第3話 カラオケ

 

「で、ここが」


 そこは、木村さんが連れてきた家だ。三村という名札がついている。


「俺がピンポン押していいか?」


 そう、康生が元気そうな声で言う。だが、それを止めるのが木村さん。「私が行くわ。女の方が信用できるから」と言った。

 確かにいきなり知らない男子が来るよりも女子が来る方がいいだろう。

 そこで木村さんに「分かった、頼む」と言って、木村さんに押させる。

 そして木村さんがピンポンを押す。


「はいこんにちは」


 そう言って人がが出てきた。感じ的にお母さんだろうか。


「えっと、この家に優香さんはいますか?」

「優香ですか? 少し待ってください」


 そう言って、彼女は奥に引っ込んでいく。


「こんにちは」


 出てきたのは小学生の女の子だった。年齢はおそらく小学三年から四年くらいだろう。

 正直……思っていたよりも小さい子だったからびっくりした。

 佐々木さんの友達だというから最低でも中学生なのかなと思ったのに。


「ごめんねいきなり押しかけてきて、美優のことなんだけど」

「お姉ちゃんのこと?」


 お姉ちゃん? 実の兄弟だったりするのか?


「うん。そう。私は美優の友達なんだけど、あの子ずっと心閉ざしててさ。何か知ってるかな?」

「お姉ちゃんのこと? とりあえず中入って。お母さんいいでしょ」

「うん」

「あ、この二人もセットだけどいい?」

「いーよ!」


 良かった、受け入れられた。そして奥に案内され、リビングへと通された。


「それで……おねえちゃんの話だよね。えっとあなたはあの誘拐監禁事件について知ってるの?」

「えっと軽くは」

「俺も」


 確かに誘拐されたのは知ってるけど、それだけだ。他は何も知らない。


「あの時私たちは拘束されたまま一日中過ごしてたの。寝るときもご飯食べるときも、お風呂に入る時も」


 それから何が起こったのかを事細かに説明してくれた。本当はつらいはずなのに、よく話してくれたんものだ。

 酷い話だ。帰り道でさらわれて、そのまま拘束されたまま地獄のような非bを過ごす。……その犯人は最低だし、佐々木さんや、優香ちゃんのことを可哀そうだと思う。

 模試も俺がその立場だったら耐えきれないだろう。それほどの恐ろしい日々を二人は過ごしてきたんだろうな、と。


「それで、優香ちゃんから見てどんな感じなの? 美優は」

「お姉ちゃんは……本当に死にそうな眼をしてるの。たぶん今にも自殺してもおかしくないと思う。私は……お姉ちゃんとは常には一緒に入れないから」


 悲しそうな眼、この眼から優香ちゃんが本当に佐々木さんを守りたいと思ってることが伝わってくる。


「優香ちゃん……俺も君のお姉さんを救いたいと思っている。だから、協力してほしい」


 そう言った。佐々木さんのあの顔を見ていられないのは俺も一緒だ。


「ありがとう。じゃあ、明日お姉ちゃんと一緒に話す機会を挙げるね。だから明日私の家に来て」


 恐らく佐々木さんを招待するからっていう事なのだろう。明日が勝負だな。

 そして今日は帰ることにした。


「いやー恐ろしい話を訊かせてもらったなあ」


 そう康生が言った。


「今回は笑い話じゃねえな」

「ああ」

「恐ろしい話だよな。俺だったらもうくるってる」

「俺もだ」


 そう考えたら佐々木さんは保健室登校しているだけ偉いってことだな。


「じゃあ、明日」

「おう」

「うん」


 そして俺たちは分かれる。


 そして翌日。


 インターフォンを押し、俺たちは入る。今日は康生は用事があるから俺たち二人だけだ。すると、優香ちゃんと、佐々木さんがいる。佐々木さんは驚いた様子だ。当然ながら俺たちが来ることを伝えられてはいなかったのだろう。


 佐々木さんはこちらを見ないようにしている。ややおびえた様子だ。


「……」

「お姉ちゃん、ごめんね。だまして」

「……」


 佐々木さんは優香ちゃんの言うことすべてに無言で返している。

 そんなに心の闇は激しいのだろうか。


「私ねお姉ちゃんには立ち直ってほしいんだ」

「……そう。でも私、優香意外とは話したくない」


 そう言ってだんまりを続ける。俺が話しかけた時も無理をしていたのかな。


「どうしよう」

「ええ。どうしましょう」


 やばい、俺たち二人の作戦は早速瓦解してしまった。


「ねえ、美優。私はだめなの?」

「……」

「だんまりかあ」


 木村さんは分かりやすく落ち込む。親友にそんなこと言われたと考えたらそりゃあ落ち込むよな。

 俺にできることはないのだろうか。そう少し考えるがいい解決方法も思いつかない。


「……だけど、これだけは忘れないでほしい。俺たちは敵じゃない」

「……それは……分かってる」

「みたいだよ。……そうだ! 私一ついいアイデアを思い付いた」

「いいアイデア?」



 そして今俺たちはカラオケに居る。優香ちゃん曰く、歌ったら仲良くなれるかもって。


「くだらない」


 今その佐々木さんが乗り気ではないんですが。だが、優香ちゃんがそんな佐々木さんを必死に説得して歌を歌わせようとする。

 その曲は昭和の曲だった。思いのほか渋いな。

 そして、佐々木さんはやる気なさげに歌っている。だが、音程は不思議なことにかなり合っている。なかなかうまいと思う。……声に力はほぼないのだが。


「佐々木さん上手いね」


 と伝える。すると、「……そう……」と帰ってきた。まるで他人事みたいだ。そして優香ちゃんが「歌いまーす!!!!」と言って歌いだす。

 そして佐々木さんは手拍子を取り始める。

 優香ちゃんの歌は、小学生にしては上手いと言った感じだった。


 しかも楽しそうに歌っている。見てて楽しい。


「じゃあ、今度は昭さん、お願い」

「分かった」


 そして俺も歌いだす。とはいえ俺は歌は上手くはない。まあまあの感じで乗り切り、そして最後に木村さんも歌った。


 そしてしばらく互いに歌った。


 そして、途中で優香ちゃんと、木村さんは部屋から水を取るために出ていった。


 そして……部屋の中に俺と佐々木さんの二人きりで置いて枯れた。正直気まずいが、話を振るなら今しかない。


「……佐々木さん」

「……」


 何も答えてくれない。何? とも言ってくれないとも思ってなかった。


「俺、訊いたよ。監禁生活の話を」

「……」

「俺、そんなにつらい生活をしたとか全然知らなかった。だけど、俺はそんな君を救いたいんだよ。君は、そんなつらい体験を下こそ、幸せになってほしいんだよ。不幸のままでいて欲しくないんだよ!」


 そう、強く言った。どうか、頼む。



「何が分かるのよ!!!!!!!!」


 その声の勢いに思わずたじろぐ。


「あなたはいろいろ言うけど、私みたいな経験ないでしょ? 私は、私は、もうあなたたちと同じところには戻れない。もう他の人を同じ人間には見えないの。だからお願い、関わらないで」

「そんなことはないだろ。誰も信じられないと、人生辛いだろ。克服していこうぜ」


 そう、手をつかむ。するとすぐに、手をはたかれ、「あなたに何が分かるのよ!!! 幸せなくせに!! 

 誘拐なんてされたことないんでしょ!! 私はもう、ひねくれているの。……ごめん帰るね」


 そして、佐々木さんは出ていった。


 何が悪かったのだろうか。いや、理由なんて分かっている。俺では佐々木さんの心はいやせなかったという事だ。


 どうしたらいいのだろう。またわからなくなってきた。


 そして、優香ちゃんがやってきた。佐々木さんと話してくれたらしい。その結果を聞いたらだめだったらしい。


「そういや、優香ちゃんは大丈夫なのか?」

「え?」

「佐々木さんが言っていた、他の人が幸せなのがむかつく的な事」

「私は……別にそうは思わない。確かに辛かったし、お姉ちゃんのいう事も分かるけど、でも私は許したい」

「そうか」


 そしてそれから俺たちは数曲歌った後、カラオケから出た。


「ごめんね、あまり力になれなくて」


 優香ちゃんは少し悲しそうなあ弧をしている。罪悪感でも持っているのだろうか。


「それを言うならこっちこそ、力になれなくてごめんな」

「私も……友達なのに何もできなかった」


 そして三人で、その場に倒れこんだ。

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