第8話 家族と領地戦05/05。

どうやってドルテを連れ出すか、それを考えてしまったのは夜更けになっていて、夜明けと共に行動を開始するかと思ったところで、領主の館付近が爆発をした。


サンスリーは高台に見えた領主の館を見て、すぐに魔法の爆発だと気付く。


「バーストファイヤー?何が起きている?だが好機だ…」


サンスリーは逃げる街の人々を無視して、山頂に見える領主の館を目指す。


その時、暗闇の中からサンスリーに斬りかかる5人の兵士がいた。

装備も練度も全く違う。

サンスリーが剣を抜いて対応すると、「何者だ?」と声をかけられる。


「こちらも聞きたい。バーストファイヤーは?」

「我々だが、こちらも聞きたい」


相手の練度の高さが伺えるのは、ここで一気に襲いかかってこないで、警戒体制で動きを抑えるところにある。

これが二流だとこうはならない。


「何を聞く?」

「お前は?」


「ゲイザー」

「この領土の雇われか?」


「いや、今朝までは雇われだった。そちらは?」

「我々は王都第七騎士団」


最悪だった。

なんでここにいるのか、その答えは一つしかなかった。


「仲介!?何日前に言われていた?動員数は?」

「珍しい。我々を知っているのか?」


知っているも何もなかった。

泥沼の領地戦。

期日までの終戦がなかった場合には王都が介入してしまう。


王都は全ての武力を排除して、公平に能力や戦況を見て判断し、次の領主を決める。

サンスリーが介入して勝っても、報告が間に合わなければ第七騎士団が殲滅に来る。



「知っている。ここの領地戦は我々の勝利で終わった。通達が間に合っていない」

「何!?だがこの状況ではどうする事もできないぞ?」


「何人だ!?」

「我々を含めて15人だ、片方を排除しにいったが壊滅していたから、半分に分けた兵の残りを先行させたんだ。仮に共倒れならそれも報告するからだ」


まずい。

早く行かなければドルテでは、スレイブを発動させないドルテでは、第七騎士団が相手では、太刀打ちできずに無駄死にになる。

とは言えスレイブを使えばドルテの命はない。

スレイブは一度に5分。しかも複数の敵を倒すならば、同時発動もあり得る。


「ここの領主は戦闘奴隷にスレイブを使わせている。ファミリア使いはいるか?居なければ撤退出来るほどの実力者は居るか!?」

「い…いない。我々なら迎撃もできるが、ここは弱い土地だから、練度の低い兵の実地訓練を兼ねていたんだ」


ここの5人が強く、残りの10人が新人となると、生きている保証はない。


「わかった。撤退を支援する。スレイブ使いを止めよう」

サンスリーは剣をしまって走り出すと、第七騎士団は後をついてきた。


領主の館は火事で燃え盛っていた。


そこに居たのは3人の第七騎士団の団員と、「死ねない…。死にたくない…。ゲイザーに会うんだ。約束…したんだ」と言いながら、血走った目で戦っているドルテだった。


「お前達は3人を下げろ。俺はあの娘を止める!」


サンスリーが前に出ると、ドルテから目を離した第七騎士団員が、サンスリーを敵と認識して魔法攻撃を行ってきた。


「ちっ、敵ではない」と悪態を吐きながら、魔法を相殺する為に魔法を発動した時、「ゲイザー!?来てくれたの!?嬉しいよ!ゲイザーは殺させないよ!スレイブ!!」と言ってドルテは光を放った。


「やめろドルテ!コイツらはもう敵ではなくなる!話はついたんだ!」


戦闘状況であれば仕方ない事もあるが、これ以上騎士団員を殺してしまえば、戦闘は免れなくなる。


「ちっ!ラヴァ!レンズ!サシュ!」


サンスリーはファミリアを放って、騎士団員を無力化させつつ守ると、足を止めずにドルテを抱きしめて、「もういい!使うな!俺がいる!」と声を大にして落ち着かせる。


その間に第七騎士団達は合流していて、経緯を伝えている。


ドルテは甘えるような幸せを感じる表情で、サンスリーを上目遣いで見て頬を染める。


「ゲイザー…会えたね」

「ああ」


「嬉しいよ」

「ああ」


テンポ良いやり取りの中、泣いたドルテは、「死にたくないよ」と言い、サンスリーは「ああ」としか言えなかった。


「でも、沢山使っちゃったよ。今晩は兵舎で私を使おうとした連中を殺すのに使ったんだ。そしてそのまま逃げようとしたら、コイツらが来て火を放ってきた。残ってた奴らも相打ちになったりして全滅させられた。私はゲイザーと約束したから死ねないって思って戦ってたんだ」

「そうだったのか」


「ねぇ、もう終わりが近いの…。抱いて欲しいけど、その前に死んじゃいそう」

「そんなになのか?」


「ゲイザーは私を使わないで、私を抱いてくれるから抱き合いたいよ」

「そうか?」


「そうだよ。お願い…聞いてくれないかな?」

「なんだ?復讐か?」


「はは…。それもいいね。でも違う。名前、知りたいよ。偽名なんだよね?」

「…サンスリーだ」


「ゲイザーのが似合うね?」

「だから言いたくなかったんだ」


辟易と話すサンスリーを見て笑ったドルテは、「最後のお願い…。私を8人目にして?1人目より使って。私の心はゲイザーと一緒だよ。通じ合ったよ。だから私をファミリアにして」と言った。


どこかわかっていた。

最後はこうなる気がしていた。


サンスリーは「わかった」と言って寝かそうとすると、ドルテは「その前にキスをしてよ。ゲイザーのキスは気持ちよくて、それだけで幸せな気持ちになれたんだ」と言って目を瞑った。


サンスリーはドルテにキスをして、「気持ちいいよゲイザー。やって」と言ったタイミングで、ひと突きでドルテの命を終わらせた。



やり取りを離れた所で見ていて、終わりを見届けてから、「すまなかった」と近付いてきたのは部隊の中では隊長で、「いや、こちらもスレイブの使用で限界だった、この子の介錯が出来て良かった」と返すと、「身柄の拘束をして王都で少し話がしたいのだが?」と言ってきた。


勝てない相手ではない。

だが戦っても良いことはない。

王都には行きたくない。

トラブルに巻き込まれる。


サンスリーは【自由行使権】を取り出して見せて、「断れるはずだ。概要なら話す。俺は5日前に、雇われて領地戦を勝利に導いた。それだけだ」と言うと、ドルテの遺体を抱き抱えてテントを建てた場所に埋葬をした。


まだ血の臭いがする戦場に連れてきた事は少し気になったが、ドルテと過ごした時間からすればここしかなかった。


サンスリーは「レンズを育てたかったのだが仕方ない。ドルテ?」と声をかけると、サンスリーから生まれた光は、レンズやラヴァ達と違い、言うことを聞かずに嬉しそうにサンスリーの周りを飛んでいた。


サンスリーは初めての事に「スレイブ使いだからか?それとも才能か?」と呟くと、「へへへ、ゲイザーと私の相性だよ」と聞こえてきた気がした。


サンスリーは「そうか、よろしく頼む」と言って山を後にした。

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