第3話 萌、変身

 すると萌が「本当?本当に信じていいの?」と嬉しそうな顔で聞いてきた。走は男らしさをアピールするように自信たっぷりに「もちろんだよ。何があっても僕が萌を守る、絶対!」と答えた。すると萌が更に嬉しそうに「じゃ、信じる」と言い、続けて「走好みの女の子になるから早く教えて。性格は変えられないけど、ビジュアルだったらどんな要望にも応えられるから。どんな女の子になったら嬉しい?走が好きなのは大人の女性より少女みたいな子だっていうのは知ってるけどね。ロリコンだもんね」と言った。思わず走が萌に聞こえないように小さな声で「本当に僕のこと見てたんだ。あれも見てたのかなー」とアダルトビデオを見ながらしていたことが気になり呟いた。だが走が萌に聞こえないように呟いたはずの小さな声が萌に聞こえていて「走、心配しないで。さっき言った時は聞き流されたみたいだからもう一度言うけど、私、走とエッチ出来る人間の女の子そのものになれるからね。もちろん体のサイズを人間の女の子と同じにしてからだけどね。そうだ、走がよく見てるあのアダルトビデオの女優さんになろうか?」と言った。思わず「やっぱり見られてた」と呟いた後、萌に聞かせるつもりがないので更に小さな声で「そう言えば風船みたいなダッチワイフとかいう性行用具が有るって聞いたことあるな」と走が呟くと、走がどんな希望を出してくるか走の言葉に集中していた萌にはその言葉が聞こえ「ああ、それ知ってるよ。けど全然違うよ。ダッチワイフってそれふうに似せて作ったものだけど、私が人間の女の子になればあそこも完全に人間の女の子のものと同じだから。たださっきも言った通り、空気みたいなものなんでほぼ重さがないことだけはどうにもならないんだけどね」と言った。その言葉を聞いた瞬間、走の頭の中は大好きなアイドルとの性行為の想像でうまった。理性を飛び越えその名前を言おうとしたとき、萌が「ただ、姿を変えるたび体が硬くなるみたいなんだ。だから何度もは無理、最後は粉々になって消えちゃうと思うから」と言った。走は「消えちゃうのは可哀相だし、萌との関係もずっと続けたい。駄目かー。でも一回だけならそんなに体が硬くなることもないだろうし…」と思ったが、根が優しい性格なのであきらめた。そしてあきらめた後に気付いた。有名人のコピーだと誰かに見られて直ぐに噂になる。別人だと証明することは出来るが、騒ぎがおきる前に一人一人に説明してまわるのは大変な労力だ。実際に騒ぎになれば今まで通りの平穏な生活が出来なくなる。人の噂も七十五日と言うが、収まるまでにその有名人の熱狂的なファンによって、とんでもないことをされる可能性だってある。アイドルなんてもってのほかだと確信する走だった。走が有名人以外の名前を思いつかず、悩んでいるのを見た萌が、気を利かして「私が今までに得ている知識で細部は何とかするから、ビジュアルの全体的な好みだけ教えて!そうだなぁ、まず身長は?」と走に聞いてきた。急に答えやすくなった状況から走の表情が緩み即座に「百六十センチくらいがいいな」と答えた。途端、萌がテーブルから飛び降りた。萌が言っていたように、重さがほとんどないその体は風船のようにゆっくり降下し床に着地した。床に着くと、女の子の全身が一瞬青く光った後すぐに膨らみだし、走のイメージした身長になった。ただ頭でっかちのまま大きくなったので「小さい時は可愛く見えたのにな…」と走が思わず口走り異様な見た目に少し後ずさりすると、萌が少し怒った顔になり「今は途中の段階なんだからそんなこと言わないで!」と言った。怒ったことで萌の顔が更に異様になったがそこを耐えて走が「ごめんね」と言うと萌が怒った表情を少し緩め「何頭身がいい?走はロリコンだから八頭身以上だと子供っぽい顔とのバランスが悪いかな?」と言った。走が「子供っぽい顔で八頭身も悪くないと思うけど、周りの話題になりすぎるな。それはそれで面倒だよな。だから七頭身くらいがいいな」と言うと萌が「私がモテすぎるのは困ると言うことだね」と言い、また全身を一瞬青く光らせた後、頭でっかちの見た目を走のイメージしている七頭身に変えた。「体を変化させる時、青く光るんだ」走はそのことに気付くと同時に「でもいくら可愛いと言ってもアニメ顔、七頭身はしっくりこないな。でもいい感じになってきた」と思った。しかし、リアルに人として見るにはまだまだほど遠かった。走がなんとなく窓際に行き外を見ると、女子高生風の女の子が階下の道路を左の方から歩いてくるのが見えた。顔を上げて遠くの方を見ながら近付いて来たので目がいい走には顔が良く見えた。とびきりの美人でもめちゃくちゃ可愛いわけでもないが、十分魅力的な顔立ちをしていた。走が「結構可愛い」と思っているとその背中に萌が「どんな顔立ちがいいの?」と聞いてきた。走は即「この娘の顔にしよう」と決めた。「今目の前に見える女子高生風の女の子は有名人ではないし、打ってつけだ」と思い、早口で細かく特徴を伝えた。まさに競馬のゴール直前の実況のようだった。通り過ぎるのを見送った時、背後から一瞬青い光が見えたので、振り返るとその女の子がいた。もちろん萌が変身した姿なのだが、そう思うほどそっくりだった。走が驚いた顔をして自分を見ているのを見て、萌が「走の好みの顔をかなり正確に再現出来たみたいね」と言うと、走が「完璧だよ。それに声まで変わってる。顔の輪郭が変わったからかなぁ」と答えた。すると萌が「声が変わったって言われると気になる。どう?この声、走の好み?」と聞いてきた。走が「いい声だよ、大好き」と答えた。萌がうれしそうに笑った。走は萌の笑い声も可愛いと思った。しかし萌がすぐに「残念だけどまだ不完全だよ」と言って自分のあそこを指差した。萌が全裸なのでなんとなく見てはいけない気がして、萌の顔だけに視線を集中していた走が萌の指差した股間を見ると、本来あるはずのものがないつるつるの状態だった。胸はどうかと見ると、ほどほどの大きさで形の良い走の理想通りの出来だった。なので萌に「胸が完全に出来るのになんでそこは出来ないの?」と聞くと萌が「出来ると思ったんだけど、駄目だった。複雑過ぎるからだと思うよ。一人一人オリジナルだし、走も結構アダルトビデオ見てるから分かるよね。やっぱり具体的なサンプルが必要だね」と言った。「言われれば確かにそうだと思うけど、外見だけじゃなく中の構造まで分かるサンプルなんてどう用意すればいいんだ」と走が思っていると、急に走のスマホの着信音が鳴った。

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