第5話 お泊り

 そして翌日も、修平に「今日も予定あるから先に帰るわ」と伝えた。


 すると何かを感づいたのか、修平は「最近いつも一人で帰ってるよな、まさか友達でもできたのか? 俺以外に」と言った。


 正直、図星だから困る。しかもこの話が長引けば、高橋さんに何かを感づかれてしまう。高橋さんには、一クラスメイトとしていたいものだ。


「別に何でもいいだろ。少なくともお前の考えてることはハズレだ」

「ええ!? てことは隠したい理由なのか?」

「別に何でもいいだろ」


 少し強引な気がするけど、こう言うしかない。


「それに、行きは一緒に行ってるしいいだろ」

「俺はお前と一緒に帰りたいんだよ」

「それは悪かった」


 そして昼休みに一つのメールが来た。(今日制服で会わない?)というメールだ。普通ならこれは非常に困るメールだ。何しろ俺の制服は男子制服、しかも高橋さんのと同じ制服だ。

 だが、俺はそのこともちゃんと考えている(考えてないけど)。俺は別の高校の制服を持っているのだ。コスプレ的な観念で。

 男子高校生なら一度は思ったことがあるだろう、女子の制服も来てみたいと。

 しかも俺はこういう趣味だから、その憧れはさらに大きい。そこで、衝動買いして、制服を着たまま外に出たことがある。


 だからその点は大丈夫と、(うん、分かった)と送った。




「よし!」


 理恵子の家の前に来て、インターフォンを押す。


 すると、制服を着た理恵子が来た。


「あ、朱里ちゃんいらっしゃい。わー制服だ」

「うん、制服よ」

「なんか新鮮だね」

「そうね。私も理恵子の制服初めて見るから、新鮮だわ」

「そう? 私は毎日着てるから、そんな新線とかはないわ」


 嘘。たまにしか着ない。


「そうなんだ」

「というか、理恵子も制服似合ってるわよ」


 まあ、実は毎日飽きるほど見てるんだがな。


「うれしい」


 そう理恵子は笑顔を見せる。



 そして俺は招かれるように部屋に入っていく。


 その部屋は昨日とは変わらないものだったが、一つだけ違いがある。一つだけぬいぐるみが増えているのだ。


「これは?」

「これは、さっきユーフォ―キャッチャーで取ってきたの」

「へー。理恵子はユーフォ―キャッチャー上手いの?」

「いや、そんなに。だって三〇〇〇円溶かしたし」


 へーかなり溶かしてるなあ。


「もしかして、朱里ちゃんはもっとうまいの?」

「私……? たぶんうまいと思うわ。理恵子よりは」

「その言い方ムカつくね」

「うふふ、でも事実だから」


 そんな世間話をして、そしてご飯を食べ、試練の時が来た。もちろん、お風呂のことだ。


「じゃあ、朱里ちゃん、一緒に入っちゃう?」


 この言葉に対してどう返すかを考えている。


「ごめん、私、裸を見られるのが嫌なの。それが理恵子相手でもね。だから一緒に入るのは勘弁して」


 こういう事だ。これしか言い訳がつかない。


「そっか……私楽しみにしてたのに。でも、水着とかは?」


 なるほど、その考えがあったか、


「私、スク水くらいしか無理」

「スク水あるよ」

「え?」


 まずい、いくらVとはいえ、体のラインは出る。その場合胸がないことがばれてしまう。

 でも待て、


「私と理恵子じゃあ、サイズが違うくない?」


 俺の身長は百六十五、男子としては別に高くはない。だが、女子に置き換えると、かなりの長身になる。つまり理恵子のスク水は着ることが出来ない。


「そっか……一緒に入りたかったな」


 理恵子はしょんぼりする。正直言って可愛いし、罪悪感がわいてくるが、それに屈するわけには行かない。

 残念だったな。


「まあ、寝るときには一緒だから」

「うん!」


 そして、お風呂には俺が先に入る。

 出来るだけウィッグが濡れないようにしたいのだが、髪の毛が長いものにしているため、どうしてもお風呂に使ってしまう。

 仕方ないので、あとでタオルでしっかりと拭こうと思いながら入る。

 しかし、ウィッグを付けたままお風呂に入るなんて初めてだから新鮮な感じがする。


 作り物の紙で、あくまでも俺の髪の毛ではないため、あまり感覚がないのが残念だ。

 強いて言うなら、髪の毛が若干重くなった程度である。


 そして、お風呂に使っていると、


「ねえ、朱里ちゃん」


 と、お風呂の外から声がした。


「やっぱり入ったらだめ?」


 そう訊かれる。


「ごめんなさい。どうしても無理で……」


 俺だって出来れば一緒に入りたいところなんだが、それは無理なのだ。諦めてもらうしかない。


「この埋め合わせはするから。お願い……諦めて」


 そう言うと、「分かった。無理言ってごめんね」という声が聞こえ、理恵子は去って行った。悪いことをした。むしろお泊りの醍醐味と言えばお風呂と就寝だと思ってるのに。


 そして上がった後、理恵子が交代でお風呂に入った。



 何とか、難問一つ目はクリアしたなと胸をなでおろす。

 しかし、理恵子が帰ってくるまで暇だな、と思い少し下の部屋、リビングへと向かう。

 そこには武美が一人でアニメを見ていた。これは有名な週刊雑誌の漫画だ。


「あ、朱里ちゃん」

「武美ちゃんそれ見てるの?」

「うん。好きな漫画のアニメ化だから。朱里ちゃんも知ってるの?」

「ちょっとだけね」


 そもそも俺、漫画はあまり読まないし。


「……このキャラね」


 そう言って武美は一人のキャラを指さす。そのキャラは黒髪のイケメンと言えるような美貌を持つ男キャラだった。


「私の推しなの」

「……推し?」

「うん。好きなんだ。その仕草も声もすべてが」

「……そうなんだ」


 正直、そう言う感情は俺には感じたことのない感情だ。それに近いのは、美人を見た時だが、それと押しの感情とは違う気がする。


 そして、しばらく見る。だが、俺はあくまでも女装しているだけの男だ。武美とは同じ感情にはならない。


 そんな時、理恵子の声が聞こえる。


「朱里ちゃーん!!」


 俺を呼ぶ声だ。向かうと、「裸が見られるのが嫌なんでしょ? だったら今だったらいいでしょ? もうパジャマ着てるし。だから、お風呂で一緒にお話し出来ない?」


 なるほど、それも、まっとうだ。確かに、俺は裸を見られ(性別ばれ)なければ一緒にお風呂に入るのは何も問題がない。


「じゃあ、一緒に入っていいかしら」

「もちろん」


 そして俺は服を着たまま、お風呂の中に入る。とはいえ、あくまで服を着ているので、イスに座るだけだが。

 そして、お風呂に入っていた理恵子が「いらっしゃい」と、立ち上がり俺を出向いた。

 その際に理恵子の胸が見える。とはいえ、別に何とも思わない。俺はもうそんな感覚からは解脱しているのだ。

 そしてお風呂の中でも色々と話をするが、その中で、一番話題に上がったのは、俺が裸が苦手な理由だ。別に何を理由にしてもいいのだが、昨日考えていた理由を話す。


「私は、トラウマとか何か特に理由があるわけじゃないの。ただ、親にも見せたくないくらい私の場合はひどくて。だから本当にごめんね」

「ごめんねって、朱里が悪いわけじゃないじゃん」

「そうだね。ありがとう!」


 まあ、俺が悪いんだけどな。全部嘘だし。


「そう言えば……人の胸は大丈夫なんだ」

「ええ。それは全然大丈夫なの」

「そうなんだ……」


 まあ、胸を見ても無感情で入れる男子というのも珍しいものだと、自分なりに思うけど。


 そして、その後も少しだけ会話をした後、外に出た。


 理恵子の着替えている姿を無感情で見た後、寝床へと向かった。寝どころには布団が二つセットでしかれている。


「二人で寝るでいい?」


 その理恵子の提案に肯定で答える。そしてその後、並んで寝る。隣に理恵子がいるというのは、不思議な感覚だ。自分の家じゃないのだから当然なのだが、異空間に来たような感覚がある。

 俺はいつも寝るときは一人だ。だから、こういう感覚に慣れてないからかもしれない。


「ねえ、朱里ちゃん。楽しいね」

「そうね。いつもと違う感覚だわ。いつも一人で寝ているからかしら」

「来©つとそうだね。私も、いつも一人だし、来てくれてうれしい」


 ああ無邪気だ。かわいい。


「ねえ、抱きしめてもいいかしら」


 思わずそう言う。卑しい気持ちとか無しに抱きしめたくなったのだ。


「いいよ」

「ありがとう」


 そしてぎゅっと抱きしめた。


「あはは、朱里ちゃんの抱っこ気持ちいい」

「じゃあ、思う存分抱きしめちゃうわね」

「うん!」


 そして、理恵子も俺を抱きしめた。そして、しばらくたった後、俺たちは互いに手を離した。そして、今度は手を繫ぎ合った。


「これで、寝てる間も一緒だね」

「そうね」

「ねえ、好きな人とかいるの?」

「え?」


 急な恋バナ!?


「だって、こういう時って恋バナじゃん」

「……そうだけど」

「じゃあ、好きな人とかいるの?」

「私はいないわよ。というかそんなこと考えたことなかった」


 実際にそんなことは考えたこともない。女子男子どちらも恋愛的な意味で好きになったことはない。


「それを言う理恵子はどうなの?」

「……もちろんない」

「へー、いつも悪口を言ってるあの男子とかはどうなの?」

「ありえないでしょ!!」


 まあやはり俺は恋愛対象には入っていないらしい。まあ、俺としてはどっちでもいいけど。


「困ったわね。私、男子なんて紹介できないわ」

「私も」

「ふふふ、私達、一緒ね」

「そうだね」


 そして、色々と会話をしていたらいつの間にか寝てしまった。

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