第55話 五人衆
「静かだな」
『はい。攻撃されてるって言ってましたけど、どうなったんでしょ?』
もうじき日が暮れるだろう時間。俺たちはリリーナに言われた基地を目指してドールを走らせる。
そろそろ着くはずだが、戦闘の音が聞こえない。
もうすでに撃退されたか、もしくは――。
そう考えていると、警報が鳴った。
俺とセレスは素早くレバーとフットペダルを操作して、【ペルラネラ】を急ターンさせる。
それまでの【ペルラネラ】の進路に砲弾が通過するのを見て、俺は舌打ちをした。
「遅かったか」
「そのようですわ」
見れば、前方で黒い布をまとったゴーレムたちが森の影から立ち上がる。
そして、その奥にはひと際大きな影が三騎、腕組みしていた。
『やはり【ペルラネラ】と【オリフラム】か。三男』
『どうやらエルフたちの手先となったようだ。次男』
『我らでこやつらを叩きのめせばよいのだろう? 長男』
三つの男の声が響くが、そのどれもが同じような声に聞こえる。
ゴーレムの出で立ちもほとんど変わらず、識別できるのは羽織っているマントの色くらいだろうか。
砲撃を跳躍で避けたらしい【オリフラム】がガシャン、と隣に着地した。
『グレンさん! こいつらはアタシたちがやります! 先へ急いでください!』
両の剣を抜きながらルーシーが言ってきた。
こいつらがここで待ち伏せをしていたということは、すでに基地は敵の占領下にあるということだ。
『ちょっとした戦術級の兵器』とやらが使われるのも時間の問題かもしれない。
ルーシーの判断は冷静だ。
だが、敵は多勢。いくらルーシーが戦い慣れしてきたとしても、苦戦はするだろう。
俺は答えは決まっているとわかっていても、ルーシーに聞く。
「やれるか?」
『数が多いのはこの間の戦いで経験しました。やってみせます!』
こいつらは知っている。
【アズーロ】と【フクスィア】とは順番が逆になるが、中盤の中ボスに当たる敵だ。
確か名前は――。
『ほう? 我らが【五人衆】を相手に一人で戦うというのか。次男』
『なんと愚かな小娘よ。長男』
『侮るな。こやつは皇国とラハトの戦ですでに武勲をあげている。手加減は無用ぞ。三男』
あの大柄なゴーレムたちを司令塔として、それぞれ五騎のゴーレムを操作する敵だ。
攻略法さえ知っていれば大した敵じゃない。
俺はルーシーにそれを教えておく。
「わかった。先に
『わかりました!
……ん? 本当にわかったのか?
俺は少し疑問に思いつつも、【ペルラネラ】をダッシュさせた。
てっきり邪魔をされるかと思ったが、意外にも敵は走り去る俺たちを傍観する。
どうやらこの先にも敵はいるのだろう。
ルーシーのことは心配だが、あいつは主人公だ。
こんなところで負けるわけがない。
そう自分に言い聞かせて、俺は【ペルラネラ】を走らせるのだった。
◇ ◇ ◇
『良いのか? 長男』
『我らが受けた命は【オリフラム】の破壊。あとはあの操り人形どもが【ペルラネラ】を始末するのだろう。次男』
『あやつらに掛かれば【ペルラネラ】とて敵うはずもない。加えて【ペルラネラ】の騎士はあやつらの息子だというではないか。三男』
「グレンさんの親御さん……! アンタたち、それでも騎士なの!?」
【ペルラネラ】が去った後、ルーシーは剣を構えて敵を待ち受ける。
すると、急にピコンと音がして、手元のボタンが光った。
「なにこれ?」
「あっ、ルクレツィア様――」
「あ、ポチっとな」
なんとなくルーシーがそれを押すと、騎乗席内に三つの窓が開く。
そこには三人のそれぞれ異なるデザインの仮面を被った、なんだかピチピチのスーツを着た男たちがいた。
鍛え上げられた筋肉がもりあがって影を作るほど、肌にピッタリ張り付く衣装だ。
それを見て、ルーシーはドン引きする。
「へ、変態さんだぁ……! エリィ、見ない方がいいよ」
「は、はい。あまり殿方のそのような恰好には慣れておりません……」
後ろを見ると、エリィは手で目を隠して顔を赤らめていた。
『なんだと!? 我らを愚弄するとは! これはますます生かしてはおけんな。次男』
『そのようだ。じっくりと嬲り殺しにしてくれよう。長男』
『待て。我らは【五人衆】に感情など要らぬ。ただ淡々と敵を殺すのみだ。三男』
仮面のせいで誰が喋っているのかわからない。
どうやらこの三人は兄弟のようだが、誰が長男で、誰が次男で、誰が三男なのかルーシーにはわかりかねる。
なにより……。
「……五人衆って言うけど三人しかいなくない?」
『わからぬか。我らは配下の手足を含めて五人衆……。数えてみよ』
「えっと、ひいふうみい……」
言われて、ルーシーは素直にゴーレムの数を数える。
そうして数を数えたルーシーは首を捻った。
「アンタら含めると十八なんだけど……」
『もしかすればこの小娘、馬鹿なのではないか? 長男』
『もしかしなくとも馬鹿なのだ。三男』
『凡人には我らの意図を理解できないこともあるのだ。次男』
言われて、ルーシーは騎乗席の中で手を振り上げて怒鳴る。
「人をバカバカ言うな! なんだそのピッチリな恰好は!? 乳首透けてんじゃん! 変態か! 変態でしょ! 変態なのよ!」
ルーシーの言葉に男たちは自分の胸を見た。
そして、その乳首が浮いているのを見て、ぐぅと唸る。
『わ、我らの戦装束は【星詠み】様より賜ったもの! 貴様にどうこう言われる筋合いはないわ!』
「自分で着ててちょっと恥ずかしくなってきたんでしょ! バーカバーカ! つーか誰が喋ってんだかわかんないのよ!」
『ええい! この小娘めが! 五騎のゴーレムを操るからこそ【五人衆】だと言っておるのだ!』
「なるほどぉぉぉ!」
痺れを切らして斬りかかってきたゴーレムの一騎の頭に、ルーシーは剣を叩きつける。
すると、叩き割られた頭からバチバチと火花を散らして、ゴーレムはその動きを止めた。
「これで十七じゃん。そのよくわかんない名前、やめたほうがいいんじゃない?」
『……やってくれる。その首、ここで持ち帰らぬは我らの恥だ。三男』
『ぐっ……。我の手足のひとつを……! 一斉にかかるぞ! 次男!』
『当然のこと。我らは一心同体。たかが一騎、されど一騎、全力で相手をする。長男』
シュン、と音がして、男たちの映っていた窓が消える。
そこで、後ろのエリィが首を傾げてルーシーに言った。
「ルクレツィア様。お兄様が言っていたのはそういう意味ではないと……」
「え? なにが?」
そんなやりとりをしている間に、ゴーレムたちが一斉に動き出す。
それを見て、ルーシーは【オリフラム】を走りださせた。
「行くよ! エリィ!」
「あ……。はい!」
――グレンさんが言ってた通り、頭が弱点みたいだ。これならいける!
ルーシーはにやりと笑いつつも、敵に突っ込んでいくのだった。
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