第16話 悪魔崇拝者とコレクター04/10。
スィンシーと別れて3ヶ月が過ぎた頃、ドルテを育て、順番が狂ったがレンズも育てる為に、荒事優先で依頼を受けようと斡旋所に顔を出すと、周りがどよめきざわめいた。
嫌な予感に襲われたサンスリーが、依頼の一覧を見ていると、新着の依頼の中にサンスリーの事を言っているとしか思えない、[男を連れて来い]という手配書に近い依頼書が貼り出されていた。
しかもバカみたいな金額がつけられていて、発見の報告だけで5日は豪遊できる金額。
一応、生死不明ではなく、きちんと五体満足で生きて身柄の拘束をして依頼人に届ければ、それこそ10年は遊んで暮らせる額を約束されていた。
だが、まだサンスリーだと決まっていない。あえて知らぬふりをして依頼人を見る。
どう見てもトカゲの尻尾にされているだろう、強欲と評判の商人だった。
この手の依頼はタチが悪い。
相手が諦めるまで延々と続く。
手打ちにする必要があるが、まだ人違いの可能性もある以上、自意識過剰に騒ぎ立てる事も間違いで、襲ってきた奴を返り討ちにして、相手が諦めるのを待つしかない。だが、街中で返り討ちにして拘束されても困る。
幸い、サンスリーには【自由行使権】があるので、拘束は無効化出来るが、それは更なるトラブルを起こしかねないので、使い所が難しくなっていた。
それから今日までの約4ヶ月は、常に緊張を強いられた。
大した事はないが、それでも街に入れば四六時中見張られるのは面白くない。
少しでもガラの悪い店に入れば、食べ物に痺れ薬や睡眠薬が入っているのは当たり前になっていた。
店なんかなら、睡眠薬入りを出した事に文句をつけて、キッチンを徴収して好き勝手料理を作り、日持ちする干し肉なんかも作ると山籠りをして、山に追っ手が迫ればそれを倒してドルテやレンズを育てる。
嫌な自給自足、嫌なサイクルができてきた中で、いい加減苛立ったサンスリーが、依頼を受ける形にして、依頼人の所に「人違いだよな?依頼を消すよな?」と迫り、相手の狙いがサンスリーだと判明すれば、相手を壊滅させてから詳しく動機を聞く。
相手もただ別の相手から依頼を受けただけで何も知らない。
言われたのは「40代で1人で冒険者をしている黒衣の男で、白髪混じりの黒紺色の髪色をしている。その男を生け取りにして連れて来い」というものだった。
サンスリーは相手の情報だけ手に入れて、終わらせてみる事にした。
だが、思った通り依頼は出続ける。
次は剣で相手を制圧した事で、依頼書に[剣士]と追加された。
魔法を使って撃退した後は[魔法使い]とも書かれていた。
あり得ない事だが、実家に身を寄せる事も考えた。兄イーワンの為に一度だけ汚れ仕事を受けると言えば、保護もあり得るが、逆に油断させて寝首をかかれかねない。
仕方なく、最初の依頼者から聞き出しておいた元請けの所に顔を出して、暴力でやめさせるように言ったが、そいつもただの下請け…孫請けだった。
依頼を出すだけでも、更新するだけでも金はかかる。タダじゃない。
サンスリーを目撃した情報だけで毎日とんでもない金額が発生している。
相手がそうまでして何を求めているのかわからないサンスリーは、4ヶ月の日々で疲弊してしまっていた。
可能なら全てのファミリアを開放して辺り一面を血の海に変えてしまって大人しく眠りにつきたいし、食事も十分に摂取したい。
こんな言い方は我ながら酷いが、もうすぐ初老になるのだから、もういいだろう。と思う癖がついていた。
だが、今も依頼は出ていて、依頼内容には剣士だが魔法も使う男に変わっていて、もうサンスリーとしか思えなかった。
いい加減、相手が諦めるまでの我慢比べが嫌になり、攻勢に出てこの依頼を出している真の敵を見つけ出して、落とし前をつける必要があると感じたところで、相手も痺れを切らしていて、大々的なサンスリーの生け取り作戦を展開していた。
作戦とは銘打っていても、作戦なんてものはない。
ただただ、使い潰される命がサンスリーを疲弊させ、サンスリーを無力化させる為だけに襲いかかってくる。
第二と第四の騎士団を送り込まれては厄介なので、王都から逃げるように移動をして、今の依頼を出した奴の元請けを目指すサンスリーは岩山地帯にいた。
仕方ないが追い込まれた感じもする。
ここでは自給自足は難しい。
川もなければ畑もない。
野生動物すら滅多に出ない。
水でもあればまだマシだがそれもない。
サンスリーを捕まえにくる連中は、3日前からご丁寧に身一つで来るので、現地調達もままならない。
まだ相手に収納魔法は見せていない。
中から武器や食料を取り出す所は見せたくない。
イタチごっこに終止符を打ってしまわなければ際限がない。
今はたまたま見つけた蛇を確保して、火魔法で焼いて水魔法で水分を得られた。
3日ぶりの食事は小骨が多くて食べにくいが、骨ごと食べれば関係はない。
サンスリーが出す水魔法の水は飲用水ではないので、飲めない事はないが不味い。
サンスリーは「まずい」と不満を漏らしたが、蛇を食べて水を飲んだ事で「よし、後3日はいけるな」と言っていた。
どれだけ殺したのかもわからなくなっていた。
ドルテが出たがったが、それで上被せるようにスレイブ使いがよこされても面倒くさいので我慢をさせる。
とりあえず今は岩山から撤退をして、準備を整えたら相手に落とし前をつけさせる事だけを考えていた。
普段のサンスリーならばこんなミスはしない。
だが4ヶ月以上の緊張に加え、飲まず食わずの疲労。
そして何より、自由に生きていいと言われ、解き放たれたこの数年の日々は、サンスリーにとって耐え難いストレスの連続だった。
家に帰り、父から「次はそこに行け」「今は待機だ」と言われた不自由さこそが、サンスリーの人生そのものだったのに、それをある種奪われて自由にさせられた事が、こんなにも重くのしかかってくる。
だからこそスィンシーの時には、あの悪魔崇拝者の言葉から、妻役の娘は洗脳される前に万命共有をされていると見抜けなかった。
その事から相手の作戦を、サンスリーを誘うように逃げ道が用意されている事に気付けなかった。
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