第6話 家族と領地戦03/05。

部隊長が来たのは夜になってからだった。

それも、噂で敵側が全滅したと聞いて、コソコソと見に来て戦場の真ん中でテントを張って、宴会をするサンスリーとドルテを見て、目を丸くして「どうなっている!?」なんて聞いてきた。


「どうもない。あのくらい何の問題もない。何日抑え込めば勝ちになる?」

「あ…後3日だ」


「なら夜にだけ見に来い。水と食料を持ってきてくれ」

「兵舎に戻らないのか?」

「居心地が悪い。別にドルテが働いてくれていれば2人でいられる」


部隊長は「わかった」とだけ言うと、何も言わずに帰って行く。


サンスリーはドルテに「帰りたかったか?」と聞くと、「やだよ。これからもゲイザーと居る」と言われて、サンスリーは「これからも…か」と笑っていた。


「ずっと一緒にいられたらいいね」

「ずっと一緒だよサンスリー」

「これからはずっと一緒」


耳に残る少女の声。

サンスリーは頭痛にうめくと、ドルテが「平気?疲れたよね?」と声をかける。


「いや、問題ない」

「あるって!身体拭いてあげるから寝ようよ!」


結局サンスリーは1人でできると言ったのに、ドルテは甲斐甲斐しく世話を焼いてしまうし、寝袋で同衾まで求められてしまっていた。


2日目以降も問題はない。

レンズと呼ばれた光の精度も上がり、だいぶ姿が見えなくなってきていた。


問題は夜だった。


ドルテはサンスリーの話を聞きたがり、サンスリーに抱いて欲しいと願う。


「何故そうなる?」

「私は初めてもその後も、全部自分の意思なんてなかったの。初めてゲイザーに抱かれたいって思えたんだよ。お願い。抱いてよ。使われるんじゃなくて、抱き合いたいよ」


そう言われても困る。

気持ちはわからなくもない。

だが、サンスリーが抱く理由にはならない。


その時、ドルテが「お願い。私の秘密を話すから。私の残り少ない命を無駄にさせないで?」と言った。


「秘密?」


見た感じ病気はない。

発作や何かに苦しむ事もない。

食事も摂れている。


本人の思い過ごしの類い、よくある手口だとしたら、戦闘奴隷にした奴が、洗脳魔法で「命が残り少ないから、生きた結果を残せ」と言う事くらいだろう。


洗脳魔法なら、この場での解除は無理でも、緩和ならできる。

解除はかけた奴を殺せばいい。


サンスリーが安心させようとした時、「私もあの光の魔法が使えるの。ゲイザーと一緒。ゲイザーも、もう死ぬんだよね?だから戦場に来たんだよね?」とドルテは言った。


最悪だった。

もうドルテの死は確定している。

今知りたいのは、何回使ったかと、いつ覚えたかだった。


「スレイブ…。いつ覚えて何回使った?」

「うん。そうだよ。教えさせられたのは、領主戦が始まる時に、使ったのは一度だけ」


今から10年…。一度で1年。

あと9年の命。


それでも最長で、この先使わない保証はない。


「2度と使うな。そうすれば9年は生きられる」

「うん。ゲイザーといられるなら守るよ。ゲイザーはあと何年?」


サンスリーは言葉に詰まる。

言いたくなかった。

だが言わねばならなかった。


「俺のはスレイブではない。ファミリアだ」

「ファミリア?」


サンスリーはドルテに何と言って説明するかを悩んでいた。


そもそもファミリアは、高位魔法に位置していて、使えるようになる事も難しく、ファミリアを得る条件も厳しい。


スレイブは下位互換、簡易版に位置していて、修得も何も簡単だが命を浪費してしまう。

覚えた段階で寿命の浪費が始まり、最長でも10年。

そして一度スレイブを使うだけで1年の浪費がある。


恐らくドルテは試運転で使わされた。

生殺与奪すら権力者が決める世界。

もう懲り懲りだった。


「ああ、ファミリアはスレイブの上位版、使用者の命は縮まらない」

「……なんで?なんなの?」


真っ青な顔で聞き返すドルテ。

サンスリーは最悪の気分だった。


言い訳のように、「その代わり、厳しい条件は付く」と言って、青くなったドルテを抱きしめる。


「条件って何?」

「心通わせた者を殺して、ファミリアに作り変える」


「じゃあ…ゲイザーは、心を通わせた人を殺したの?」

「ああ、それが仕事だったからな」


「…嫌じゃなかったの?」

「嫌だったさ。だが、仕事で…やるしか無かった」


「最初は?」

「子供の頃、14で殺した」


「その人は家族?」

「家族同然の友だ」


その時、サンスリーの中には、幼いメイドの姿があって「ずっと一緒だよサンスリー」と微笑んでいた。


「泣いていい?」

「泣けばいい」


暫くサンスリーの胸で泣いたドルテは、「やっぱり使われる穴じゃなくて、抱いてもらって死にたいよ。ゲイザー、抱いて?」と言ってサンスリーを見つめた。


断ろうと思えば出来た。

だがサンスリーは受け入れてドルテを抱いた。

散々仕込まれた性知識と性技術を、全て使ってドルテを抱くと、ドルテは泣いて喜び、「使われる穴じゃない。抱き合うって凄いよゲイザー。痛くなくて、気持ち悪くなくて、胸の奥が熱くなるよ」と言うと、何遍もサンスリーを求めて、サンスリーはそれに応えた。

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