第5話 家族と領地戦02/05。
ドルテと話していると、頭に包帯を巻いた男がやってきて、ニヤニヤと笑うと「ドルテ、こっちに来い」と言った。
「今日はやだよ」
「お前に拒否権なんてねえだろ!」
それでも嫌がるドルテに、男は「明日死ぬかも知れねえんだから、ヤらせろクソガキ!ヤレる女はお前しか残ってねぇんだよ!」と怒鳴りつけた。
弱いドルテは夜伽係。
だから後方で守られていて、帰ってから、兵舎にいる時が本番だった。
周りを見ると動ける男達は皆ニヤニヤ顔でドルテを待っていた。
嫌がるドルテを見た時に、サンスリーの中には嫌がっている少女の姿があった。
握った拳から血が流れた。
食いしばった歯からは血が流れた。
あの日を思い出してしまった。
サンスリーはドルテの手を掴んだ男を、無言で殴り飛ばし、「嫌がってんだから、外に出て野良犬相手にやって来い」と言うと、ドルテに「嫌なら行くんじゃないぞ」と言う。
その後は、「新入りぃぃ!」、「死にたいみたいだなぁ!」と言いながら、周りの男どもが向かってきたが、サンスリーはあっという間に蹴散らすと、部隊長がやってきて死屍累々の惨状に頭を抱えてしまう。
「殺してはいない。転がしておけばいい。それにコイツらは弱すぎる。頭数に入れるべきではない」
「だが!我々とお前だけでどうする!?敵は200近く居るんだぞ!」
サンスリーは呆れ笑いを浮かべると、「なんだ、そんなものか、俺とドルテが居れば余裕だ。明日は?200を倒したら、戦場でテントを張ればいいか?」と言い、「朝から赴くだろ?もう寝る。ドルテ、寝床を教えてくれ」と言いながら立ち去ってしまう。
「ゲイザーは強いね」
「アイツらが弱い」
「こっちが私の部屋、ここが空き部屋だから、ゲイザーはこっちを使いなよ」
ドルテが指差した部屋を見て、サンスリーは「ドルテもこっちだ」と言って部屋に連れて行くと、「夜中に奴らが来る。こっちにいろ」と言って、ドルテをベッドに寝かせると、自分は床に座り、壁に寄りかかって眠ってしまった。
てっきり襲われると思っていたドルテは、身構え損で「え?」とだけ言いながら眠りについた。
翌朝、疫病神扱いされるサンスリーは、ろくな朝食もなく戦場に追いやられる。
昨晩の連中は大した怪我でもないくせに、重傷者の顔で戦場に行かずに済んだと、これ見よがしに喜びながら寝込んでいた。
「お腹減らない?」
「平気だ。ドルテは平気か?」
「私?食べられない日なんてザラだからね」
だから慣れてもいいものではない。
「奴らの陣があるはずだ。何か奪おう」
「うん。ありがとうゲイザー」
敵陣営は笑ってしまった。
伏兵を疑い、探知魔法まで使ったが、向かってきたのはサンスリーとドルテのみだった。
何の冗談かと思ったが、これで怪我をせずに済む。傷を負わずに済む。生きて帰れると思い、お調子者が「オッサンは殺して…。娘の方は…死ぬまで楽しむ!」と言いながら、切り掛かってきた瞬間、サンスリーはレンタルで持ってきた剣を抜いて、お調子者を切り伏せて「一つ。ナマクラめ。ドルテ、替えの剣は言ったらくれよ?」と言って前に進む。
辺り一面に血の臭いが立ち込めると、サンスリーに向かってくる者と、距離を取ると言いながら安全圏に逃げる者、遠距離から魔法攻撃を行う魔法使いが居た。
ドルテは、あの剣技なら死なないかもしれない。
生きながらえられるかも知れないと思ったが、やはり多勢に無勢。
数の暴力の前では、あっという間にサンスリーは負けてしまい、目の前にいる男どもに死ぬまで陵辱されてしまうと絶望に変わる。
「俺の後ろは、この戦場のどこよりも安全だ」
サンスリーはまた目の前の騎士を斬り殺すと、不安げな顔をするドルテに向かって言う。
だが、今も魔法使いの魔法や、弓矢使いの矢が飛んできていて、サンスリーは器用に撃ち落とすが、いつか対処不能になる。
そんな事を思っていたが、サンスリーは半年くらい、くる日もくる日も弓矢と魔法を撃ち落とす訓練をさせられた事を思い出して、嫌な経験だったとため息をついてしまう。
「奴は剣士だ!距離を取って殺すぞ!」
1人の魔法使いが言った時、「残念だな。あるぞ?」と言ったサンスリーは、また目の前の重騎士を斬り殺したタイミングで、魔法使いに指を向けて「ファイヤーボール」と唱えると、矢よりも速く放たれたファイヤーボールが魔法使いを貫いた。
焼き殺すでもなく、貫き殺した事に周りが目を丸くしたタイミングで、剣を弓矢使いに投げて殺すと、「ドルテ、次の剣をくれ」と言って剣を持ち替える。
「品質がバラバラだな。こいつは更にナマクラだ」と漏らしたサンスリーは、「まあそろそろ使うか、探知魔法」と呟くと、敵は約160体残っていた。
「160か…、少し無理があるか?まあいい。レンズ、やれるだけやってみせろ」
サンスリーの言葉にあわせて光が現れると、縦横無尽に飛び交って兵達を殺して行く。
ドルテはその全てを目を丸くして見ている。
「別に驚くことはない。もう少し数を減らしたら昼食を探しに行こう」
だが、サンスリーからすれば不満の残る内容で、レンズと呼ばれた光では、敵に反撃のタイミングを与えていて、サンスリーに向けて矢が飛んできてしまう。
「ちっ。レンズ、遅いぞ。ラヴァ、頼む」
二つ目の光は、現れた後は姿を消すと、それ以降はサンスリーに向かって矢や魔法が飛んでくる事はなくなる。
文字通り光の速さでラヴァと呼ばれた光が迎撃していた。
30分もすると戦場は静かになる。
「全滅完了。飯を探して、寝床の用意をしよう。帰っても面倒くさいだけだ」
200人全員が戦場に残るわけではないので、200食あるわけではないが、水も食べ物も豊富にあった。
「好きなだけ食べていいぞ。あ、その前にテントを張れ。2個だ。それくらいは働いてくれ」
「えぇ、1個がいい。ゲイザーといたいよ」
「敵ならいない。きても迎撃する」
「それでもだよ。甘えさせてよ」
「…仕方ない。好きにしてくれ。水はある。身体は洗えるぞ」
「…綺麗にしたら抱くの?」
サンスリーは呆れ顔で、「何故そうなる?冗談はいらない。火が必要なら言ってくれ」と言って、予備の剣を見て、「品質はこっちのがいいな」と値踏みしていた。
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