系統1‐2 …運転手の口元が、笑っている。
再度、運転手に声をかけて
全体的に細い印象だが、妙に落ち着いた雰囲気がある。お兄さん、といった
帽子から耳横に少しだけ出ている薄い茶色の髪は、さらさらとしていて、眼鏡の奥の瞳はとても優しそうだ。何だか少し、格好いい…
「お客様…」
目線をこちらに向ける事は無く、真っ直ぐに前を向きながらも、運転手は喋った。
よかった。この人は話の通じる、普通の運転手だ。
「気付いてしまいましたか。」
…そう
「このバス、
「え…?」
「お客様がご乗車された時、
しかし、この会話が…
「どういう事…ですか? これって、どこ行きです…? 降りたいんです…けど…」
私は混乱する。
―これは何? 何が起きているの? この運転手は…一体…
「お客様、最近の事件や事故…ニュースはご覧になられていますか?」
運転手は、私の問いになど答えない。親しく世間話をするように、全く別の話題を喋りだした。
「…連続バス爆破事件。頻発していますよね。これまでの常識では有り得ないと思っていた事件が、当たり前のように起きている。とんでもない時代です。」
連続バス爆破事件。
「しかし、すいぶん昔…1970年代は年間500件以上の爆発テロが起きて、テロが当たり前だった時代があったそうです。この日本でですよ? 信じられない事実です。」
―この運転手は、何の話をしているの? なぜ今、そんな話をしているの?
「これまでの常識では有り得なかった事件も、連続的に起き続けると感覚が
運転手は車内アナウンスのように、
「傷ましい
そこまで話すと運転手は
そして…ぐにゃりと足元から
それはもう、考えるまでもなかった。今まで全く関係の無かったあの凶悪事件の舞台に、ずりずりと引き
自分の置かれたこの状況は、これまでに起きたバス爆破事件の犯行手口に…ぴたりと
だから、この運転手は…連続バス爆破事件の犯人…
―………爆破魔だ。
運転手は、これで自分の自己紹介は終えたというように、そこまで語ると口を閉ざした。
私の反応を、待っている。
…私は恐怖で、何を言えばいいのか分からない。それでも何か言葉をを振り絞らないと、次のアクションが始まらないような、永遠に近い沈黙が続く…
「あ…あなたが……?」
―本物のバス爆破魔ですか? もしくは バス爆破魔ご本人ですか?
…なんて続けようとしたが、恐怖で
「ああ、ご
しかしこの運転手には、それだけの言葉で充分だったようだ。
知名度に感謝するこの返答で、冗談ではなく本当に…自身がバス爆破魔である事を、認めた。
「それでは始めましょう、運の悪いお客様。」
「……っ!?」
もうこの車内は、普通ではない。
当たり前ではない。
異常だ。
異常事態に、
窓の外は、もうどこを走っているのか分からない。
とっくに
次第に雪が降り始め、静かに強さを増していく。
もうここは、予定時刻よりも遅れて来た、車内が貸切状態の、
私と、得体の知れない人間…バス爆破魔なる男と2人きりの…死に近い、閉ざされた空間だった。
*
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