第33話 正体不明のドール
「ま、待ってくれグレン!」
「お前はゆっくりでいい! 俺が確認するまで出口の辺りで待ってろ!」
俺たちは今まで進んできた道を急いで引き返す。一度は通った道だ。慎重にならなくても問題はない。
【天武】の祝福で強化されている身体能力を駆使して、一気に高低差のある道を走り抜ける。
そうして光の漏れる扉から出ると――。
「うおわ!?」
――砲弾が俺の頭上を飛来していった。
今、まさにここが戦場になろうとしているのか?
状況は理解できないが、すぐさま俺はペルに向かって叫んだ。
「ペル、来い!」
『身を晒すことになるが、それでも構わないか? マスター😩』
「どうせお前の体格じゃ見つかる!」
言うと、近くの木々に身を屈めて隠れていた【ペルラネラ】が立ち上がる。
セレスか、ペルの判断でそうしたのだろう。
【ペルラネラ】はこちらに走り、直前でスライディングして俺に手を差し伸べた。
俺はそれに乗っかって、素早く騎乗席に体を放り込む。
「ふふっ、せっかくのピクニックが台無しですわ」
「楽しそうでなによりだ」
言いながら【ペルラネラ】の身を起こすと、爆発音が大きくなってきた。
そして、バキバキと木々を折る音がして、複数体のゴーレムが現れる。
『ドール!? どこの所属だ!?』
『そんな情報なかったぞ!』
こちらを見て狼狽えるゴーレムの騎士たちに、俺は落ち着いて拡声器をオンにした。
ここは皇国の領地だ。もしかしたら皇国のゴーレムたちの演習か何かかもしれない。
王国の騎士学校の生徒だと伝えれば、敵でないとわかってくれるだろう。
「あー……こちらは王国から来たものです。敵意はありません」
【ペルラネラ】の両手を上げさせて俺は言う。
騎士が冒険に出かけているくらい珍しくない。【ペルラネラ】と遭遇するとは思わなかったのか、騎士たちは困惑しているが、これでわかってくれるだろう。
そう思った矢先――。
『王国からだと!?』
『援軍か……! 早すぎるが、ここで叩く!』
――騎士たちが殺気立った。
あれ……? なんか思ってたのと違うな? なんで抜剣してこっちに突っ込んでくるの?
「貴方様!」
セレスの声に反応して、俺は反射的にレバーを押した。
【ペルラネラ】は機敏に動き、振りかぶられた剣を避ける。
「なんでピクニックに来ただけでこうなるかなぁ?」
「運がいいのですね?」
言いながら、剣を空振りしたゴーレムに渾身のアッパーを見舞った。
『ぐああぁぁっ!?』
ゴーレムが空中に浮いて吹き飛んでいく。
僚機が一撃でやられたことに驚いた騎士たちが、口々に叫んだ。
『こいつ……!』
『王国のドールだ! 数でかかれ! 応援を呼べ!』
あぁぁぁ! なんでこう、俺の周りは物騒なのかな!? とにかく……。
「降りかかる火の粉は――ッ!」
「払うしかねぇな!」
俺たちは【ペルラネラ】を躍動させる。
突き出された槍を躱しながら掴み、肉薄してそのゴーレムの頭を掴んで地面に叩きつけた。
さらに至近距離での背中を狙った射撃をくるりと回って回避して、奪った槍を腰を狙って投げつける。
「どこの国だこいつら!?」
「少なくとも帝国ではありませんわ。どうして殺さないのですの?」
「厄介はごめんだ! 我慢しろ!」
どうやらセレスは騎士を殺さずに破壊していることに不満があるらしい。
たしかに戦いづらいが、なんの争いかもわからない戦闘で死者を出すのはためらう。
こんな戦闘、ゲームでは起こっていなかったはずだ。それとも描写されていないだけで実際は起こっていたのか?
そう思考しつつも、迫る剣を片手で掴み上げ、ガラ空きになった相手の脇腹にパンチした。
手加減が難しい。今ので中の騎士は失神したようだが、一歩間違えれば潰れてしまうだろう。
『射撃準備……!! 撃てぇ!』
そこに新手が来る。
砲兵隊と思われる部隊が遠方に展開していた。
「次々と厄介だな!」
「ですがッ!」
俺たちは飛来する砲弾の一発を【ペルラネラ】の腕で払いながら、フットペダルを深く踏み込む。
背部のブースターが起動して、【ペルラネラ】は高く跳躍、そして砲兵隊の一騎の肩を踏み潰して着地する。
突然、間合いに入られた砲兵隊が狼狽える中、俺たちは両袖に隠された細剣【バイタルティテクター】を突出させた。
この武器は相手の厚い装甲をブチ破るための装備だが、突くだけなく斬ることもできる。
「その陣形ではこちらが有利とわからなくて――!?」
セレスが叫び、密集した砲兵隊の手近なゴーレムから、その手足を次々に切断していった。
抜剣する暇も与えない。片っ端から肩を、腕を、手首を、頭を斬り落とす。
囲まれた状態で踊るように部隊を撃破していくこちらを見て、さすがに分が悪いと見たのか隊長らしきゴーレムが声を上げた。
『撤退だッ! 退け! 退けぇー!』
そうだ。それでいい。ここで不運にも【ペルラネラ】に乗る俺たちに喧嘩を売ったのが悪いのだ。
俺たちは追撃はしない。
退いていくゴーレムたちを冷ややかに見守る。
そうして戦闘が終わり、やっと静かになるかと思った、その瞬間――。
『ぐああぁぁぁ!?』
『あぁぁぁ! 隊長ぉぉぉ!』
『な、なんだ!? なにが起こってる!?』
――撤退していたゴーレムたちが爆散しだした。
「なっ――!?」
俺は驚きに思わず声を上げる。
そして、何かの音を聞いた。
それはヒュンヒュン、と細切れの突風のような音だ。そして、同時に何かの射撃音も混ざっている。
『ぐあ!?』
『ぎゃあっ!』
見れば、俺たちが手足を切断して転がっているゴーレムまで、すべてが何かに撃ち抜かれていた。
小さな穴だ。だがそれは強力な威力で正確に騎乗席を撃ち抜いている。
そのとき――俺は殺気を感じた。
同時に騎乗席内に警報が鳴る。
『⚠M.I《マインドインテンション》検知⚠』
「ふっ!」
反射的に踏んだフットペダルにより、【ペルラネラ】がバックステップをすると、俺たちの眼前を何本もの細い光の線が通り過ぎた。
攻撃だ。何かに攻撃されている。長距離兵器か、それも複数いるのか?
『あらぁ? 避けられちゃった』
すると声がした。
どこかで聞いたことのある声だ。俺はそれをすぐさま思い出せない。
『⚠敵機接近⚠』
ピピッと音がして、ペルがある方向を示す。
それは背後だった。
後ろを取られた、と思ったが、予想に反してそれはゆっくりと近づいてくる。
白いドールだ。だが、今まで見たどのドールとも似ていない。
ドレスのような装甲を上半身に纏わず、肩関節が剥き出しになり、逆に下半身は大きく膨らんだスカート。
まるで舞踏会に参加するような出で立ちドールは、こちらに歩み寄ってきた。
その目は衣装と同じく白く輝いている。
『今のでやられてくれれば誤射ってことにできたのに。残念ね』
誤射……? どういうことだ?
俺は警戒を解かずに【ペルラネラ】に背部のアンスウェラーを抜かせようとした。
だがそのとき、巨大な二騎のドールの間に割って入る小さな人影が出てくる。
フェルディナンだ。
「馬鹿野郎! 下がってろ!」
俺は思わず叫ぶが、フェルディナンはこちらを向かない。
そして、大きな声でフェルディナンが叫ぶ。
「その声……リース! リースなんだろう!? 私だ! フェルディナンだ!」
「なんだって?」
俺は呆気にとられて、ぽかんと口を開いてしまった。
『あら、フェルディナン様。どうしてこんな場所にいるの?』
正体不明のドールの騎士――それはリースだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます