第4話 ――おいおい、殺す気かよ!!
――合同魔法。
この実習では三人一組になって協力し、一つの魔法を完成させる訓練を行う。
実技の授業では定番の訓練で、これまでにも何度も行ってきた。
僕はいつものように、初級の風魔法使いの二人と組む。
それぞれが一か所に魔力を集めると、合同で魔法を使う準備が整う。
この状態で誰か一人が代表して魔法スキルを発動させれば、初級しか使えない僕達
にも、中級魔法を行使できるようになる。
同系統の魔法使いが集まれば、より規模の大きな魔法を使える。
中級魔法使いが三人で協力すれば、上級の大規模魔法だって撃てるようになる。
手軽に戦力を向上出来るので、どの国の軍隊でも同系統の魔法使いを集めて部隊を編成する。
この授業ではまず、中級魔法使いが三人集まり、『初級』レベルの魔力を供給し合い『中級』魔法を撃つ訓練を行う。
この魔法学院の訓練場では、魔法の使用許可は中級までだ。
威力が大きすぎるので、大魔法の使用は禁止されている。
そこで合同魔法の訓練は、最終出力が中級になるように調整して行われる。
中級魔法使いの生徒たちの練習が終われば、次は僕たち初級使いの番になる。
僕は実習でいつも組む二人と一緒に、合同魔法を練習する。
三人の杖の先端を合わせて、魔力を集める。
今日は僕が三人を代表して、魔法スキルを発動させた。
「ウィンド!!」
僕たち三人分の魔力が合わさり具現化して、巨大な風の刃が発生する。
風の刃は猛スピードで的へと向かい、標的を切断した。
――凄い威力だ。
中級の魔法使いは、この威力の魔法を一人で放つことが出来るんだ……。
正直、羨ましい。
僕には僕の、目指している先がある。
目標を持って、勉強している。
だが、中級魔法のような高威力の魔法に憧れる気持ちもある。
僕にもこれが使えるようになればなぁ、と――
そんなふうに、思ってしまう。
中級魔法の威力はすさまじい。
一撃で十数人の兵士を、戦闘不能に追いやる威力がある。
この世界で魔石や魔法陣が補助としてしか利用されていない理由はここにある。
自動車を所有している人間が、長距離移動にわざわざ自転車を使うケースは多くない。――趣味で乗るくらいだろう。
魔石や魔法陣は便利な道具だし、この国でも研究はされている。
しかし、魔法を使う際の補助具でしかない。
ない物ねだりなのはわかっているが……。
実際に魔法を使ってみると、思わずにはいられない。
僕にも、これが使えたら――
……いや、初級とはいえ、生まれながらに魔力とスキルを授かり、魔法を使うことが出来るだけでも有難いことだ。
下位貴族でも、貴族は貴族――
僕は十分に、恵まれた生まれだ。
自分に与えられたものを、しっかり生かして頑張ろう。
今日の実技訓練のノルマを終えて、魔法を撃つ射撃位置から離れ、訓練場の隅へと移動する僕の前に、数人の生徒が立ち塞がる。
んっ?
なんだ……??
――嫌な予感がする。
「あー、君? 名前は何だっけ、たしか…ライル……ライル・クラウゼ君で合ってるかな。……キミに頼みがある。僕との訓練に付き合って欲しいんだ。模擬戦だ。良いだろ? 良いよな?? ライル君……」
僕にそう声をかけてきたのは、確か――
キュバレー公爵家の次男坊だ。
名前は『マルスク』。
マルスク・キュバレーは、このフリュードル王国の公爵家のお坊ちゃんだ。
上位貴族の権力者――
周りには取り巻きが数人いる。
対して僕は島国出身の、しがない子爵家の三男坊……。
彼からの申し出を、断れるわけがなかった。
僕とマルスクは訓練場の中央で、距離を取って対峙する。
一通り射撃訓練が終われば、後は自由時間となる。
いつもならこの時間は、生まれつき魔力量の多い生徒が自主練をするのだが、今日は中央で僕たちが模擬戦をするので、他の生徒は見学だ。
今日の授業を監督している教師の了承は、マルスクがちゃんと得ていた。
生徒同士で魔法を撃ち合う模擬戦は、たまに行われている。
学校も禁止している訳ではないし、立ち合いの教師の下で凌ぎを削るのは珍しいことでは無い。
だが、模擬戦をやるにしても、実力の近いものと行うのが普通だ。
マルスクは中級の使い手――
初級の僕では相手にならない。
なぜ彼は、僕に模擬戦を挑んだ……?
僕は彼と親しくしている訳でもない。
マルスクは魔石や魔法陣の授業は取っていないし、実技訓練でもこれまで接点が無かった……。
今日初めて喋ったのではないだろうか。
なんで、僕なんだ?
疑問に思いながらも、僕は模擬戦を行う為に杖を構える。
「始めぇっ!!!」
立ち合いの教師の掛け声で、僕たちの模擬戦は始まった。
「いくよ、ライル君……、ウォーター!!」
どうやらマルスクは、水魔法の使い手らしい。
マルスクの魔法が、僕に向かって飛んでくる。
プロ野球のピッチャーが、自分に向かって思い切り、ボールを投げてくるようなものだ。
怖い。
それにマルスクは中級魔法を使ってくる。
中級魔法は威力が大きい。
初級魔法しか使えない僕が、まともに撃ち合っても敵わない相手だ。
僕は相手が水魔法を撃つのを待ってから、迎撃のため風魔法を放った。
相手の魔法を引き付けて勢いが落ちてから、風魔法で水球の軌道を逸らす。
魔法はターゲットまでの距離が遠いほど、威力は減殺される。
それでもこの距離で中級魔法をまともに喰らえば、大けがは免れない。
下手をすれば死ぬこともある。
風魔法で相手の水魔法の軌道を、直撃コースからずらしていく。
マルスクの放つ水魔法を、僕は迎撃し続けた。
迎撃のタイミングが早すぎても遅すぎても、軌道を逸らすことは出来ない。
僕は細心の注意を払い、綱渡りのような――
曲芸に近い、迎撃を続けた。
どれだけ攻撃しても、軌道を逸らされて直撃しない。
自分の思い通りにいかないことに、マルクスはだんだん苛立ってきたようだ。
――なんだか、ムキになっいる。
顔が真っ赤だ。
演習場には沢山の生徒が残っていて、僕たちの模擬戦を見物している。
中級魔法使いが、初級魔法使い相手に手こずっている。
そんな様子を大勢の生徒に見られるのは、確かに恥ずかしいかもしれないな――
もう、終わらせよう。
それに僕の方も、魔力が底をつきそうだ。
「あの、もう魔力がほとんどありません!」
僕はこの訓練を監督している教師に、魔力切れを申告した。
これでこの戦いは、僕の負けで終わる。
だが、監督役の教師は僕の申請を無視する。
模擬戦を止めようとしない……。
…………?
「こちらも魔力が底を突きそうだよ。これが最後の一撃だ……これで終わりにしようじゃないか! ライル・クラウゼ!!」
いや、まて!!
こっちはもう、降参しただろ……。
マルスクは杖に魔力を込めて、巨大な水球を具現化する。
そして――
奴はそれを、こちらに向けて放った。
――おいおい、殺す気かよ!!
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