第8話 三人でのカラオケ

  そして翌日、修平と一緒に登校した.もちろん登校時の俺たちの話題は、修平と朱里のデートだ。修平は俺たちのデートでああしたこうしたと言ったのろけ話や、そうした朱里のかわいいところを淡々と説明してきた。

 話している相手がその朱里だとも知らず。

 そのため、聴いている時に笑いをこらえるのが大変だった。それはもう、何回も吹き出しそうになった。

 耐えた自分をほめたいところだ。


「すまんな、デートしたことのない人にこんな話して」


そう、にやけながら言う修平に、俺だってデートしたことあるんだぞと言いたくなった。女装時だから、どちらもデートには入らないとは思うけど。


「そんな感じで朱里さんはかわいかったんだが。最後に、あの人自分と高橋さんの悪口を言わないでほしいと言ってたぞ」


 お、言ってきたか。もちろん朱里がお願いしたことだ。良し一〇点加点だ。


「悪口という感じではないけど……」

「いや、兎に角やめとけ」

「分かった」


 これで今日の仕事は終わったか?

 あとは、俺がもう高橋さんと関わらなかったら、ミッションオールコンプリートだ。


 そして、教室に入る。すると高橋さんがいた。


 ……そう言えば昨日は高橋さんに会ってないし、理恵子にメッセージも送ってねえ。向こうも気になってるだろうのに。


 そして、俺がそんなことを考えている間に、修平は高橋さんのもとに歩いて行った。そして、ぺらぺらと昨日のデートのことを話し始めた。


 おい、勇気あるな。そして周りのクラスメイト地もも動揺しているようだった。そりゃあそうだ。孤高の狼に話しかける強者つわものがいるのだからな。一瞬止めようかとも思ったが、ここで俺が止めたらもっとややこしい事態になってしまう。

 それは避けたいところだ。何しろ俺と朱里の存在が同じという事だという事がばれると、な。


 そして、俺はそんな修平を眺めながらスマホを触る。もちろん今理恵子にメールを送るためだ。


(そう言えば言ってなかったけど、昨日のデートは楽しかった)


 そう、書き留める。だが、今送れば修平との会話でのことと思われるから送らない。一時間目の休み時間に送る予定だ。


 だが、しかし、修平と高橋さんの会話を見ていると面白い。本当に修平が一方的に話過ぎて高橋さんが困ってる。あいつはコミュ障なんだよ。まったく見てられねえ、だが、俺が今出て言ったら俺=朱里になるかもしれないか?


 いや、親友の暴走を止めるためと考えたら不自然ではないか。


 そして俺は、「おい、そろそろやめとけよ」と、修平に言った。


「なんだよ、奏。お前には関係ないだろ」

「お前、人の顔色見ろよ。親友としてこれ以上は見ていられねえぞ」

「そうか?」


 そして修平は高橋さんの顔を見る。そして、気まずそうな顔をした。修平のやつ、気づいたらしい。


「デートの話なら俺が聞くから大丈夫だ」


 そう言って修平を高橋さんから遠ざけようとする。


「奏」


 それに反抗する修平。


「いや……私も話聞きたいから。ただ、ゴリゴリと話すから……動揺しただけで」


 苦手だっただけか。良しここはおれの印象をよくするためにも……


「じゃあ、俺が仲介するから、三人で話すか」

「……うん」


 とはいえ、デートの当事者が二人ここにそろっただけという事はあるけどな。だが、それに気づいているのは俺だけか。……なかなか面白い状況だな。


 そして、話し終わった後、高橋さんは俺たちに大分なついていた。


 考えればすぐに分かることだった。おそらく理恵子の初めての友達である朱里から見れば、かなり単純な人間なのだ。おそらく今高橋さんには、俺がオタクに優しいギャルみたいなものに見えているのだろう。


 だが、それは俺にとって快くない状況だ。奏=朱里であることが知られたら困るのだ。


 しかも、「じゃあ、三人で……カラオケ行きま……せんか?」


 高橋さんはそうまでで言い出してしまった。


 どういう事ー、え? 高橋さんって実はコミュ強? 朱里と初めて会った時もあっちから話かけてきたし。

 というか君、さっきまで俺のことを嫌ってたよね。もう意味がわからない。頭痛が痛いわ??




 そして放課後、俺達はカラオケにいる。もし今俺が女装(朱里)だったら叱ってたところだ。そう簡単になつくなよ、と。


 そして、カラオケの中で、「なー。奏上手いから楽しみにしとけよ」と言う修平。そんなハードルを上げるなよと思うが、今はそれところじゃない。


 今、高橋さんとカラオケに居ること自体が問題だ。もし、これで高橋さんと仲良くなってしまったら、奏と朱里が会わなければならないことになる。


 勿論それに対しても対策をこうじているが、そう簡単に行かないだろう。

 そんな難しい顔をしていると、


「奏、何難しい顔してんだろ。入れないのなら俺が勝手に入れるぞ」


 修平が持っているカラオケマシン、その画面に映されてたのは女児向けアニメのオープニングだった。


 ちなみに俺は結構見てるので、余裕で歌える。だが、


「それはやめろ」


 高橋さんがいる前でこんなの歌ったら、朱里=奏という事がばれる可能性が高くなる。


「せめてこれにしろ」


 と、男児向けアニメの曲を入れる。


「え、それ歌ってくれるのか?」

「ああ、さっきのよりはましだ」


 そして、歌い始める。男児向けアニメの曲と言うだけあって、簡単な曲だ。音程合わせるのが簡単で、テクニック面に重きを置くことが出来る。つまり高得点を得ることが出来る。


「どうだ」


 そして、画面に映る九八点という点数を見せる。


「すごいすごい!!!」高橋さんがハイテンションだ。「これ、朱里ちゃんに聴かせたらびっくりするだろうなあ」


「朱里ちゃんって、高橋さんの友達で、修平が好きな人だっけ」

「うん。そう、朱里ちゃん、カラオケ嫌いだからなあ」


 そう残念がる高橋さん。すまん、今ここにいるんだ。


 そして高橋さんがマイクをつかむ。朱里としても奏としても高橋さんの歌は聞いたことがない。楽しみだ。


 高橋さんが歌い出す。うん、そこまでは上手くはない。だけど、楽しんでいる感じがする。いいな、こういうの。

 修平としかカラオケに言ってなかったから、一人増えるだけで、こんな楽しいのか。そしてみんなで歌って、二時間があっという間に過ぎた。


 そして家に帰った後、理恵子から電話がかかってきた。


(ねえ、今日例の男子達とカラオケ行ったんだけど、すっごく楽しかった)

「え? カラオケ行ったの? どういうこと?」

(昨日、朱里ちゃんと笹原君一緒にデートしてたでしょ? その話で意気投合しちゃって)

「そうなんだ……」

(ねえ、今度の土日のどっちか奏君に会ってみない?)


 やはり来た。予想した通りだ。ここで白状してもいい。だが、だますなら最後までだまし通したい。


「分かった。会おう」


 そう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る