第28話 すげぇ喋る校長
決闘の熱も冷めやらぬ翌日。
俺はまた明日から普通に授業が始まることにテンションを下げながら、セレスと一緒に校内の庭園を歩いていた。
場所はなるべく人通りの少ないところを選んでいる。
というのも、すれ違う生徒からはなにかと視線を感じていて、さらには決闘を見た感想を直に言ってくる者までいるのだ。
正直、疲れる。かといって自室でのんびりする気にもならず、こうして散歩に出かけているわけだが……。
「お?」
すると、庭園のベンチに座る二人組を見つけた。ルーシーとエリィだ。
俺たちは近づいて声をかける。
「よっ、お疲れさん」
すると、エリィはお辞儀を返してきたが、ルーシーは反応しない。
ってどこ見てんだお前!? なんか宇宙の端っこを想像しているような顔になってるぞ!?
「ど、どうした……?」
するとエリィが立ち上がってなにやら耳打ちしてくる。
ごにょごにょ……。
なるほど、つまりリースに髪留めを返して、絶縁宣言をした結果、号泣して今は上の空状態らしい。
ここは一応、フォローをしておくか……。
「ま、まぁ、その……なんだ。決めたんだろ。だからとりあえずエリィと……ぐふっ。頑張って――だっはっはっはっは!」
やべぇ、フォローするつもりがルーシーの顔が面白過ぎて笑ってしまった。
「……なに笑ってんですか!? なんすか!? そんなに面白いですか!?」
あ、正気に戻った。
「ひーっ! お前がフったのになんでお前がフラれたみたいになってんだよ! あっはっはっは!」
「そうは言いますけどねぇ! 【イルグリジオ】をガラクタにしたのはグレンさんたちでしょ!? それのせいでリースは従者じゃなくなったんですから! あそこまでやってほしいなんて言ってないですよ!」
「だってしょうがねぇだろ。俺たちだってドールに向けて撃つのは初めてだったんだから。まぁ、前に山に向けて撃ったら山頂が消し飛んだんだけどな!」
「やりすぎなんですよ! 強すぎなんですよ! なんなんですか【ペルラネラ】は!?」
それは俺も知らね。ゲームには出てこなかった騎体だし、喋るし、勝手に動くし、きっとスペシャルなんだろう。そういうことにしておこう。
「そう言うなよ。お前にはリースよりエリィの方が合ってる。忘れちまえよ、あんな女のことなんて」
「今、忘れようとしてたら爆笑してきたのはグレンさんなんですよ! ていうかそう簡単に忘れられ――あぁ……リースぅぅぅ!」
「あらあら、また泣き出してしまいましたわ。ぴろぴろ~」
もう何度目かの泣き顔に、ルーシーの突き出た下唇をセレスはぴろぴろと触る。
ホントに面白いなこいつの泣き顔。
「ほら、いつまでも泣いてないでどっか出かけるぞ。奢ってやるよ」
「プリィィン! プリンが食べたいぃぃぃ!」
「わかったわかった。とにかく泣き止め。超ブサイクだぞそれ」
「うるせぇー!」
まさか主人公がこんなに泣き虫だとは思わなかった。けれど、これはこれで妹分としては可愛くもある。
そんなルーシーたちを連れ立って、俺たちは街に出かけるのだった。
◇ ◇ ◇
後日、学校の校長室に俺とセレスは呼び出されていた。
校長から直々に話があるということだが、俺にはもう悪い知らせにしか思えない。
そして、予想通り校長の口からは……。
「うん、見事にやってくれたねぇ! 王国の面目丸つぶれだねぇ!」
執務椅子に座る青年は快活そうに言った。
この青年、見た目こそ人間の若い男だが、長く尖っている耳に、顔は美形で全体的にすらっとした印象がある。
つまり彼はエルフだ。
俺も実際に見るのは初めてだった。
これで年齢が五百を超えているというのだがら驚きを隠せない。
というのもゲームではエルフという単語自体があまり出番のないものだったからだ。
こっちの世界に来てから知ったことだが、彼らは少数民族であるものの、人々からは神に近い種族として神聖視されている。
彼らも人間のことを見下すことなく、むしろその知識を生かして人間を正しく、強く、より確かに繁栄させることを自身の使命としているらしい。
そのため、国の要職にエルフがついているのも珍しくなく、この学校の校長も初代からずっと変わっていない。
「大変申し訳ありません。
深くお辞儀をしたセレスに合わせ、俺も頭を垂れる。
すると、校長は「ああ、やめてやめて」と顔を上げるように促してきた。
「ある意味わかってたことなんだ。むしろ【凶兆の紅い瞳】を持つ君が我が校に来て、何事もないなんて考える方が浅はかだよ。それに俯瞰的に見れば決して悪いことばかりじゃない」
「と、言いますと?」
「先日、帝国領で決闘騒ぎを起こしたルクレツィアが、その相手と手を組んで決闘し、見事、格上相手に勝利をもぎとってみせた。これはある意味では王国と帝国が手を組んで戦ったとも見えるじゃない?」
ま、まぁ確かにそう言われればそうか……?
軽快な校長の口振りに俺は混乱しつつ、それを肯定する。
「それに君たちの放ったアレ! あの光は王都に住む貴族たちの間でとても話題になったんだ。久しぶりに胸が躍ったよ。雲に穴を開けたからねぇ。アレがとても派手でよかった! おかげで新聞が飛ぶように売れたそうだよ。――ああ、話が逸れたね。とにかく、君たちとルクレツィアが、そしてエリィが組んだことでドラマチックな話が出来た。そういうのは人の心を惹きつける。
すげぇ喋るなこの校長! ……じゃなくて、そういうことか。
今回の決闘のことを【帝国から来た留学生の暴走】ではなく、【帝国と王国の架け橋の雄姿】みたいな感じで脚色して世の中に伝えるということか。
実際にルクレツィアたちは格上のフェルディナンに食らいついて一太刀浴びせているし、タッグを組んで間もない二人のこともある意味、美談として書くこともできる。
民主主義の国の俺からしてみれば酷い話だが、世論操作をしようというのだ。
校長はそれに対して俺たちが否定しないかを問うために呼び出したらしい。
「異論はありませんわ。お手数をおかけいたします」
洪水のような言葉の羅列の最後の問いに、セレスは腰を折って応じた。
俺も文句はない。というか、それで丸く収まってくれるなら本望だ。
「よし! じゃあ引き続き学校生活を楽しんでね。今後はできれば無闇に決闘を申し込んだりはしないでほしい。というか、恐らくこの学校には君を楽しませてくれるような相手はほとんどいないだろうし。弱い者いじめがしたいわけじゃないなら、どこかで戦争が始まるまで、その牙をゆっくり研いでいてくれると嬉しいな」
「承知いたしました」
「では下がっていいよ。あ、新聞持ってく? 記念に取っとくとあとで見返して気持ちよくなれるよ。こういうのは」
「はぁ……」
ずい、と差し出された新聞を俺は仕方なく受け取って、静かに校長室から退室するのだった。
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