第1章―会社設立編 第11話 投資会社立ち上げ 【1999年3月】
水曜日の夕方には、司法書士でスーツをビシッときたちょいワル系な50代の方が家に来てくれた。
奥のおじいちゃんの部屋に案内し、父さんは仕事でまだ帰宅してない為、私とおじいちゃんが応対した。
「ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。この度はお話を頂きありがとうございます。会社設立に必要な書類をお持ちしました。」
ちょい悪な司法書士さんが事情を聞いていた感じで話し始めた。
「県庁時は、お世話になったね。今回は孫が会社を立ち上げたいって言うから、そのお手伝いをしてるんだよ。」
おじいちゃんが孫の俺を嬉しそうに見ながら、司法書士に話しかけた。
「会社を立ち上げるって聞きましたので書類をお持ちしましが、お孫さんが立ち上げるのですね。青年実業家ですか。何をメインに業務をされるのでしょうか。」
少し驚いた顔で、私の方を向いて話しかけてきた。
「今日は忙しい中、来て頂きありがとうございます。株式投資をメインにした会社を社会勉強がてら、大学入学までの空いた時間に立ち上げようと考え、今回立ち上げる事にしました。」
「そうですか。わかりました。勉強家ですね。すぐに書類の提出に取りかかります。最速で来週中に設立できると思いますので、進めていきましょう。」
「司法書士さんは、いつもどのような分野を専門にやられていますか。」
「私は、不動産登記をメインにしており、業務の多くは不動産会社から委託を受けて仕事をしています。」
「不動産が専門ですか。素人がてらの質問で申し訳ないですが、企業法務はいかがですか?」
「これは若いのに勉強していますね。企業法務もやってはいますが普段の業務では多くを行ってないので、アドバイス程度ならできますが、依頼頂くなら他の専門の方を紹介しますよ。」
なんでもできるという回答ではなくて、専門の方を紹介するって言い方は、共感できるなと感じた。
「これからも会社運営するうえで、いろいろと相談したいと思いますのでよろしくお願いいたします。」
「青年実業家様と仲良くできるなら喜んで相談に乗りますよ。」
笑いながら答えてくれて、立ち上がり、家を後にした。
株式市場の話だが、3月のため、年度末に向けて木曜日になった今週は決算発表する会社が多くある。基本株式市場の閉じた後に発表するものだが、市場が開いている最中に決算を発表する会社もある。取引時間中に決算発表すると急騰・急落がされやすく投資対象にされやすい。 “未来ネット”によって結果を知っているおれは、発表日当日の朝に発表後急騰する銘柄を買った。発表直前に急騰する銘柄を買った場合、後からインサイダーやらなんやらと探られたくない腹を税務署に調べられたくはないので最低でも数時間前に買っている。
市場中に急騰する銘柄は、1日株を寝かさなくていいのでとても重宝できる情報だ。このような銘柄を駆使しながら口座残高を増やしていった。大量に株を購入すると税務署に眼をつけられるので、急騰・急落前の購入は目立たない程度に購入をしておこう。
司法書士さんが来た次の土曜日。おじいちゃんの部屋にて、同じように会議を始めた。俺が会議進行者として話始める事にした。
前回の3人に加えて、おばあちゃんと母さんの5人が参加者となった。
「じゃー、会議始めるよ。おばあちゃんと母さんは、とりあえず聞いておいて。」
「はいよ。」「はいはい。」
それぞれが返事してくれた。
前回同様にではあるが、最新の口座残高を記載されている書類を回した。参加している家族みんなその書類に眼を通していた。
「今週の成績です。残高2,000万円です。わぁーぃ。チャンチャンバリバリ。」
俺は一人だけテンションをあげて、周りから浮いていた。
(あれ、チャンチャンバリバリはパチンコだっけ。父さんならわかってくれると思ったのに、みんな静かすぎ)
その時、家族みんなは俺の発言なんかより口座残高を見て唖然としていた。
「順調にお金を増やしていくことはできております。では続いて、会社設立の進捗から話しますね。ご存じの通り水曜日に、司法書士さんに話を聞いてもらって手続きをしてもらう依頼はしました。費用は自分の手持ちから出すから、次に配る資料は、会社設立費と手数料の見積もりです。」
司法書士から頂いた見積もりと会社設立にかかる費用をまとめた資料を、みんなに回した。
「この費用は、手元に持っているので週明けに振り込んでおきます。先方は申請に必要な書類の準備はできているとのことで振込が確認でき次第、申請を行うとのことです。設立は来週早々かな。」
壁際に貼ってあるカレンダーを見ながら話した。みんなも同様にカレンダーを眺めた。
「株式会社の形態で今後も運営をしていきますので、今後費用が発生するときは、このように見積書を頂きますので、会議にて公表していきます。まだできたばかりの会社なので、費用発生時は、そんな感じで進めます。」
「お前、税金は大丈夫か?株の場合、たしか稼ぎの20%を税金として支払ないといかんだろう。」
おじいちゃんは心配そうな表情で話してきた。
「いや、税金って取引の都度、自動的に差し引かれているはずですよ。」
父さんが首をかしげながらおじいちゃんに向けて話した。
「違うよ。2パターンあって、父さんが言っている毎度差し引かれる税の徴収でなくて、僕が選んで取引しているのは、年間纏めての後から払う税金の方だから、次の確定申告に纏めてお支払いするから今回は大丈夫だよ。」
俺は父さんの発言に続いて話しかけた。
「そうか。まかり間違ってもお前は、脱税はするなよ。元県庁職員としてお天道様に顔向けができなくなってしまうからな。」
おじいちゃんが、俺の方を向いて真剣な表情で話しかけてきた。
「おじいちゃん、そんなキャラだったっけ?」
「キャラってなんだ?」
「いや、こっちの事だよ。わかっているよ。だから今度は税理士の紹介をしてよ。もしよければ税理士の方と気が合うなら社外取締役か監査役として契約したいんだよね。今後末永くお付き合いしないといけないと思ってるから。後、弁護士も社外取締役で契約したい。まぁそこまで順調に行けるかはわからんけど、おじいちゃんどう?」
「税理士は、懇意にしている方がいるからその方に連絡しておくわ。来週にでも会えるようにしておくよ。弁護士に関してはあまり知らんな。」
そう、家はお店をしていたから、毎年確定申告を行っているため、税理士は知っていると思ってたんだよな。
「そっか。あっ、俺って大学法学部に行くから。大学の先生で資格持っている人を探してみるよ。会社に関しては、後は名刺の準備かな。明日にでも名刺を作って頂けるよう店に行ってくるね。父さん、法人用の証券会社の口座を作るけど、この間あった恰幅のいい梶谷さんの名刺ってある?今度会いに行くつもりだけど。」
「たしかに法人口座が必要だな。わかった。連絡しておくから私は平日仕事だから、一人で行って来いよ。」
「もちろん一人で行ってくるけど、口座開設に名古屋駅行くのもめんどいな。株式市場閉まってから出かけるから、夕方伺うって伝えておいてね。」
「分かった。そのように梶谷さんには伝えておくが、お前新しい会社の名前はどうするんだ?」
父さんは忘れないようにメモ帳に記載しながら聞いてきた。
「会社名は、えっと、どうしよう。あ、株式会社AtoB投資会社。特に深い意味はないけど今思いついたし、覚えやすいかなと思って」
「あまりセンスないな。」
「まぁ、そこは父さんの子だからね。仕方ない。」
家族みんなが苦笑いした。
「あとは順調に資金も増えているから、会社と関係ないけど、マンションを借りたいんだ。大学に向かうのにも通学時間を少しでも短くできるように駅前のマンションを借りたいんだ。もちろん週末には会議参加するために実家に戻ってくるからさ。」
この家は、駅まで自転車で30分ぐらいかかるから、駅前のマンションを借りれば、それだけで時間の節約となる。
父さんから、首をかしげながら聞いてきた。
「お前株取引ばかりしているが、本当に大学行くのか?」
俺は冷や汗をかきながら、
「もちろんさ。おれも大学は一応通うよ。お金払ってもらったし。会社で将来やっていけるような目途つくまでは、ちゃんと学校に通うつもりだよ。」
母さんも会話に割り込んできた。
「目途って何?」
「えっとそれはまぁ、今回はいいでしょ。おじいちゃんにはお願いがあるんだ。すぐじゃなくてもいいから、会社の住所が実家でとりあえず登録したけど、設立後なら、オフィスを借りられると思うんだ。名古屋駅前に拠点を置きたいけど、月80万ぐらいでオフィスを確保してほしいんだ。」
母さんの質問には答えにくいのでスルーをして、名古屋駅付近の地図を広げながらおじいちゃんに話しかけた。
「この事務所のビルでいいから、一回聞いてみてほしい。」
前の人生では、名古屋駅前に月100万円で1フロアに入っている支店がある会社の東京本社に就職したから、相場として間違ってないと思う。とりあえず地図を見せながら住所と管理事務所の電話番号を伝えておいた。
「わかった。オフィスを借りる仕事はおじいちゃんに任せなさい。」
株に集中したいので、株取引以外の事はおじいちゃんにどんどんお願いする事にした。おじいちゃんも孫の事なら喜んで引き受けてくれた。
大学は、会社の状況次第で退学を考えている。ただやり残していることもあるので、とりあえず学籍はそのままの状態にしておくつもりだ。
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