第63話 心当たりはあるか?

『神樹連邦っていうのはその名の通り、神樹っていうでっかい木を崇めてる国なんだ。元々はいくつかに分かれた国々だったけど、その真ん中に神樹が生えてきて、自然と一つの国になったっていう面白い歴史がある』


 俺は騎乗席でリリーナの話を聞きながら、【ペルラネラ】を歩かせる。


『その神樹っていうのはどうやら大きな魔法生物みたいでね。葉や枝が結構な魔力を持ってて、魔導具の材料や燃料にもなるんだ。だから他の国から魔石を輸入することはあんまり無くて、燃料の類は国内で補って余りあるっていう羨ましい恩恵を受けてるんだ』

「それでも、ゴーレムを作るのには金属が必要だろ?」

『それがねぇ。どうやら神樹の材料で完結するらしいんだ。ついでに言うと神樹から生まれる【タヴァルカ】っていう人型兵器が、ドールに匹敵する性能らしい。で、それに乗れる【守護騎士】が男しか選ばれないらしくて、連邦の女性の地位はうちと比べるとかなり低い』

「生まれるって、勝手に生えてくるのか?」

『勝手に生えてくるらしいよ。これも羨ましいよね』


 なにその便利な木……。国内で兵器の材料や燃料問題が完結してて、しかも希少性の高いドールに並ぶくらいの戦力が勝手に生えてくるとか反則じゃない?


『まぁ、さすがに武装の類は輸入したり、発掘したドールのものを使ってるみたいだけどね。それと、その【タヴァルカ】っていうのは生み出される数――起動できる数に上限があるのと、神樹の影響下じゃないと動けないらしいんだ。そこでバランスが取れてるって感じかな。そうじゃなかったら王国は侵略されてたかもね』


 確かに。反則気味な兵器にはそれ相応の枷があるらしい。

 

 上限はあるものの、発掘するしかできないドールと同等の兵器を生み出せるが、国内でしか使うことができない。ということは防衛戦は得意だが攻め込むのは不得意ということになる。

 だからこそ均衡を保つために王国と友好国になっておくのは連邦にとって利がある。

 逆に王国も犠牲を被って攻め込むよりも、いざというときに燃料などを輸入できる国として和平を結んでおくのは備えになるだろう。


「だいたいのことはわかった。で――」


 俺は【ペルラネラ】の足を止めて後方を見る。


「――なんでこいつらも一緒なんだ……?」


 【ペルラネラ】の後ろには赤い衣装を着たドールである【オルゴリオ】と紺色の衣装を着た【レオネッサ】がいた。

 そして、マリンなどの使用人が乗る馬車をはさんで二騎のゴーレムがついてきている。

 

『どうした貴公。なにかあったか?』

『早くしないと日が暮れちまうぜ! 兄貴!』

『そうです。綺麗な風景ですが見惚れている時間はありません』


 立ち止まった俺にジェスティーヌとエドガー、リオネルがそんな風に言ってきた。

 だが、一番後ろのゴーレムたちは止まった途端に膝をつく。

 

『ま、待ってくれ、グレン。リースが休憩したいと言っている』

『暑い! なんでこんな暑いの!? なんでゴーレムには冷房ついてないの!?』


 ゴーレムに乗っているのはフェルディナンとリースだった。


『あぁ、それはね。順序が逆だよ。元々留学が決まってた彼らに、ちょうどいいからキミたちを混ぜたんだ。リースちゃんたちもゴーレム乗りとして頑張るっていうし、キミらの責任でドールを失ったんだから面倒を見てよ』

「そんな義務はねぇ!」

『まぁまぁ、いいじゃない。リースちゃんにこっちで何かされるよりかは手元に置いておいた方が安心でしょ?』

「そこはお前が監視すればいいだろ!」

『私も忙しいからね。じゃ、任せたよ。何かあったらいってね~。ばいばーい!』


 ぷつん、と通信が切れる。


 思わず台パン――コンソールをブン殴りたくなったが、ペルに罪はないので歯切りして拳を下げた。

 そして、仕方なく拡声器をオンにする。


「……五分休憩だ! 言っとくけど向こうにいったらもっと暑いらしいからな!」

『えぇぇ!? フェルディナン様! あたし、蒸し焼きになっちゃう!』

『汗を流すお前も美しいぞリース……』

『そういう話じゃなーい!』


 神樹連邦は王国からかなり南に位置する常夏の国だ。

 王国でも夏になると連邦の衣装を身に纏っている人々を見かける。

 それが和風に近い衣装なのだから、俺にはどんな文化なのか非常に気になるところだ。


 そして、一番気になる問題は、ゲームではその神樹連邦は名前しか出ていないというところである。


 そりゃ、ゲームではおざなりにされていても実際に存在すれば関わる可能性はあるとは思っていた。

 だが、そんな国に自分を主人公と言い張る人物が出てきたのは大問題だ。


 俺がやっていたゲームの主人公はルーシーだ。実力やエリィとの相性、関わっている人物を考えれば、それは間違いない。


 ひとまずはあいつに聞いてみるか、とゴーレムの騎乗席を開いて両手で自分を扇いでいるリースを見て、そう思うのだった。



 ◇   ◇   ◇



「で、心当たりはあるか?」


 連邦に向かう途中の街の宿で、俺はリースに問いかける。

 

 当然だがいくらドールに乗っていても、馬車の速度に合わせなければいけないため、連邦までにはいくつかの街を経由する必要があった。

 それもクラリスがいたような小さな村ではなく、しっかりとゴーレムやドールを収容できる格納庫を備えた街だ。

 駐留している軍にはリリーナが手を回してくれているので、俺たちがぞろぞろとやってきても驚かれはしない。


 それはとにかく、俺はセレスと共にリース以外を除いて、食事を取りながら相談を持ち掛けたのだ。


 だが答えは――。


「知らない!」


 ――残念なものだった。


「ふざけんな! お前、攻略サイト見たんだろ!? なんか知ってるだろ!」

「知らないものは知らないわよ! 連邦だってちょこっと設定が書かれてる程度だったんだから!」

「どんな設定だ!?」

「神樹って木を崇めてて、その恩恵で国が回ってるってだけ!」

「あの女王の言ってたことの方が多いじゃねぇか!」

 

 あー! 役に立たねぇ! これだからこの自称完璧主義者は!


 俺がガシガシと頭を掻いていると、腕輪から文字が表示される。


『マスター。まずは落ち着くことを提案する😉』

「ペルの言う通りですわ。貴方様。知らないのであれば可能性を考えましょう?」

「え、待って。今誰が喋ったの? ペルってだれ?」

「【ペルラネラ】だよ!」

「なんでドールが喋ってんの!?」

「そういうやつなんだよ! 他には俺も知らん! 気にするな!」


 はぁぁ!? などとリースが仰天した。


 俺はそれを見て、やはり攻略サイトを見た人間でも知らないことはあるのだと自分を落ち着かせる。


「自分が主人公と言い張る騎士がいると女王陛下は仰っていましたけれど、別にその遊戯の話とは限らないのではなくて?」

『その可能性は大いにある🤚 自分の人生を物語とし、主人公と言い張っているかもしれない🤔』

「ただの頭のおかしいやつじゃねぇか」


 俺が前菜のサラダをつついていると、そんな話になった。

 確かにその線もあるが、頭角を現して活躍しているということを考えると只者とは考えにくい。


「あとは……そうですわね。物語が一つあれば――」


 セレスがミニトマト的な野菜を一つ口に放り込んで、二つ目をフォークで刺す。

 

「――二つ目があってもおかしくはないのでは?」

 

 まさかの続編説ゥ! 一作目のストーリーも終わってないのに続編の話が始まるなんてアリか!?


 と、衝撃を受けたが、よく考えればあり得なくもない。

 俺のやっていたゲームだって連邦にはあまり触れていなかったのだ。そのサイドストーリーを展開しようと思えばできるはずだ。


 なにより一作目の敵である【ヘリオセント】だってまだ壊滅していない。

 奴らが社会の裏で何かを企めば、当然そこに物語が出来上がってしまうだろう。


「いいじゃない。実際に会ってみて『転生者ですか?』って聞けば」

「簡単に言うけどな! お前みたいに話をしっちゃかめっちゃかにするような奴だったらどうすんだ!」

「貴方様、その場合でもどうにもならないのでは?」

『肯定😄 こちらが該当する物語の知識がない場合、認知されるだけでどうにもならない🤷‍♀️』

「……それもそうだな!?」


 俺の中では目の前で野菜をもしゃもしゃやっているリースのせいで、他の転生者イコール悪という図式が出来上がっている。

 そんなやつにこっちの手札を広げるような真似は……と思ったが、そもそもこちらには手札自体がなかったのだった。


「親睦を深めれば逆に有益な知識が得られるやもしれませんわ。それに、主人公ならばその役割を自認しているのでしょう? 私たちはそれを遠くから眺めていればいいのです」

「遠くから、なぁ……」


 そうは言うが、どっかの女王陛下のせいで現在進行形で近づきつつある。

 果たして、連邦の主人公と言い張る人物とその物語に巻き込まれない保証はない。


 ひとまずは警戒しすぎず、友好的に接する。それが一番かもしれない。


「ね、ねぇペルちゃん可愛いね……? うちの子にならな――」

『断固拒否する』

「なんでー!?」


 食い気味に拒絶されて悲鳴を上げるリースを無視して、俺は運ばれてきた料理を食べることに集中するのだった。


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