第3話 死神
そして授業に入る。俺は数学が得意だからそこまで苦戦はしなかった。と言うか、教科書の問題はほとんど解けるようになっているから授業と言うのはもう思索にふける時間なのだ。
腐っても受験生。勉強はしている。
そんな中、彼女が話しかけてきた。わざわざ後ろの席の俺に。
いや、正確には話しかけたというのは違う。彼女が後ろに手紙を渡してきたのだ。どこかの女子同士のやり取りかと言いたい。
手紙には「浩二君としゃべりたいなー。一緒に喋れないの寂しいよ」と書いてあった。惚れさせようとしているのか? 分からん。彼女の思考が一切わからん。
とりあえず、「ああ、俺もだ」と書いておいた。しかし、渡すの結構勇気いるぞこれ。どうやって渡そう。
先生の目を盗むほど度胸があるわけじゃない。仕方ない、先生が向こう向いた時に渡すか……
しかし、そういう時に限って先生がなかなか向こうを向いてくれない。
困ったぞ、これではなかなか渡せない。
「では、大林、この問題を解いてみろ」
来た。この瞬間だ。と、前の席にいる彼女にそっと手紙を手渡す。すると、一瞬で返事が返ってきた。
そこには「手紙交換楽しいね」と書いてあった。俺は普通にばれるのが怖いんだが。
まあ、だが、新鮮であることは事実なため、「ああ、そうだな」と手紙を返しておいた。
「ねえ、どうだった? 手紙?」
「ああ、まあ楽しかったよ」
「そうっかー。楽しいかあ。良かったー」
「でも」
「ん?」
「ばれるリスクがあるのは怖かったけどな」
「それを踏まえて楽しいものなのよ。プレッシャーとかね」
「そう言うものなのか?」
俺がそう言うと、彼女は「あ、でも」と言って、
「これで、浩二君もそういうのデビューしちゃったねえ」
「どういうことだ?」
「だって、友達いなかったじゃん」
「そういうの言わないでくれ。それに俺は友達がいないんじゃなくて、友達を作っていなかったけだ」
「へーそれ言い訳?」
「いいわけじゃない!」
友達と言う雰囲気が苦手だっただけだ。だって……陽キャうるさいし。あ、そんなこと言ったら榊原さんも陽キャよりか。
今も榊原さんとの変な出会いが無かったら、こんなことになるなんて思ってなかったし。
「さて、今日ちょっと付き合ってくれる?」
「放課後?」
「うん。デート」
「デートなんて言うな。友達なんだから」
本当に思わせぶりな態度はやめてほしい。
「でも、男女同士で行くんだからデートじゃない?」
「まあ、そうなんだが」
まずいな、完全にこいつのペースに巻き込まれる。
「じゃあ、よろしくね」
そんな俺に向かって満面の笑みを浮かべるのであった。これは本当に楽しみにしてそうだな。
「浩二君来た! じゃあ行こう!」
「おう……ところでなんで待ち合わせ方式にしたの?」
わざわざ待ち合わせを校門前に指定してきたのだ。同じクラスだから、ここで待ち合わせる意味もない。
「だって、それだとデート感がしないじゃん」
「またそれ言ってるのかよ。それでどこにむかぅんだ?」
「んーとね。ハンバーガー屋さん」
「ハンバーガーか」
なるほどな。
「美味しいハンバーガー屋さんがあるんだよねー」
「それってあのハンバーガー屋さんか?」
「もちろん!」
それは有名チェーン店だ。シンプルなものだな。
そして店に着くと、俺たちは早速ハンバーグを頼む。俺は鉱物のチーズバーガーで、榊原さんは、ビッグバーガーだ。
「浩二君と一緒に来れてよかったー」
と、言って無邪気に笑う榊原さん。それを見るに楽しんでいるようだ。
「それはどうも」
「それでねえ、今日は一緒にお話しできたらいいなって」
そして俺の片手を取り、
「これからのことをね」
と、急に真剣な目をして言ってこられた。
「これからのことと言われてもなあ」
「私が決めるだけだから大丈夫」
「つまり……俺は何もしなくてもいいってことか?」
「えー。浩二君も決めてよ」
「なんだよ」
どういう事だよ。たぶんこの上機嫌ぶりからして気分で言う事を決めているんだろうけど。
「それでね、今度の土曜、一緒に水族館に行かない?」
「水族館か……」
なんとなく、デートスポットのような感じがする。俺には似合わない場所だ。
「だめ?」
「だめ……じゃない」
その美貌からの上目使いできかれて断れる人なんて日本人にはいないだろう。
「やった! じゃあ土曜日覚えといてよ! 絶対だからね」
そう、指で俺の額をちょんっと押してきた。
「分かった。あと一つ、いい?」
「何だ?」
「私ね、死神がいるの」
「は?」
「ていうかね、私の横にいるの」
「……」
死神、また非科学的な存在が出てきた。少なくとも俺には到底理解できない存在だ。
いや、俺でなくとも死神なんていう存在を軽々しく受け入れられる人間はいないだろう。
ただ俺は彼女を信用したい。そんな事を考えていると、
「疑ってるんだー」
と、彼女が言ってきた。あーもう! 今信用しようとしてたところなのに。
「証拠見せようか?」
そう言い、彼女は「私は死神、この女を十八に殺すために現世にやってきた。私は何も現世には関与しない。その代わりに、私は貴様にも何も求めない」
そう、真に迫ったような迫力で言った。しかも今の声は到底榊原さんの声には思えない。彼女の口から話されているはずなのに。
「今、私についてる死神に言わせたの」
「なるほど……」
これは本当に疑いようがない。
「という訳で。死神さんもよろしくね、まあ、浩二君には見えないらしいけど。今も死神さんがしゃべってるの知ってる?」
「分からないな」
「じゃあ、やっぱり見えてもいないし、聞こえてもいないんだ。まあ、分かってたけど。……残念だったね、死神さん」
「えー、そんなこと言ってさみしいんじゃないの?」
異質な光景だ。榊原さんは何もいない空間に向かって話しかけてるのだから。そして榊原さんは再びこちらを向いて、
「さっきデートとか言ってたけど、私には死神がついてるからもうデートは出来ないんだ。ごめんね。だから今日もよく考えたらデートじゃないの」
「……まあ俺はどっちでもいいけど」
「あ! 今少しだけしょんぼりしたでしょ! 私にはわかるんだからね」
「うるせえな」
てか普通にしょんぼりしてないし。
「まあ、それは置いといて、土曜日よろしくね」
「ああ」
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