第4話 萌と抱擁
その電話は会社からだった。出社時間を過ぎても走が出て来ず、連絡もないのを心配した上司がかけてきたものだった。「あっ、会社始まってたか」スマホの画面の表示から上司からだと分かった走は慌ててスマホを手にし、あらかじめ決めていたとおり体調不良を訴えこれから病院に行くと伝え、そして明日は出勤できると思うということで了解してもらった。ひとまず安心した走が萌を見ると目が合ったとたん「人間の姿になったらお腹が空いた」と言った。走が「食べに行くのはかまわないけど、食べた後どうなるの?さっきの感じだと出せないんじゃないの?」と聞くと萌が「それは大丈夫、走には見えなかったかもしれないけど、オシッコを出すとこちゃんとあるから。後ろは完璧に出来てるしね。だから、ないのは走が大好きなあそこだけ、残念だね」と答えた。走が「確かにそうだから反論しにくいけど、言い過ぎてるよ」と言うと萌が「ごめん、気にしてないと思った」と言った。「出すのはともかく、中に入れたらその分重くなるんじゃない?そしたら風で簡単に飛ばされなくなるんじゃない?」と走が聞くと萌が「そうだといいんだけど私、神だからそうならないと思うよ」と言った。「そうなんだ」と言いながら走はまだ体が未完成な萌に、既に完全に心を奪われてしまっていることに気付いた。「さっきの女の子がこんなに可愛かったなんて」そう再認識した走は、萌が自分を好きだと言ってくれたことを信じ、だがそれでも強気になりきれないまま、でも欲求には勝てず勇気を奮い起こし、恥ずかしそうに小さな声で「抱きしめていい?」と聞いた。すると萌が「走、エッチ!私、裸だよ。しかも全裸だよ」と言いながら萌の方から笑顔で走に抱きついてきた。一瞬、拒否されたと思った走は駆け寄ってきた萌を、戸惑いながら両手で浅く抱きしめた。肌の感じは完全に人間の女性、と言うより経験不足の走にして、多分最上級と思われる感触だった。「気持ちいいな」思わず走がそう口走ると、萌が本当に嬉しそうに「良かった」と言った。走が更に深く力を入れて抱きしめると、萌も抱きしめ返してきた。萌の背中から走の両手に伝わる感触は滑らかでずっとこのまま触っていたい気持ちになった。萌に「おっぱい触ってもいいよ」と言われてその気になりかけた走だったが、ここはその気持ちを押さえ「それは萌の体が完成した時の楽しみにとっておく。大分早いけどお昼を食べに行こう」と言った。すると萌が「さっき買ってきたお弁当どうするの?」と聞くので走が「夜にまわすから大丈夫」と答えた。「なら行こう。でもこのままじゃ外に出られない、服を着ないとね」と萌が言った。走が「確かに裸じゃ出られないね。でも僕は男だから女性が着るような服持ってないし、買ってこようか?」と言うと萌が「大丈夫、服を着た姿にも変われるから」と答えた。「へえー、凄いなー。瞬時に変われるの?」と走が聞くと萌が「一度作り上げて記憶すればその姿にはいつでもなれるよ一瞬でね」と言った。その言葉を聞いて感心している走に萌が「どんな服がいい?」と聞いてきた。走が「どんな服がいいかなぁ」と考えていると萌はその答えを待たずに「お昼、どんな処で食べるの?どんな服装が合うかな?」と質問してきた。ファミレスに行くつもりの走だったが、魅力的な萌とそれなりのレストランに行くのも優越感を味わえて悪くないと迷い始めていた。なので行く場所次第で服装が変わるため返事をしかねていると萌が「そう言えばさっき走、私が目立つと困るようなこと言ってたよね。周りに溶け込んだ服装がいいのかな」と言った。その言葉を聞いた走が、それだと優越感を味わえなくなるので「それはさっきまでビジュアルを有名人のコピーで考えてたからだよ。今の萌は一般人だからどんなに可愛くても騒ぎになることはないから大丈夫。もしさっきの女の子とどこかで出会っても他人の空似で済むからね」と打ち消した。すると萌が可愛いと言われて弛んだ顔で「それどういう意味?」と聞き返してきた。走が「それは人間世界のあるあるで、有名人を見つけると、特にグループで有名人を見つけると、騒ぎになりやすい。だからあまり目立たない方がいいと思ったからで綺麗な萌がまずいと言うことじゃないから」と言った。すると萌が「じゃあ私が好きな服装でいいのね?」と聞くので走が「いいよ、でもほどほどにね」と言うと萌が「ほどほどってどの程度か萌には分からない。具体的に言ってくれないと!」と少し怒った顔で言った。走が思わず「ごめん」と言うと萌が慌てて「あっ、そんなつもりで言ったんじゃない。怒ってないよ」と言って笑顔を作って見せた。走が「そうだよね、人間として普通に育ってきたんじゃないんだからそのニュアンス、分からないよね」と言った後、給料日間近で生活費がきびしいことを考え、高級レストランは給料が入ってからにすることにし、ファミレスに行くことに決めた走が「カジュアルな服装でいいんだけど、女性の服装を具体的に言うのって僕にとっては難しいな…」と言って考え込んだ。そしてすぐ、今見て顔立ちを指定した、階下を通り過ぎた女子高生風の女の子のカジュアルな服装を思い出し、萌に説明した。すると萌の全身が一瞬青く光り、その服装を再現した。萌はまるで今見た女子高生風の女の子そのものになった。ロリコン魂に火がついた走は驚く機敏さでまた萌を抱きしめた。萌はその走を何も言わず笑顔で抱きしめ返した。その後、しばらくたっても萌は何も言わず走に抱きしめられ、自分も走を抱きしめていた。
青瞬2in1ガール 奈平京和 @husparrow
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