たまにはゲームもしろよ! イニミニマニモ?『BLACK SOULS』――素敵にグロテスクな〈童話・児童文学〉のパッチワーク――

 今更『BLACK SOULS』について何を書けば良いのだろうと考える。無印の発売日は二◯一七年だ。

@wikiを読めば元ネタだって大抵は分かってしまう。


 そうした環境で私が出せる〈独自性〉なんていうのは、真面目な〈童話・児童文学〉の読者達に向かって「ゲームをしろよ!」とアピールする点くらいである。


「ゲームをしない人にぶつけるのが(もあるが)十八禁の同人作品」というのはなかなか珍しい筈だ。


『BLACK SOULS』には無印と「II」がある。

パッチワークという視点では「II」の方が面白いが作品の性質上無印をやらないと話がわからない。


 無印でも「マッチ売りの少女」として登場する少女の「マッチ」が火を付ける道具ではなくて危ない薬として登場する点などは面白い。

この少女は道に捨てられた死体を拾って怪しい調合を行い「マッチ薬」を造っているらしい。


 童話とは違うが「エリザベート」は澁澤龍彥が『世界悪女物語』でその名を有名にした女性である。

ちなみにX(JAPAN)のYOSHIKIはこの『世界悪女物語』のエリザベートの伝記を読んで「ROSE OF PAIN」(X『BLUE BLOOD』収録)の歌詞を書いた。


 本作ではこうした「元ネタ」が存在する人物を殺害すると「童話」アイテムを入手できる。

二十種類くらいある「童話」たちはいずれもグロテスクな形に改変されており楽しめる内容となっている。

たとえば「ウサギとカメ」はウサギの騎士とカメの騎士が〈どちらがより多く殺せるか〉を競う話となっている。実に悪趣味な改変である。


 この作品がいかにややこしい〈引用のモザイク〉(ジュリア・クリステヴァ)をもって構成されているかは無印だけでも十分にわかるであろう。


 無印はまさに世界各国の童話のチャンポンであったが「II」においては一本の筋が通っている。

というのは、「II」の中心にはルイス・キャロル『不思議の国のアリス』(と、『鏡の国のアリス』)が常にあるからだ。


『アリス』をモチーフとした作品はいくらでもあるが『BLACK SOULS II』(以下『II』と呼称する)ほどその狂気とナンセンスをよく伝えるものはなかなかないのではないだろうか。


『アリス』といえば「大変だ大変だ! 遅刻しちまう!」と言いながら走るウサギの紳士がよく知られている。

『II』でもちゃんとウサギは登場するのだが、なんとこのウサギは死体を食らって「美味しいなあ」などと言っている。

「殺す」コマンドで戦闘できる。


 アリスが流した涙が池になるという話は皆知っているだろうと思うが、『II』では「血の池」として表現される。

終盤までやり込めばこの「血」がある人物のリストカットの結果流れた「血」(どんだけだよ!)であるということがわかる筈だ。


『アリス』ではこの「涙の池」の場面で「ドードー」という絶滅してしまった巨大な鳥が出てきて「無味乾燥」な話をして皆の服を乾燥させようと試みたり「レース」を試みたりする。


『II』においてもちゃんとその「ドードー」は存在する。

「血の池」の中心で巨大な鳥がいて一応会話もできるのである。


 格言好きな公爵夫人は元ネタの時点でかなり狂っているから特に言うことがない。

シーシャを吸うイモムシもまあ、妥当なキャラ付けである。


 再現度が高いからこそ狂気を感じるのがあの「滅茶苦茶会」の三者である。

居眠りのヤマネと帽子屋と三月ウサギ(申すまでもなく三月ウサギは常にだから狂っているのである。それは『アリス』でもそうだし『II』でも変わらない)。


「カラスと書き物机が似ているのは何故か?

ちっちっちっちっちっ

ちっちっちっちっちっ

ちっちっちっちっちっ

………………………………………………………………………

………………………………………………………………………

………………………………………………………………………

………………………………………………………………………

どうかしました? 思った事を言ってくれなきゃっ! 少なくとも…少なくとも……それは同じじゃないっ!

それじゃあ、

『頭が帽子を食べる』と『帽子が頭を食べる』が同じだって

言っているようなものだもんっ!」


 というセリフのうち「カラスと書き物机が似ているのは何故か」の部分は『アリス』そのままで、そこから更に発言内容を盛り付けることでよりいきいきと描いている。


 それ以外では帽子屋の「帽子屋さんのお得意様は水銀と紅茶、そしてハッピーバースデイッ!」というセリフはよくできていて、確かに「帽子屋のように狂っている」よいう決まり文句が生まれたのは帽子作りに「水銀」を利用するからなのである。


 このゲームの筋書きとして一応「アリスはどこだ」ということでアリスを探すのが目的として提示される。

もちろん素直に「アリス」が見つかる訳ではなく、最終的になかなか「アリス」を見ることができる。


 ちなみに本作の人外キャラクターたちが話す「文字化け」した言語はツールを使って変換することができる。


「SEN値」というボードゲームの「SAN値」を思わせる値が減ると各ヒロインらの言葉がまるっと「文字化け」するようになるからどんどんツールで解読していくと面白い。


「SEN値」が現象するとBGMが止まり目玉のような形の敵が現れるようになる。

その敵の名前も文字化けしているが、復元すれば「アリス」という名前になる。

ストーリーの謎が解ければ「なるほど」と思う小ネタである。


  作者名として表記されているのは「イニミニマニモ」というサークル名だが、実はこのサークルは完全個人営業であり「寿司勇者トロ」氏が一人で作品を制作している。


 寿司勇者トロ氏はゲーム制作に乗り出す前からイラスト制作でよく知られた人だ。

「東方Project」の二次創作でありキャラクターの少女達が異形に変身して戦う漫画をスライドショーのように動画化して注目を集めた「東方異形郷」が代表作である。


 彼は一貫して「ホラー」「異形」「少女」というテーマを追求してきたように見える。

『II』では特に絵の技術が上達したと見え、特にDLCのエリアで登場する「フローレンス」(「クリミア看護墓地」で出会える彼女は獣化したナイチンゲールを思わせる)の造形は非常にクオリティが高く〈美学〉を感じさせる。


 最後に作者が読んだ『アリス』は角川文庫から出ていいる河合祥一郎の訳書であることを付け加えておく。

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