第4話 理恵子の家
翌日の放課後、俺は理恵子の家の前にいる。昨日カラオケで会ってしまったから少しだけ恥ずかしいところなのだが、そんなことは理恵子が知るはずもない。
そもそもまだ理恵子に嫌われている最中だという事も。
「いらっしゃい、貴方が朱里ちゃんね。来てくれてうれしいわ」
そう、理恵子のお母さんに出迎えられる。印象としてはショートカットなのが違うところだが、理恵子に似て、美人というイメージだった。しわの感じからして四〇代後半の感じだが、見た目はそれ以上に若い感じがする。
「どうも。初めまして」
「娘の友達が来るなんて夢だったからねえ。おもてなししなきゃ」
「ちょっとお母さん!!」
理恵子が分かりやすく戸惑う。
「もう、朱里ちゃんは気にしなくていいから」
「え、ええ」
そして促されるまま、理恵子の部屋に行く。
……ここが理恵子の部屋か。結構女子っぽい部屋だ。全面ピングでデコレーションされてもいる。さらにはかわいいお人形もたくさんあり、これだけで家主の性格が分かるような家だ。
そんなふうな興味深い目で見ていると。
「なんか恥ずかしい」
と、理恵子ぼそっと呟いた。
そして一通り見終わった後、ソファーに座った。そして咳払いして早速、理恵子が口にしたことと言えば、
「結局クラスの奏っていうやつがマジで許せないの」
俺の愚痴だった。
まあ分かっていた。学校の様子とかからも今日この愚痴が始まるという事は。
「まあ、理恵子の怒りはメールで十分伝わったよ」
「でしょ? ムカつくよね」
そしてしばらく俺に対する愚痴を聞いた後、二人で着せ替えゲームをする。このゲームではファッションセンスが問われるのだ。俺自体ファッションの腕は日々鍛えてはいるが、ゲームではどうなるだろうか。
そのゲームでは、可愛らしい女の子が出てくる。そしてその子に合いそうな服を選び、その服とキャラとの相性で評価が決まる。だが、追加ルールがあり、服の総合金額が安い方もまたボーナス点が与えられるのだ。つまりいかに安い金額でより良く着飾るのかというゲームだ。安さを取るか、おしゃれを取るか、そこが難しい・
そして、一応このゲームはオンライン対戦もある。だが、他のゲーム、例えばキングカートなどに比べたらたいして人気じゃない。まあ、理由は明白だろう。何しろ男子はまず俺以外このゲームをやらないのだから。
そして俺たちは挑戦するのは、このゲームで最難関と言われる依頼だ。ここの難易度は鬼レベルとも言われ、某インフルエンサーが三連続でクリアが出来なかった場所でもある。
「え、これどれがいいの?」
早速最初に来た一〇着を見て、理恵子がそうぼやく。早速困っている様子だった。
「朱里ちゃん、助けて」
早速助けを呼ばれてしまった。これは、難しいが、下の服が黒色という時点で黒の服はだめだ。そして、この服は……
そして、選び終える。理恵子に開設しながら。
……もしこれで失敗していたら立つ瀬がないな。
そして最初の依頼は俺たちのクリアとなった。理恵子もその結果にご満悦なようで、「流石、おしゃれ大臣朱里ちゃん!!」と、無邪気に言っている。
まあ、これくらいなら、別に難易度は高くない。半分程度は少なくとも絶対ダメな選択肢だし。
だが、だんだんと依頼をこなすことに難易度が上がっていく。もう最後の方には好みの問題じゃねえか? と思ってしまう。だが、ゲームを作ってる人の思考を考えると、どうしても大人よりになりそうだ。ということで女よりの服を選ぶ。
……敗北した。
そうか、このゲームは女子中学生向け、女子中学生の志向にあったものになってるのか。
「朱里ちゃんでもミスることあるんだ」
「うるさいわね、もはやこれは運じゃない? 私は負けたんじゃない」
言い訳ということはわかっている。
「まあいいけど。じゃあ次私ができるところまでやっていく」
そして理恵子もやる。この依頼は難しいと思ったのだろうか、少し難易度を落とした依頼をする。しかし、三回目くらいでもうアウトだった。
「やっぱりまだ理恵子にはファッションは無理ね」
「っうるさい!」
そう言ってもう一プレイをする理恵子を俺は温かい目で見守る。
そして理恵子が飽きたのか、嫌になったのか、ゲームをやめたあと、理恵子が動画を見せてくる。その動画は、猫の動画だ。
「……かわいい」
「でしょ。私これを朱里ちゃんに見せたくて、あ、ほかにもあるよ」
「え? 見たい」
「やtぅた、じゃあ、おすすめのやつ流していくね」
そしてしばらく理恵子と並んで見ていると、
「そういえば朱里ちゃんって今日夜ご飯食べる?」
そう、唐突に言われた。
「夜ご飯ね……考えてなかったわ」
夜ご飯食べることで、もしかしたらばれるリスクもある。何より、理恵子のお母さんと一緒に食べるという事で、込み入った話もされるかもしれない。その場合、俺は男という事を隠して会話しないといけないという、きつい状況に追いやられてしまう。
「ちょっと悪くない?」
「悪くないよ。お母さんも私の初めての友達という事で興味を持ってるだろうし。お母さん一応六人分作ってるらしいから」
「……六人分?」
俺含めても二人多くないか?
「私のお兄ちゃんと妹よ。私中間子なの」
「それは初耳ね」
「言ってなかったから」
「まあでも……六人分作っちゃってるなら、せっかくだしお言葉に甘えようかしら」
そして動画を見終わった後、リビングへと向かった。もちろんご飯を食べるためだ。そこにはハンバーグが置いてあり、美味しそうな見た目をしている。
きっと中身もおいしいのだろう。
そしてテーブルの上には初対面の人が二人いた。
「こんにちは。初めまして、武村朱里と言います」
そう軽く挨拶をする。
「こんにちは私は理恵子の妹の武美だよ」
「俺は兄の周作だ」
「私は母の明子よ」
そう、三人とも挨拶をする。どうやら今日は父親はいないようだ。
「てか、お姉ちゃんが友達連れてくるとは驚きだよ。お姉ちゃんって、友達作る気がないんだと思ってた」
「思ってたって、私だって、作ろうと思ったら作れるんだから」
「へえ、先に話しかけたのはどっちなんだ?」
「私よ」
「朱里ちゃん、それは本当なの?」
「本当よ。初対面の私に話しかけてきたの」
「お姉ちゃんやるう!」
そう言って武美は手をグットの形にして、見せてきた。
「私をなめないでよね」
と、理恵子は言っているが、その顔は明らかに嬉しそうだった。ツンデレか。
「さあ、冷めちゃうわよ」
その会話を止めるように、理恵子のお母さん、明子さんが言った。
そして俺たちは「いただきまーす」と全員で言って、食べ始める。
「お母さんのご飯おいしいから」
「それは楽しみね」
と、ハンバーグを口にくわえる。うん! 美味しい。肉汁があふれて、ご飯が進む。
「良かったわ」
それを聞いて、明子さんもご満悦だ。
そしてしばらくご飯を楽しんでいると、
「ただいまー!」
父親が帰ってきたようだ。
「ん、 君が噂の朱里ちゃんか。いらっしゃい」
「お邪魔してます」
頭を軽く下げる。
「かわいいじゃないか」
「お父さん、セクハラじゃない?」
「うん。セクハラだと思う」
別に俺は男だから何も嫌な気にはならないが、理恵子に乗っかろう。
「それはすまんかった」
「パパってそう言うところあるよね」
「うっ、もうこれ以上言わないでくれ」
まいっている様子だ。しかし、中々仲のよさそうな雰囲気の家だ。
だが、不安は消えないな。質問攻めにあった時に偽エピソードをそうやすやすとは用意できないぞ。まるで犯罪者のような心境だ。
そしてご飯が終わった後、
「ねえ、」
やはり武美が話しかけてきた。おそらく俺の詳細情報を聞くためとか、理恵子のことを聞くためとかだろう。
「朱里ちゃんはお姉ちゃんのことどう思ってるの?」
「私はね、理恵子のことを感情が豊かだと思ってるわ。もちろんいい意味でね。笑ったり怒ったり悲しだりしてて人生満喫してると思う。まだ出会って4日しか経ってないけど、今は、理恵子が話しかけてくれてよかったと思ってる」
「なるほどー、良かったねお姉ちゃん」
「うん」
そう言って理恵子は笑う。
「今度は俺が質問していいか?」
そう、兄の周作さんが言った。
「今度は朱里さん自身の話を聞きたい。あの理恵子の初めての友達だからな」
「初めてって言わないでよ!」
「事実だろ」
「むう」
「どんな話がいいですか?」
内容によっては死ぬ。何か楽な話にしてくれ。
「朱里さんはの趣味と書かな」
「趣味ですか。私の趣味は、そうですね……まず最初に言えることはファッションだと思ってるわ。幼少のころから自分のファッションセンスを鍛えたりとか、よさそうな服を買ったりしていたのだから」
事実、俺の女装趣味は四年生のころから始まった。その頃からかわいい服とかに興味を持ち始めていた俺は、親には内緒で可愛い服を買い集めて自分磨きをしていた。その女姿の自分を。
そのため家には小学四年生から高一までの服がたくさんある。男子の服よりもはるかに。
「逆に言えばそれ以外の趣味はあまりありません」
強いて言うなら歌う事だが、それは今の俺にとって禁止ワードだ。何しろ、カラオケを断っている訳なんだから。
「そうか。暇な時間とかは? ファッションって言ったって、そこまで時間はつぶせないだろ」
「暇な時間ですか……私は、勉強とかくらいですね」
本当にゲームか勉強家くらいしか家出はしていない。
「あとは、外に出かけて読書とかでしょうか」
そこまで読むわけではないから、スマホをいじることの方が多いけど。
「朱里ちゃん、この前もカフェの時本持ってきてたもんね」
「うん。まあ、ほとんど読まなかったけどね」
「私が話しかけたから?」
「部分的に正解。理恵子と話すのが本を読むより楽しかったから」
「うれしい。そう言ってもらって。私……いや、何でもない」
やっぱり理恵子は若干だが、自己肯定感が低い。友達がいなかったからなのだろうか、私は本心で楽しいのに。
「理恵子、心配しなくても私は理恵子のそばにいるわ。だからそう心配しなくても大丈夫」
「……やっぱり見抜かれてたんだ」
「当たり前よ。だって私は理恵子の親友だもの」
「うん」
そう言った理恵子は俺に抱き着いた。
「え?」
「ありがとう」
そして、俺は動揺しながら、理恵子の家族たちの顔をきょろきょろと見た。もちろん誰も助けるとかはないのだが。どれどころかほほえましそうに見てる。やれやれ、今は胸を貸すか。その思いで、こちらからも理恵子の背中に手を回す。
そして波乱まみれの食事会が終わった後すぐに理恵子の部屋に戻った。するとすぐに、
「朱里ちゃん、今日泊まって行かない?」
と言われた。それに関しては絶対にNOと言わざるを得ない。理由は単純明快、一緒にお風呂、一緒に着替えなどなど様々な難関がある。一緒にお風呂に入るなんてしたら、胸がない事がすぐにばれてしまう。流石に男子の貧乳どころの話じゃない胸を見られてしまったら言い訳することが出来ない。
そして最後に決定的な理由がある。それは、明日も学校があること。もちろん、俺の学校と、理恵子は同じだ。そのため同じ道で向かう事になる。その時点で身バレは確実だ。
……いや、待て。そもそも制服があるの家じゃねえか。この時点で物理的に無理だった。
「ごめん制服家にあるから」
「じゃあ、明日は?」
やけに喰いついてくる。……どうしよう。確かに明日は金曜日、学校云々の話は大丈夫だ。しかし、先ほどの二つの問題は何も解消されていない。
だが、まずい、さっき制服の件で断った今、断るのはかなり無理がある。
やらかしたな。
「うん、分かった」
「やった―、明日はよろしくね」
「うん。私も楽しみだわ」
ちくしょう、楽しみよりも恐怖の方が勝ってるよ。どうか明日はばれませんように。
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