第7話 家族と領地戦04/05。

ようやくドルテが満足をして、サンスリーの腕の中で微睡む中、ドルテが「少し知りたい。ファミリアの事を教えて?何人いるの?」と聞いてきた。


「7人だな」

「ねぇ、レンズってどんな人だったの?」

「レンズは7人の中では最後にファミリアになった。だから今は鍛えている。元々は戦闘奴隷で幼い時から一緒にいたんだ」


「そっか、じゃあラヴァは?」


聞かれると思っていた。

どうしてもサンスリーは残りのファミリアの中では、1番古参のラヴァをよく使う。

それは信頼感も何もかもが群を抜いている。


「ラヴァ…か、ラヴァはウチのメイドだった。初めてウチに来たのは、9つの時だったな。俺と歳が同じだからと親が雇っていた」


「ゲイザーは権力者の子供なの?」

「ああ、3番目の子供だ。1番目ではないから、衣食住は保証されていた…いや、様々な経験をさせられたから、手足が伸び切ると飲まず食わずの日々を味わうように言われて、苦しんだこともあったな」


「どんな子供だったの?」

「実験動物だな。勉強、戦い、生きる為の知識、全てを叩き込まれた。魔法もその一つだ」


話が広がりすぎてそれ始めた事にドルテが「あ、ラヴァのことを聞いてたんだった」と言うと、サンスリーが「そうだったな」と言うと「ラヴァは同い年の女の子だったよ。多分、最初から俺のファミリアにする為に身柄を買ったんだろうな」と言った。


今思っても、あの親は徹底していた。

ラヴァは世話人として、朝から晩までサンスリーと共にいた。

見た目も…、親子だからわかりやすかったのだろう。ラヴァは茶色のロングヘアに笑顔がよく似合う少女だった。


父からは「とりあえず数年は、サンスリーの身の回りの世話をしろ。敬う必要はない。アイツには友が少ない。友になるんだ」とラヴァは言われていた。

ラヴァは他の使用人よりも休憩が長くて、よく「サンスリーと食べろって」と言いながら、おやつを持ってきたりして、2人の時間が多かった。


大まかな勉強が終わり、魔法も一通り身につけて、本格的に戦闘奴隷と共に、戦闘訓練を受ける頃、ラヴァは風俗室送りになった。


これはサンスリーにも耐え難い事で、連れて行かれるラヴァを血の涙で見送った。

父は、すぐに狂っていると評判の男を招き入れた。

その男は、権力者崩れの資産家で、家督を告げなかった代わりに温情で金山を貰っていて、金ならある。実質今のサンスリーに近い状況で、違うのはいつ奪われるかわからない自由を満喫する為に、1秒すら惜しんでいた事だった。


資産家は、さして欲しくない宝石を、父の言い値で買う。

買った物は宝石なんかではない。ラヴァの生殺与奪を買ったから宝石が付いてきた。


ラヴァは一晩で壊された。

禁止薬物をコレでもかと投与され、オーバードーズと酷い中毒で、現実世界にはもう戻って来れなくなっていた。


眠れぬ夜を過ごし、気持ちの悪い朝を迎えたサンスリーは、男が揚々と宝石を持って帰った直後、突然壊れたラヴァを目の前に出されて「今殺すか、死ぬまでこのまま風俗室で使い潰すか、お前に選ばせてやる」と父に言われた。


自分が殺すという事は、覚えたファミリアの魔法に該当する。

心は通じていたと思えていた。

2人でこっそりと、このまま一緒にいたいと話して、見つめ合い頬を染め合った。


それを知った上で、ラヴァと自分を追い込んだ父が憎かった。


ラヴァは全裸にシーツ一枚をかけられただけで、身体は震え続けていて、目は虚で焦点は合っていない。口からはよだれが垂れていて、顔は限度を超えた快感でだらしなく緩み崩れていた。


それでもサンスリーの方を見て、「サンスリー…」、「汚れちゃった…」、「お嫁さん…」、「なりたかった…」、「ずっと一緒…」とうわ言のように言い続けていた。


「安心しろ、世話人ならまた用意してやる。薬で壊れた奴を好む者もいる。生かしても使い道ならある」


父の言葉にサンスリーは心を決めて、「ラヴァ、ずっと一緒だ」と言いながら胸に剣を突き立ててラヴァを殺した。


こうしてファミリアのラヴァを獲ると、サンスリーは闘犬として、各地の権力者が持つ腕自慢と戦わされ続けた。


殺した。

殺し続けた。

自身の力が足りずに、ラヴァの手を借りるたびに、ラヴァの全てが思い出されてしまい、狂いたくなった。


ラヴァを殺した重みに耐えられそうになると、今度は屋敷にいてサンスリーに懇意に接してくれていた者達5人を殺させられた。

当然5人もファミリアになってしまった。



ドルテには伝えられるだけ伝えると、涙ながらに「何だよそれ。権力者の息子だってそんな目に遭うのかよ。辛すぎるじゃんかよ。ゲイザー、話してくれてありがとう。抱いてくれてありがとう」と言ってサンスリーに抱きついてきたので、「もう寝ろ。朝になる」と言ってドルテを眠らせた。


最終日までサンスリーとドルテはテントから出なかった。


サンスリーは迎撃と殲滅をレンズとラヴァに任せて、求められただけドルテを抱いていた。

ドルテはサンスリーの虜になっていて、「ゲイザー、ゲイザー」と何度も偽名を呼び、「死ぬまでずっといて」と言い続けていた。


「ほら、4日経った。終わりだ」と言ってテントを出ると、戦闘は終わったと言われ、サンスリーは給金を渡されて追い出された。


理由は簡単だった。

勝ったのは自称兄でも、後から生まれた方の男だったし、剣も兵士も二流以下しか手に入れられない愚鈍な男で、勝てた今から領主になった時のことを考えて、そろばんを弾いたら金が足らないことに気づき、さっさとサンスリーを追い出してしまう。


これに冷静でいられないのはドルテで、泣いて嫌がったが立場からすれば仕方ない。


「いいな?2度と使うな。また来る」

「本当?ゲイザー?これでサヨナラはやだよ」

「わかってる」


サンスリーはドルテの頬を撫でてから出ていき、「口から出まかせだな」と自嘲する。


迎えに行くなんてありえない。

サンスリーの【自由行使権】があっても、ドルテの身請けは出来ない。

金で買うのも良くない。

足元を見られて、何を言われるかわからない。


だが何処かで父の言った「お前は自由だ」の言葉が頭に棲みつく。

自由ならドルテを連れ去る事も、ここの領主と事を構えて潰す事も可能だった。


不可能な事はない。


武力制圧も、ここの連中なら本気を出せば、2時間もあれば可能だ。

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