おばさん」と教えた。
見た目もあの悪魔崇拝者が家族として選出しただけあって、娘の方に似ているスィンシーは依頼者夫婦の知り合いとしても違和感はなかった。
サンスリーはこれ以上の除去はスィンシーの記憶も戻らない事から旅立ちを決めていた。
別れの朝、「やれるだけはやった」と言うサンスリーに、「助かったよ。スィンシーは私たちに任せてくれ」と依頼者夫婦は言う。
「先生?」
「スィンシーに基本的な事は教え終わったから依頼達成だ。元気でな。お前には魔法の才能があったから…大人になったら魔法使いになって、おじさん達を楽させてやるといい」
大人になったら。
なんて白々しい言葉だ。
この子はなれて30歳前後だ。
結婚をして子を持つかもしれない頃に、突然死ぬ事が決まっている。
だから教えた知識と技術で、せめて苦労なく生きてもらいたかった。
「また会えますか?」
「旅を続けていれば、また近くを通ることもある。その時には顔を出すさ」
スィンシーは嬉しそうに「はい!」と言うと、依頼者夫婦と手を繋ぎながらサンスリーを見送っていた。
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