第4話 突入

 そして翌日、保健室に向かうも、佐々木さんはいなかった。その事実で、俺たちは佐々木さんを助けようと思ったら逆に佐々木さんを追い込んでいたという事を思い知った。

 俺は何もできないどころが、状況をさらに悪くしていたという事を思い知った。そしてそれは木村さんも同じらしかった。

 木村さんも俺の隣で、震えていた。


 そして教室に戻った後、


「どうする?」

「うん……どうしよう」


 木村さんも困っている。


「昨日のことなんだけど、まさかこんな事態になるとは思ってなかったし、まさか見下されてるとは思わなかった」


 見下されている。確かに佐々木さんは、絶望を味わってない人を嫌いだと言った。だが、見下すよりも、なんて言うか、嫉妬という感じがした。


「俺は……佐々木さんはやっぱり可哀そうだと思う。佐々木さんだって、同情なんてされたくはないと思うが、やっぱり、人を同じ人として見れないのは、最悪だ。この世に、誘拐レベルの絶望を味わった人なんてそうそういないし。確かに昨日は失敗した。だけど、俺はその原因は、俺が急に距離を詰めすぎたからだと思いたい。……何より、俺はやっぱり佐々木さんに普通の人生を送ってほしいんだ。誘拐された過去なんてなかったかのような。だから、木村さん。次の手を考えよう」

「うん。そうだね」


 だが、話し合いはその後平行線をたどった。次なる手がどちらにも思いつかない。佐々木さんの信用を得る方法を。


「やっぱり俺よりも木村さんの方が、佐々木さんを助けるには近いとは思う。何しろ俺は男だから、恐怖感を起こしてしまうだろうし」

「……そうね。でも、私も昨日避けられたし」

「それは気が動転してただけだろ」

「そうね……」

「また優香ちゃんを頼ることになるのかなあ」

「そうだね。でも、警戒されちゃってないかしら」

「そうだな……はあ、やらかした」

「ドンマイ!」


 そんな俺に、康生が肩を叩く。


「何だよお前!」


 びっくりして声を荒げる。ドンマイって……どこ目線なんだ。


「昨日失敗したんだってな」

「うるせえよ。お前には言われたくない」

「まあ、それは置いとき、……明日俺が何とかしてやるよ。俺はたぶんまだやらかしてないだろ」

「それはそうだが」

「じゃあ、俺に任せろ」


 何を任せればいいんだ。こいつに。



 驚いたのは翌日だ、康生が「おい! 住所を特定したぞ」と、言って切ったのだ。


「どうやって?」

「なに、ほんの簡単なことだよ。散歩してたら佐々木さんが外を歩いてた、そしてそこをストーカーした」

「……犯罪じゃねえか」

「この際それはいいだろ。そして俺は家に入る前の佐々木さんに声をかけた」

「……お前どんな勇気だよ。普通に変質者じゃん」


警察に通報されても文句など言えないだろう。


「まあ、話はここからだよ」

「……おう」

「普通に逃げられた」

「…………よし殴らせろ」


 含みのあるいい方しやがって。結局だめなのかよ。


「お前今のは悪質すぎるぞ」

「すまんって。まあ、家を突き止めたことは感謝してくれ」

「まあ、それはな。……てかそれは優香ちゃんか木村さんに訊けばよかったんじゃ」


だってあの二人なら絶対に知ってるはずだし。


「まあ、それはいいだろ。じゃあ、今日の放課後にでも行くか」

「どこに?」

「佐々木さんの家に決まってるじゃねえか」

「………………ストーカだろ」

「いいだろ。もうアタックするしかないんだよ」

「そうはいってもだが、俺は佐々木さんの辛さも何も知らないんだよ。そんな俺が佐々木さんに今あったところで何ができるんだよ」


それならむしろ木村さんの方が可能性がある。


「何ができるって……別にお前が部外者とか言ってるのが正論だと思ってるのか? 自分以外の人を恨むとか言ってるのが正論とか思ってるんじゃねえのか? 違うだろ。あの人が苦しんでいるからお前は助けたいんじゃないのか? 何をためらっている。躊躇う必要なんてないはずだ。本当に佐々木さんを助けたいと思っているのなら、行け。そして話せ。今度こそお前の心の内を!!!!」

「…………」

「安心しろ。俺もちゃんとついて行ってやる。お前が逃げ出さないようにな」

「ああ……分かった」


そして俺たちは放課後、佐々木さんの家に向かった。


「ここだ」


そこは小さな家だった。THE一般の家という感じの見た目で、佐々木さんにはある意味似つかわしくない家だ。


「インターフォン押せよ」

「……ああ」


だが、肝心の勇気が出ない。俺は佐々木さんに合う資格はないのかもしれない。


「なあ、康生。帰ろうぜ」

「だめだ」


一蹴された。何をこいつマジになってるんだよ。お前、楽しければ何でもいいみたいなスタンスだったじゃねえか。


「分かったよ」


そして観念してインターフォンを押す。

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