第1章―会社設立編 第10話 家族会議             【1999年3月】


 土曜日の夜におじいちゃんの部屋に、俺と父さんとおじいちゃんが3人で囲んで座った。おじいちゃんの部屋で囲んで座る事なんて、自分の記憶にないと思った。

おじいちゃんと真剣な会話なんてした記憶は、前世でももちろんない。俺が社会人になったころには亡くなっていたような気がするが、そのころの記憶があまりない。いい思い出もないので記憶として残してないのではと思う。


話がそれてしまったが、話を戻して


「で、集まったが話って何だい?」

おじいちゃんが改まって俺にやさしく問いかけてきた。おじいちゃんにとって俺は、社会人にもなってない鼻たれ小僧と思われているかもしれない。


「この用紙に記載してある口座残高は、今の証券会社の口座残高だからおじいちゃんもお父さんも見てよ。」

俺は事前準備した証券会社の口座残高を記載した印刷用紙を渡した。用紙を見せながら話すタイミングを待った。


お父さんとおじいちゃんがじっと残高500万円と記載の用紙を見て、父さんがちょっと怒り気味に話しかけてきた。

「お前どうやったらこんな残高になるんだ。お前少し前に口座を開設した時は20万円だったよな。何か悪さでもしたのか?」

「毎日株価とにらめっこして売買していたら、この残高になったんだよ。正当な取引だよ。株取引にバグを見つけたわけじゃないよ。」

「バグってなんだ?」


(バグってゲームの世界だけか。もしくはこの当時は言葉自体ないのか。どうやって切り抜けようか。)

俺は、ついつい心の中で突っ込みを入れてしまったが話が通じない為、少し考えながら答えた。



「バグは言い間違えたから置いといて。えっと、毎日経済新聞を見て、少し前に読んでいた雑誌の統計学を元に株取引のシミュレーションをしていたのを実践してみたら、めちゃくちゃうまくいったんだよ。」

「株ってそんなものか。そんな簡単ではないと思うぞ。」

「だってそうなったから、証券会社の口座にその残高が記載されてるでしょう。」

父さんは明らかに納得していなかったが、用紙の残高から眼を離さなかった。まぁ、俺でも理由がわからなかったら納得しないし、説得できるような説明とは自分でも思えない。


「で、お前は、これを見せてどうしたいんだい?」

ここで初めて黙っていたおじいちゃんが話を進めてほしいような感じだった。


「うん、こんなにうまくいくと思わなかったんだけど、この資金を元に投資会社を作って起業したいんだ。そして投資会社を日本最大の会社にしていきたいんだよ。」


「えっとな、別に株の売買であれば、わざわざ会社作らなくてもいいんだぞ。そのまま取引し続ければ、わざわざ会社作らなくても、個人投資家としてやっていけばいいと思うぞ。」

おじいちゃんはあきれながら俺を諭すように言ってきた。


「株の取引はこのまま続けるけど、株以外にも様々な事に手を出したいんだよ。まず投資会社を立ち上げたい。だからそのお手伝いをしてほしいんだ。だからこの場で父さんとおじいちゃんに相談しているんだよ。」


「まぁ、会社を未成年で作るのは問題ないが、お前の年齢で今、必要あるのか?お前4月から大学生だぞ。」

おじいちゃんはまだ納得できてない感じで返してきた。


「4月からたしかに大学生だけど、大学で学ぶことも大事だけど社会で学べることのほうが大事だから、会社作るなんてめったにない経験だから手伝ってほしい。なぁ、父さん。」

「っあ、あー。そうだな。」

残高口座を見ていて、あまり聞いてなかった父さんが気のない返事をした。



前世ではこの時期、華やかな大学生活を思い浮かべて、毎日高校時代のみんなと卒業前にカラオケ行ったり、図書館で歴史マンガを読んで大学までの入学期間を過ごしていたのを思い出していた。あの頃が一番人生で楽しかったかもしれない。実際に華やかかどうか怪しい大学生活だったし、楽しい大学生活を想像して勝手に思い浮かべて過ごしたこの期間は楽しい限りだった。



「でお前は、私たちに何を手伝ってほしいんだ。」

おじいちゃんが続いて、話しかけてきた。


「会社を立ち上げるのに必要な書類の準備と、設立のために司法書士の紹介をしてほしい。」

そう、うちのおじいちゃんは、少し前まで県庁の職員として定年まで過ごした。定年まじかの時には県の研修センターのセンター長をしていた。それまでの経験上、伝手はいくらでもあると思う。


「投資会社って会社形態はないが、株式会社ってことでいいんだな。設立の費用もただじゃないぞ。会社設立に2~30万必要なんだぞ。その費用はこの口座から出すのか?」

おじいちゃんは顎に手をやり考えながら、ゆっくりと話しかけてきた。


「投資会社はないから、形態的には株式会社かな。後、必要と思われるお金は銀行口座に移して引き出してあるよ。それと俺が会社の社長になるけど、おじいちゃんと母さんの名義を借りて、自分と3人で会社を立ち上げたいんだ。おじいちゃんと母さんは取締役にならないとね。父さんはサラリーマンだから、とりあえず今のままでいいけど。」


昼の出来事を思い浮かべ苦笑いしながら、馬券を買えずに増やすことができなかった現金が手元にあった。



「そして会社の住所もとりあえず、今住んでいるこの場所に立ち上げたいんだ。でも次の段階に進むときには、どこか拠点になるところが必要と考えているよ。当分の間は毎週土曜日の夜にこの部屋で会議して、現在の進捗と今後の方針を確認しながら進めたいんだ。いいかな?」


おじいちゃんもお父さんも黙って俺の話を聞いて頷いてくれた。


「わかった。お前の言う通り会社を立ち上げるか。まぁ儂も定年になってやることないしな。」


そう、俺のおじいちゃんは、仕事に対してまじめ一徹の人生で、前の人生では定年退職になってから一気に老けてしまって、その後アルツハイマー病にかかり家族に迷惑をかけてしまった人生だった。

 今回仕事を手伝ってもらうことで、一気に老けてしまうような人生ではなく、少しでもやりがいのある仕事を引き続きやってもらいアルツハイマー病の進行を少しでも遅らせればと思っている。



「やったー!なら、おじいちゃんには司法書士に連絡をして、うちに来てもらうよう頼んでおいてね。その時に必要な書類一式も持って来てもらうように伝えておいてね。」

そう、まだこのころはネットが発達してなく会社立ち上げるのにも何が必要かわからなかった。そのため司法書士さんから書類をもらうよう依頼した。



「わかった。来週中に時間が空いた時に来てもらうよう調整をするわ。日程は決まり次第、教えるから。後、印鑑証明など必要な物を集めとくぞ。」

おじいちゃんは、机の上にあった用紙に必要な事項を書きながら確認のため話した。おじいちゃんも話当初より真剣な表情をし始めた。机の上に置いてあったメモ帳に書き込みをしながら時たま独り言をし始めた。


「ありがとう。僕は引き続き株取引で口座残高を増やせように努力するから、毎週土曜の夜に集合ね。お父さんには、携帯電話を準備しておいて。プライベート用ではなく会社用として使うから、宜しくね。」

「あーあ、わかった。」

「携帯電話の購入費用は、領収書もらっておいてね。できれば会社設立後の経費にしたいから、手続きだけ進めて購入はまだ待っておいてね。」


(会議は無事に終わった。おじいちゃんに会社手続き丸投げしてしまったな。次回は、規模も大きくなってくるし、母さんとおばあちゃんにも状況は報告しないといかんかな。)



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今後の投稿について(近況ノート)

https://kakuyomu.jp/users/cyanmathu/news/16818093077115799325

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