第4話 水族館
土曜日
俺は朝六時に起きた。別に起きたくて起きたわけではない。ただ、なぜか緊張してよく眠れなかっただけだ。今日は二人で水族館に行く……ただそれだけなのに。
結局家にずっといるのも心臓が持たないので、待ち合わせの二時間前に家を出た。
俺は緊張なんてしていない。そう心に言い聞かせて。
「あ、浩二君!! こっちこっち」
着いたら榊原さんにそう言われた。……なんでもうここにいるんだ?
「なんで私がここにいるかって思ってるんでしょ? その答えはー……じゃじゃん!!! 楽しみで早めに来ちゃっただけ」
「早めって、まだ開館一時間前だぞ」
「いいじゃない。どこかで朝ごはん食べよ?」
「すまん。朝ごはんもう食べた」
「仕方ないなー。じゃあ、私が朝ごはん食べるさまを見ていてよね」
「なんで一時間前に来て、お前のご飯食べる姿を見なければならないんだ……」
「いいでしょ! 美少女の食べる姿を見れるのよ。最高じゃない?」
「いつも学校で見てるけどな」
食い下がったが、結局榊原さんの勢いに負け、カフェに行った。どうやらカフェでご飯を食べるらしい。
まあカフェという事なら、カフェラテでも頼めば時間つぶしが出来るので、どこかのレストランと㋐距離は少しマシだ。
そしてカフェについた後、俺は彼女が美味しそうにご飯を頬張る様を見ながら、スマホをいじっていた。「ねえ、私の食べる姿の感想言ってよ」と言われたが、そんなの、「死神にでも聞けばいいだろ」と言って無視した。俺はなぜかこの朝食に付き合わされているだけなのだ。
しかし、スマホを触っているのもあまり楽しくがない。理由は一つ、榊原さんが食べている姿にドキドキしてしまっているのだ。
ハンバーガー屋さんでも思ったが、榊原さんは食べる姿も美人だ。そのせいで嫌にドキドキさせられてどうしようもない。
そしてようやくご飯を食べ終わった榊原さんが、「さあ、今度こそ行こっか」と言った。開館時間の一〇分前、ちょうどいい時間と言える。
「ああ。ようやくか」
そしてハイテンションの榊原さんについて行く形で、進んでいく。
水族館でチケットを買い、そのまま水族館へと入って行った。
「ねえ、すごくない? この沢山の魚たち。めっちゃ凄い、やばいやばい!!!」
「テンション高すぎじゃねえか?」
「浩二君もテンション上げようよ!!!」
そう言って彼女は俺の手をまたしても握った。
「そっちのテンションに合わせるのが、もう大変なんだが」
「これくらいが普通だよ! 普通!」
相変わらずのはしゃぎようだ。元気すぎる。これだと俺と榊原さんとの空気差がすごい。
むしろ、榊原さんが絶好調なせいで、俺が
テンション上げれないと言っても過言じゃない気がする。
「うわあああああ! これよこれ! この迫力よ!!」
次はサメを見て言った。ガラスに手をつけて、凄い真剣な目で見ている。
「ねえ、浩二君も見てよ、このサメを!」
そして椅子に座っている俺に言った。
「ああ、凄いな」
「でしょ! もっとこっちにきてみてよ」
「あのなあ、別にそんな近くに行かなくても見えてるって」
むしろ、近くで見るよりも、遠くで見る方が俺の性に合っている気がする。
そもそも立ちっぱなしというのも疲れるものだし。
しかし「来てよー!」と、諦めないでこっちに手を振っている榊原さんの姿を見ていると、こっちが根負けしそうだ。
仕方ないので、彼女の方向に行く。こうも騒がれては周りの迷惑だしな。
「さて、浩二君、私が考えてることを当ててみて?」
「そんなの決まってるだろ」
簡単すぎる。聞くまでもない。
「サメすごいなーだろ?」
「違うよー」
そう言って俺の背中をパンパンと叩く。なんかムカつく。
「浩二君がこっちに来てくれて良かったってことだよ」
「なんだよそれ」
苦笑するしかない。
「まあでも、良いよな。こういうの」
「浩二くんわかってくれた?」
「わかってくれたとか言って、元から分かってるよ」
「そう、なら良いんだけどね」
そして次は小魚コーナーに行く。
「ねえ、見て? 今度は可愛くない? 最高なんだけど」
やはりと言うべきか、今度もまた間を輝かせてみている。今の内からこのハイテンションぶりを続けていると、そのうち体力尽きるだろと、思う。
俺には少し理解が出来なかった。
そして案の定ハイテンションを求められたので、またハイテンションを演じる。
まあ、楽しいからいいけど。
そして俺たちは場所に行った後、お腹が空いたので昼ご飯を水族館の中のレストランで食べる。
「ここって、魚が有名なんだ」
「そうなんだ」
「面白いでしょ」
「え?」
「水族館の中で魚を食べるって」
「……何が面白いんだ?」
意味がわからん。
「ええ? 面白くない? さっきまで見てた魚たちを今食べてるんだよ」
「面白くないって……」
さっき見た魚とは別の魚だし。
そんな会話をしていると、注文していた刺身セットが届いた。マグロ、サーモン、タイ、ホタテなどなどの刺身だ。見ているだけでおいしそうだ。
「じゃー食べよー」
「ああ」
そして俺たちは刺身を食べていく。おいしい。新鮮な魚の味がよく出ている。これは箸が止められないな。
「……あと人生でどれくらいこんなおいしい刺身を食べられるんだろうね」
「お前が言うと、シャレにならんからやめてくれ」
「そう言う意味で言ったんだよ? あとこの四ヶ月でどれくらい食べれるんだろうって」
「なあ、」
「ん?」
「そんなこと言ってて辛くならないのか?」
こうも自虐ネタをこうも沢山ぶち込まれるとな。
「ならないよ? あの時はそう思ってたけど、悲しむだけ無駄じゃん。死神さんも運命は変えられないって言ってたし。ならさ、楽しんだ方が得だよねっていう」
「本当、その考え方見習いたいわ」
俺が同じ状況にいたとして、到底そんな考え方なんてできるとは思えない。
そして彼女は「おいしいいいいい」と言って刺身をパクパク食べていた。
そして俺も続けて刺身を食べていく。榊原さんみたいにおいしいいいいいっていうテンションは出せないが、やはり美味しい。
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