第3話 嫌われ
そして今日も高橋さんの様子が変だ。
昨日のカフェがよほど楽しかったのだろうか。
まさかここまでハイテンションになるとはな。
なんか見ているだけで楽しくなってきてしまう。
「なあ、お前……やっぱり高橋さんのこと気になってるだろ」
「いや、そんなことはない、絶対」
「否定してるところが怪しいんだよな」
そう、修平はため息をつく。マジでやばいなこれ。女装ばれじゃなくて、俺から漏れる可能性があるな。
むう、何とかごまかさなくてはな。
「てか、あの様子だったらそりゃあ気になるだろ。どう考えても前と全然違うじゃねえか」
「そうだな」
「って、え?」
目の前に高橋さんが立っている。
「私のこと……馬鹿にしないで……ください……私と……朱里ちゃんとの関係に……口を挟まないで」
「はい」
俺がその朱里ちゃんなんだがな。てか、人見知りなくせに俺にはしっかりと口を出してくるのかよ。わかんねえなこれ。
そして、俺はビビった感じを出し、「すみませんでした」と付け足した。
くそ、朱里と理恵子は友達なのになあ。
「てか、お前のせいだぞ。お前が話を出すから」
「そんなことを言ったら奏だって、めっちゃ見てたじゃん」
「嫌々ほっといてくれ」
「なんだよ、ツッコむはあれは」
「てかさ、朱里ってだれ? このクラスにはいないよな」
俺が言う。これで俺が朱里だとばれないようにする作戦だ。
「確かにな。学外の友達か?」
「確かにな。しかし、いつも一人でいる高橋さんがこんな上機嫌ってことはよっぽとだよな。もしかして……っ……」
そこまで行ったところで、視線を感じた。やっぱり朱里のことを口に出すのはまずかったのだろうか。はいすんませんでした。奏の分際ですみません。
そして高橋さんはメールを打ち始める。……これは確実に朱里に向けてだな。
これは返事しなきゃ……だが、そのメール画面を修平に見せるわけにもいかない。トーク相手には高橋理恵子という名前が出ているのだ。それを見られたら不審がられるのも当たり前だ。
何とか隙を突かなければ、あれ? 朱里ちゃん、山崎君がいないときにばかり返信してるぞみたいなことになりかねん。意外と難しいものだ。
だが、正体を明かしたら今までの関係はなくなってしまうだろう。
それほど難しい問題なのだ、これは。
そして修平に、「ちょっとメールしたいからだまってて」とかいうのにもデメリットがある。そう言ったことが高橋さんにわかってしまったらそれこそメールを送れない状態になる。
これrマジで詰んでないか? そんな俺の状況も知らずに淡々と朱里にメールを送っている高橋さんのことが軽く恨めしく思ってしまう。
お前の好きな朱里ちゃんは今お前のせいで苦しんでいるのだぞと。
まあそれは冗談として、どうするか。
だが、考えても仕方がない。そして俺は修平と話しながらスマホを触ることにした。まるで、何かを検索してるふうな感じで。修平に「感じ悪いなあ」と言われたが、「まあ、いいだろ」といった。そしてその裏で必死に答えを考える。そのメールの内容は、(私、今奏とかいう男に馬鹿にされた。許せなくない?)と書いてあった。そのメールのやり取りをしてる相手が奏なことも知らずに。ただ、朱里として(え? 確かにそれは許せないね)と返す。
「お前何をしてるんだ?」
「いいだろ何をしてても」
「何なんだよ!」
そしてスマホをつかまれる。だが、あいにくこれは俺のスマホ、朱里のスマホではない。朱里のスマホでメールを返したらばれるという事で、朱里のデータをこちらにも入れているという訳だ。そして見られた瞬間すぐにグーグルに切り替える。
その中で、検索ワードとして「キングカート、最強カスタム」という検索ワードを設定してある。これでゲームについて調べてるふうにできるという事だ。
「お前何調べてんだよ」
「すまんな」
そう言って謝る。
「でも今調べなきゃならないことなんだ」
「何だよそれ」
そしてそんな会話をしている間に返信ワードを決め切った。
(それは最低だね)
と、送る。まあ、簡単に言えば、自分に対する否定ワードとなる。
(本当、男子ってなんであんな奴らばっかりなんだろう。いまもくだらないことで盛り上がってるし)
(本当にね。私たちにはわからないわ)
なぜ俺は必死になって自分を批判しているんだ……。
「そういや、修平……お前、キングカート上手かったよな」
「おう、そうだけど」
「今度一緒に対戦しようぜ」
「おう、それはいいけど、今日はカラオケ行くっていう事を忘れんなよ」
「分かってるよ」
(わかってくれるのは朱里だけだよ)
そんな返信が来ていた。まあ、ごめん。朱里が俺で。
そして放課後、俺たちはカラオケに来た。
今日は修平が行きたいと言ったことで行くことになったのだ。
理恵子と一緒に遊べない訳とはこれなのだ。
しかしカラオケに行けないとか言っといて、カラオケに行くのは少しだけ申し訳ないな。
「じゃあ、歌うぞ」
と、修平が曲を入れる。修平はまあまあの実力で、八四点程度が平均である。そんな歌を聴きながら手拍子をする。
そんな時、高橋さんから動画が送られてきた。それを見た時正直吹き出しそうになった。
それは、カラオケの動画だったのだ。高橋さんもカラオケに行っているという事だ。
しかも学校の近くのカラオケ店といえばここしかない。
つまりここに高橋さんがいるっていう事か。
そう言えば昨日カラオケ行きたいなとか言ってたな。俺がそれを断ったから今カラオケに居るっていう事か。
まあ、でも今の俺はあくまでも奏ではなく朱里だ。会っても問題はないだろう。。気まずい事には気まずいが。
そして修平の歌に気を向き直し、聴く。
「じゃあ、今度は奏な」
「ああ」
「お前の歌楽しみにしてるぜ!!」
そしてうたいだす。すると修平がおおーなどと言って聴き入るように聞く。どんだけ俺の歌が好きなんだ。
そして歌い終わった後、点数が出た。92.582。最初にしてはいい方だろう。
「やっぱり歌うまいな。奏」
「まあ、お前よりは上手いな」
「なんだと!」
「じゃあ、ドリンク取ってくる」
「俺のも頼んでいいか?」
「もちろん!」
そして俺は部屋を出る。そして、ドリンクコーナーに行くと、
「あ」
「あ」
高橋さんと会った。まさか鉢合わせるとは。
「高橋さんもカラオケなの?」
そう訊く、しかしその返事は返ってこない。それどころか、俺を置いて出て行ってしまった。
昼のことで怒らせてしまったのだろうか。
「はあ」
ため息をつく。だが、よく考えたら奏と朱里は別人なんだから、奏は高橋さんとは不仲でもいいよなと部屋に帰る。
「おう、お帰り。遅かったな」
「まあな、ちょっと思わぬ人に出会ってな」
「誰?」
「高橋さん……だ……」
「ぶは、なんていう人と鉢合わせたんだよ。それで会話とかしたのか?」
「……やけに興味津々だな。まあ、会話はしたよ。全無視されたけどな」
「ぶは、マジか」
「ああ、マジ。大マジ。マジで俺のこと嫌ってそうだった。てかお前も嫌われてんじゃね?」
実際嫌ってたし。
「そうだな。俺も嫌われてるかもなあ」
そして次の修平の歌が始まったと同時にスマホを軽く触る。すると、(ねえ、今日カラオケの途中に、嫌いな男子にあったんだけど。最悪)とメールが来ていた。……嫌いな男子かあ。わかってはいるけど、地味に傷つくな。
「おい、スマホばかり見てないで、こっちにも集中しろよ」
「ああ、分かってる」
そして返信しないまま修平の歌を聴く。元々用事があると言っていたから別に構わないだろう。
そして飲み物が無くなったから、お替りを取りに行く。すると、また高橋さんだ。高橋さんは俺を見るとすぐに、ふん! とも言いたげに視線を別のところに持って行った。
あの会話だけでこんなに嫌われるとかマジでわからん。結局タイミングを見計らって(それは最低だね。私が殴り込みに行こうか?笑)と返信したが、俺には正直分からん。
あんなにハイテンションになった高橋さんをガン見してたのが悪かったのか。
「なあ、少しいいか?」
「……何ですか? あなたと話すことは……ないと思いますけど……」
「昼は本当にすまなかった。見過ぎてしまったようだ。それと君の友達を詮索するような事をしてごめん」
「謝ればいいって問題じゃないと思う。それに、私にとってはかなり嫌だったの。……もうしないでね。じゃあ」
そう言って高橋さんは帰って行った。これは時間がかかるなあ。
そして高橋さんから(私、頑張って嫌なとこあのくそ男子に伝えられた。褒めて!)と来ていたので(偉いね)と返した。
てか俺まだくそ男子なの!?
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