第5話 水族館2
「じゃあ、次いっくよー!!」
と言う榊原さんに連れられ、少しずつまた歩いていく。午前中とは違い、今度は外の方を歩いていく。そこにはペンギンがいたり、上から、魚たちが見られるというコーナーがあった。その全てに対して、榊原さんは「かわいいいい」などと、テンションを高くしながら見ていた。
そして極めつけは、イルカショーだ。
「楽しみだね」
と、最前列に座りながら榊原さんが言う。
「本当にここで見るのか?」
「うん! だって、最前列で見てこそでしょ?」
いやいや、水が飛んでくる不快感が確実に勝つ気がする。
「俺、別のところに行っていいか?」
そう言って席を立つと、「だーめ。一緒に出ないとデートじゃないよ」と言って腕をつかまれ、席に戻される。
「おいおい、死神がいるからいいんじゃねえか? 死神と一緒に楽しめよ」
「だめ、私は浩二君と一緒に居たいの」
「そんなこと言ったら、死神泣くぞ」
「泣いてもいいもん。だって私の命を奪うための存在だから…………あ、死神さん泣いてる」
「かわいそうだな」
「さーて皆さん……」
イルカショーが始まった。その際に「時間稼ぎ成功!」と言って、ピースを向けてきた。なるほど、だから粘ってたのか。
そして、俺たちはイルカショーを見る。だが、今から大量の水が飛んでくると考えたら少しいやな感じがする。ああ、どうか水があまり飛んできませんように。
結論を言えば、水は大量に飛んできた。俺が思っていたよりもだ。もう水しぶきでどんどん体がびちょびちょになっていく。最悪だ、不快だ。だが、俺の隣で「やっほーーー!!!」と隣で絶好調に機嫌がいい榊原さんを見るともういいかと思ってしまう。
そして、イルカショーが終わった後、クラゲコーナーへと向かう、クラゲコーナーではぷよぷよとしてそうなかわいい生き物が沢山泳いでいる。
やばいな、この生き物気味悪いけど、可愛いな。こんな不思議な生き物がいるものなのか。
そうして俺がじっと見てると、
「もう次行こうよ」
そう、冷たい声で榊原さんが言う。
「え、これには興味ないの?」
「うん。クラゲなんてきもいだけだし」
「……俺たち合わないのかもしれんな」
「そうだね。じゃあ、さよなら」
「え?」
「会わないかもしれないって言ったのそっちじゃん。だからそれに乗っただけだよ」
「何だよ」
「別にー」
榊原さんには冗談など通じないのか。そして次の場所へといく。その次の場所では、榊原さんも楽しんでいるようだった。
俺も十分楽しんでいると思うが、彼女の喜びように比べれば大したことはない。(クラゲコーナー以外)
彼女は、寿命が四か月しかない。だからこそこんなに楽しんでいる。そう考えたら、なんとなく命のことについて考え込んでしまう。
余命僅かの方が楽しいのかなだとか、人生とは何なのだろうかとか、哲学っぽいことを。
そして再び入り口付近に戻ってきた。
ここは、お土産コーナーだ。お土産とは言っても、魚の形を模したボールペンや、魚のぬいぐるみなどだ。
それらをキラキラとした目で彼女はしっかりと、一つずつ見ていく。
そしていつの間にか、彼女の手には沢山のぬいぐるみがあった。これ、金額的にはいくらくらいになるんだろうか。
「なあ」
見かねた俺は声をかける。
「どんだけ買うつもりなの?」
「えー。思い立ったが吉日だよ。ピンと来たら全部買わなきゃ」
「でも、お前四ヶ月後にはいなくなるぞ」
「だからだよ。お金使わないとねー。あ! 私が死んだあとは、浩二君に管理任せよっかな? 私の遺品として」
「やけに上機嫌だな」
「だってー。癒されるんだもん」
そう言う彼女の目は本当にまぶしくて、嘘はついてないんだろうなと思う。本当に欲しいんだなとも。
そして彼女は結局一万六千七百円分のぬいぐるみを買った。「親とかに怒られないのか?」と訊いたが、「そんなの私の勝手じゃん」と帰ってきた。そう言えば、俺は榊原さんの親のことを知らないなと今更ながらに思った。しかし、今の彼女のいい方から察するに、結構自由にさせる家なんだろうなと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます